5、好きってこういうこと?
「……まだ帰んねぇーなら、……あっちでやるか?」
私は丸山くんに促され、和室へと移動した。
「あの……丸山くん?……」
「やったことないなら、俺が教えてやるよ」
……つまり、そういうことなのだろうか。
私が知りたい丸山くんは、そういうことではなかった。
しかし、モテる男から考えると、キスしたいと言った相手が、もっと知りたいと迫ったら、こういう状態になるのが、当たり前のことなんだろうか。
恋愛経験がゼロな私には到底想像つかない状況だった。
半分は、自分から誘ったはずのこの状況に、体と頭がついていかず、私は棒立ちのまま動けなくなっていた。
心臓が痛いくらい脈打っていた。
「顔赤いけど……暑い?……脱げば?」
「て……手が震えて……」
緊張からなのか、手どころか体全体が震えが止まらないでいた。
丸山くんにそっと抱き締められた。
「俺が怖い?」
私は首を小さく横に振った。
不思議と怖さはなかった。
「……甘えるのは、俺だけにしろよ?」
そう囁く丸山くんの唇が耳もとにくすぐるように触れて、私の緊張はMAXになる。
私は丸山くんの背中にまわした手で、彼のシャツをキュッと掴んだ。
丸山くんは私の頭の後ろに手をかうと、少しずつ私を床に押し倒した。
「丸山くん……」
お互いの気持ちを確かめ合ってないのにとか、
付き合ってないのにとか、
普通なら、当たり前に気になることが、その時は頭の片隅にも浮かばなかった。
何故、こんなにも丸山くんに惹かれるのか、自分でもわからなかった。
「金井……」
丸山くんが私にキスをしながら、私の上着のボタンを外していく。
私は目を閉じ、全てを丸山くんにゆだねようと思った。でも、覆いかぶさっていた丸山くんが、急に私から離れた。
「丸山くん?」
私がきょとんとしていると、
「ほら、やるぞ」
っと、丸山くんは起き上がった私に、ゲームのリモコンを差し出した。
「え!!ゲーム!?……やろって……もしかして、このことだったの?!」
「俺は最初から、ゲームやろうって誘ったつもりだったけど、金井がなんか勘違いしてるから、反応が可愛くて、ちょっと意地悪してみた」
「……バカ」
私は一人でその気になってて、恥ずかし過ぎて、泣き出しそうだ。
「悪かったよ」
丸山くんは笑うのをやめると急に真面目な顔で、私の頬に触れた。
「でも……金井も雰囲気に流され過ぎ、そんなんじゃ誰にでもやられちゃうぜ」
確かにその場の雰囲気に流されているところもあった。
でも、その相手が丸山くんじゃなかったら、このまま流されてもいいかな、なんて思っていなかったと思う。
その気持ちが『好き』ってことなら、たぶん、私はもう丸山くんが好きなんだと思う。
「簡単じゃない!……私……丸山くんがっ」
「ゲームやるか?それとも、帰る?」
私の告白を、丸山くんが遮った。
偶然ではなく、完全にわざとだろう。
丸山くんは、今はそれ以上口にするなって顔をして私を見ていた。
「ゲームする?もう、帰る?」
丸山くんがもう一度私に尋ねた。
「……ゲームやりたい」
丸山くんは私の返事に嬉しそうに微笑んだ。
それから、私たちは気がつけば、何時間も二人でゲームをしていた。
「あ、丸山くん、ずるーい!」
「ずるくねぇよ。作戦だ」
二人でやるゲームが、こんなにも楽しいなんて知らなかった。
私は母親を早くに亡くしてから、ずっと父親と二人暮らしだった。
その父親も仕事で留守がちだったから、私はいつも一人でゲームすることが多かった。
「金井、運いいな~」
「えー運じゃなくて、実力だよ」
誰かとテレビゲームなんて、初めてのことだった。
「金井、なかなか、やるな~」
丸山くんもすごく楽しそうで私も嬉しかった。