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8、特別な存在 

窓から入る風が心地よい、

五月の中旬の頃。


あの日、丸山くんの家に行ってから、丸山くんが教室でも、私に話しかけてくれるようになった。


「金井、わりぃ、教科書見して」

「また忘れたの?しょうがないなぁ」

私は隣同士、机をくっつける。

嫌そうに言ってみたけど、本当はこの時間が好きだ。

「表紙が似てて間違えた」

丸山くんは、間違えて持ってきた教科書を見せた。

比べてみても、あんまり似ていなかった。

「全然似てないよ?」

私はなんだかおかしくて笑った。

「まあ、そこはあんまり追及すんなよ」

私の言葉に、丸山くんの顔が急に赤く染まった。


「え?」

丸山くんのその様子に、私はハッと気がついた。

そういえば、丸山くんが私に教科書を見せてと言う授業は、そんなに厳しくない先生の時ばかりだった。


もしかして、私と話すきっかけが欲しくて、わざと忘れているのだろうか。

いや、もしかして忘れた振りなのかも知れない。


「丸山くん……あのさ」

「何?なんか言った?」

いや、ただの偶然ってこともありえる。

私は丸山くんの返事が、自分の期待の答えとは違ったらと思うと、怖くて聞けなかった。


「見せてっていいながら、どうせ、いつも寝てるだけだなって」

授業中、隣に目をやると、そのほとんど、丸山くんは寝ていた。


「授業、つまんねーもん」

「まあ、確かにそうだけど……。あ!そういえば、こないだの似顔絵似てたよね」

この前、丸山くんが珍しく授業中起きていた。


真面目にノート書いてるのかなって、手元を覗き見したら、一生懸命、先生の似顔絵を書いていただけだった。

それが結構、特徴つかんでいたので、思わず噴出して笑いそうになったことがあった。


「今日は起きて金井の顔でも書いてやろうか?」

丸山くんが私の顔をマジマジと見始めた。

そんなに見つめられた照れるじゃないか。


「丸山!真面目に勉強する気がないなら、今すぐ、帰れっ!」

照れそうになったのを、私は加藤先生の物まねをして誤魔化した。

「言いそうだな。加藤の授業だけは、教科書忘れられねーな」

やっぱり気のせいじゃないかもしれない。

加藤先生の授業はあの日以来、忘れたことがなかった。

私、自惚れちゃっていいのかな……。



クラスの雰囲気もだいたいわかってきた、

5月下旬の頃。


席替えをすることになった。

それぞれ自分の机を運んで、クジで出た番号の場所に移動する。

私は一番後ろの窓際の席だった。


せっかく仲良くなれた丸山くんの隣から離れるのは、心苦しかったが、仕方がない。


私の隣に別の男子が来ようとしていた時、

「おまえ、そこ俺と席変わってくんねぇ?俺、あっちの後ろ端なんだけよ~」

「い、いいですよ、どっ、どうぞ」

男子は丸山くんにビクビクしながら、席を譲った。

「サンキュ」

みんな丸山くんを怖いと思っているのか、彼に話しかける人は少ない。

たまに丸山くんが話しかけても、こんな調子だ。

だからなのか同じクラスには友達は居ないようだ。


「金井、また教科書見せてな」

「男子にビクつかれてたよ。教科書、見せてくれる友達ぐらい作ったら?」

丸山くんとまた隣の席になれて、本当は嬉しいのに、素直になれない。

「めんどくせーよ。それに……俺には金井がいるからいいよ」

丸山くんの言葉に胸がキュンとなる。


ただ単に友達作るのが、本当に面倒くさいだけかもしれない。

でも、なんだか自分だけが、丸山くんの特別な関係になれた気がして、ちょっぴり嬉しかった。

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