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6、素直になれない 

ゲームに夢中になりすぎて、気がついたら19時をまわっていた。


「家まで送るよ」

日もくれてしまった上、道もわからないので、丸山くんが家まで送ってくれることになった。


「ちょっと遅くなっちまったな」

家の付近まで着いた頃には20時近かった。

「平気。うち、父親しかいないし、いつも帰りは遅いから」

こういう話をすると、必ず『ごめん』とか、『かわいそう』とか、『大変だね』とか言われる。

私はそれが苦手だった。


「ああ、だから、あんなゲーム上手いんだ?」

丸山くんの意外な反応に私はきょとんとした。

彼の反応は他の誰とも違った。

「俺と同じだな。俺んとこは親父がいねーけど」

そういうと丸山くんは嬉しそうに微笑んだ。


私は病院で会った丸山くんのお母さんとの会話を思い出しながら考えてみた。

自分の家族が継母しかいないって、いったい、どういう気持ちなんだろうか。やっぱり寂しくなったりするのだろうか。


そのお母さんにまで目の前で倒れられて、今、実は一人で居たくないくらい、ものすごく不安なんじゃないだろうか。


「また、一緒にやろうな?」

丸山くんの抱えてるものは、私なんかじゃ計り知れないものかもしれない。


このまま自分の家に帰って、丸山くんを家に一人ぼっちにしても大丈夫なのだろうか。


何も答えない私の顔を、丸山くんは覗き込んだ。

「……いやか?……」

丸山くんの寂しそうな表情に胸がキュンとする。


「もちろん、やりたい」

丸山くんのアップに私の顔が思わず赤らむ。

そんな私を、丸山くんは、またクスクスと笑った。


「金井がいうと、なんか、やらしいな」

「なっ、なんでよ!」

私は軽く叩こうとしたら、その手を捕まれた。


「顔赤いぞ……」

丸山くんは、私を恥ずかしがらせるためなのか、そのまま手を繋いで歩き出した。

「赤くないよ」

そう反論してみたものの、 手から伝わっちゃうんじゃないかってくらい、ドキドキが止まらなかった。


「……俺が色々教えてやるよ」

「え?」

私の体温はますます熱くなる。

「ゲームの話だぜ?」

「わ、わかってるよ」

勘違いさせようと、またわざとだ。

丸山くんには、からかわれてばかりだ。



「美弥ちゃん?」

私の家の前だった。

「美弥?」

後ろから二人組に呼び止められた。


私は振り返らなくても、その声の主がわかったので、繋いでいた丸山くんの手をそっと離した。


「美弥ちゃん、こんばんは」

「こんばんは」

私はそっけなく答えた。

この人は父親の新しい恋人だ。

たぶん、もうすぐ私の母親になる。


「美弥、また遅くまで遊んでたのか?美弥の……彼氏か?」

父親は私の隣に居た丸山くんをにらむように見た。


「失礼だよ、ただの友達。暗くなったから、わざわざ送ってくれたの。お父さん達こそデート?」

年甲斐もなく赤くなる父親。

「デートっていうか、美佐子みさこが晩飯作ってくれるって言うんで、今から家にだな……」


なんか嫌だなこのやり取り。私の心がもやもやする。

「へえ~、美佐子さんは今日も、泊まるつもりですか?」

私は父親の恋人に尋ねた。

私は彼女のことを嫌いではなかったが、急に自分の母親がなるかもと言われても、どう接していいか、わからなかった。


「美弥、その言い方はないだろ?」

彼女とのやりとりに、父親が割り込んでくる。

悪気はなかったが、またトゲのある発言をしてしまったみたいだ。


「いいのよ、清治せいじさん」

お父さんと彼女の仲むつまじい雰囲気に、イライラが増してくる。


「どうぞ、ごゆっくり。明日休みだし……。あっ!そだ!忘れてた!私、友達のとこ泊まる約束したんだった~行かなきゃ。……丸山くんも、送ってくれてありがとね~。じゃあ!」


私は一気に吐き捨てると、玄関の方へ駆け出していた。


「おい!美弥!」

後ろでお父さんの怒鳴り声が聞こえた。


流石に今の私の態度の悪さは、誰に言われなくても自分が一番わかっていた。でも彼女にどう接していいかわからない。

デレデレしてるお父さんにもイライラする。


父親と彼女が私を追って家に入ってきた気配がした。


私は部屋に入ると適当なカバンに、着替えなどを詰め込んだ。


開いていた部屋のドアの外から、彼女が遠慮がちに声をかけてきた。

「ごめん、美弥ちゃんが嫌なら私、今日は……」

全然わかってない。

彼女に帰られたら完全に私が悪者だ。

「遠慮せず、泊まっていってくださいよ」

私は荷物を持って部屋を出て、彼女の横を通りすぎた。



「美弥!どこへ行く」

玄関から出ていこうとする私の肩を、父親が掴んだ。


「友達と約束してるから」

私は父親の手を振り払うと、靴を履いて外に出た。

「おい!美弥っ!!」


家の外には、まだ丸山くんが立っていた。

「……ごめん、せっかく送ってくれたのに」

私はとぼとぼと、とりあえず駅の方へ歩き出した。


振り返ってみても、

父親は玄関から出てくる気配はない。

一度は止めるそぶりをするが、追いかけては来ない。


それが答え。

私より彼女の方が大事なのだ。


「……どこ行く気だ?本当は友達と約束なんかしてないだろ?」

丸山くんはこんな私を見捨てずに追いかけて来てくれる。

「気にしないでよ。どっか行くし……その辺のファミレスとか」



「……俺んち戻るか?」

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