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7、このままずっと甘えていたい 

「……俺んち戻るか?」

勢いで飛び出して来てもいくところがなかった。

だから丸山くんの申し出はとてもありがたいことだった。


でも、お母さんが入院中の今、丸山くんの家に戻るということは、一晩、丸山くんと二人っきりになるとういことだ。

私は少し複雑な気持ちになった。


丸山くんは私の考えていることを察したように言った。

「……キス以上のことはしねぇーよ」

「……バカ……、そこは手出さないって言うところでしょ?」

私は丸山くんの冗談なのか本気なのかわからない言葉に笑った。

いつの間にか、丸山くんの"バカ"って口癖が、自分にも、うつっているのに気がついた。


「金井が嫌がることはしねぇーってこと」

丸山くんは私の返事を聞く前に、

私の少し前を歩き、さっき来た道を戻り始めていた。


「それじゃあまるで私が……キスしたいみたいじゃん」

っと呟いてから、さっき丸山くんの家で、自分から誘っていたことを思い出して急に恥ずかしくなった。


「どうする?戻るか?」

どうやら、丸山くんには私の呟きは聞こえてなかったようだ。


私は振り返った丸山くんに、返事の代わりに小さくうなずいた。

他に行くところもないし、丸山くんに好意に甘えることにした。



丸山くんの家に戻ってきた。外が暗いせいか、さっきより部屋が冷たく寂しく感じた。

ああ、この部屋に丸山くんを一人ぼっちで帰さなくてよかったと心から思った。

部屋に入って明かりをつけると、ほぼ同時に二人のお腹がなった。思わず顔を見合わせて笑った。

丸山くんは腕まくりをすると、冷蔵庫を覗き込んだ。

「金井も、料理できんだろ?ありあわせで、夕飯作り合おうぜ」

「いいね、賛成!材料何がある?」

私たちは二人で対決しながら互いの夕飯を作り合った。結局、どちらの料理も美味しかったので、引き分けという結果になった。


夕飯が終わると、ずっと二人でゲームをしていた。肩がくっつきそうなくらい近くで、ゲームをしていても、丸山くんはキスどころか、触れることすらしてこなかった。それはもちろん宣言通りだったんけど、それはそれでどこかちょっぴり寂しい自分がいた。


しばらくゲームをした後、丸山くんは「ごめん、タバコ休憩」っとキッチンの方へ行ってしまった。一緒にいるだけじゃあ、タバコをやめさせるのは無理か。まあ、そんなに簡単にやめれたら苦労はしない。


「あのさ……金井はさ」

キッチンから急に丸山くんの低く遠慮がちな声が聞こえてきた。

「本当は、嫌いじゃないんだろ?その……母親になるかも知れない人のこと」

和室からキッチンにいる丸山くんの後ろ姿を見つめた。


「うん、嫌いじゃない。ただ……どう接していいか、わからなくて……あと、あんなデレデレした父親見たくない」

「俺もさ、……さっき病院であった母親、実は血は繋がってねぇーんだ」

丸山くんの言葉に、私は「うん」と、うなずく。初めて知ったみたいに驚いた方がよかっただろうか。でも丸山くんには嘘はつきたくなかった。

「病室で、お母さんから、少しだけ聞いた。再婚して二年ぐらいでお父さんが亡くなったことも」

「そか。俺さ……親父が事故で居なくなるまで、今の母親と全然仲良くできなくてさ。本当は母親が出来てすげぇ嬉しかった。だけど、俺も、金井と一緒で物心ついた時には父親しかいなかったし、母親に甘えたこととかなかったから、どう接していいかわからなくて……」

丸山くんはタバコを一口、吸って吐いた。

「ひどい八つ当たりとかもしたよ。親父が生きてる間、ちっとも仲良く出来なかったのに……そんな俺に、親父が最後に言ったんだ。……母さんを頼むって」

丸山くんはタバコの火を消した。

「俺、そん時、まだ十二歳だぜ!?……そんなん言われてもさ……俺は何も出来なかったよ。でも、母さんは俺が居てくれたから強くなれたって、俺がそばに居たから悲しみを乗り越えられたって……」

「素敵なお母さんだね」

丸山くんは私の方を振り返った。

「金井は、俺みたいに、後悔しねぇように、早く仲直りして、元気なうちにちゃんと祝福してやれよ?」

私は力強くうなずいた。

「ありがとう。私、頑張ってみるよ」



それからまたずっと二人でゲームを続けた。

気がつくと私はゲームの途中で寝てしまったようだ。

和室には丸山くんの気配がなかった。

丸山くんが掛けてくれたのだろう。

いつの間にか、私の上に布団が掛けられていた。


丸山くんはキッチンで、またタバコでも吸っているのだろうか。

起き上がろうとしたら、丸山くんが戻ってくるような気配がしたので、ひとまず寝た振りを決め込んだ。


寝た振りをしている私の布団を、丸山くんは優しくかけなおしてくれた。

「金井……お前は俺から離れていかないよな?」

切なく悲しげな丸山くんの声が、私の胸を苦しくした。

『私はずっとそばにいるよ』っと答えてあげたかったが、寝た振りを決め込んでいたので、起きるタイミングを逃してしまった。

そして、寝た振りをしていたつもりが、気がついたら、私はそのまま朝まで本当に眠ってしまった。

私が目を覚ますと、隣に倒れるように丸山くんが眠っていた。

どちらからか握ったか覚えていないが、私は丸山くんの手を握っていた。

丸山くんの体に何もかかっていなかったので、私は起こさないようにそっと、自分の賭け布団にいれてあげた。


私はそのまま隣で、丸山くんの寝顔を眺めていた。


聞きたいこと知りたいことは山のようにあったけど、今はとりあえず、このままくっついていたかった。


私は丸山くんの体に寄り添うようにくっついた。

丸山くんを起こしてしまったのか、気がつくと、私の背中に手が回されていて、優しく抱き寄せられていた。


声を出したら、この時間が終わってしまう気がして、私は眠った振りを続けた。



「……金井の甘えん坊……」

丸山くんは私の髪を優しく撫でた。

私は無言のまま、ぎゅっと丸山くんに抱きついた。

「あんまりくっつくと、襲っちまうぜ」

私はビックリして、丸山くんから慌てて体を離し起き上がった。


「もう……終わり?」

丸山くんも体を起こすと、捨てられそうな犬のような目で私を見た。

そんな顔をされると、もう一度、抱き寄せたくなる。


私が困っていると、丸山くんが笑い出した。


「バーカ、そんなんじゃ世界中の男の餌食にされるぞ」


……丸山くんこそわかってない。

私を一喜一憂させられるのは、あなただけなのに……。

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