表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

1、これって恋のはじまり? ~Is there love in the air?~

私は自分のことが、大嫌いだった。

口下手で、思ってることの半分も伝えることが出来ない。

度々、思ってることと真逆に取られて誤解された。最初のうちは、どうにか誤解を解こうと、頑張って説明しようとしたけど、どんなに言っても無駄だった。

そんなこと繰り返してるうちに、だんだん……わかってもらえないならもういいやって、最初から諦めるようになった。

そんなことをしてたら、気がつけばいつも一人ぼっちだった。


一人は楽だった。


気を使わなくていいし、何より自由だった。


でも、そうやってずっと一人で居たら、いつの間にか自分に自信が持てなくなって、誰かと関わることが怖くなった。そして、どんどん自分の殻に閉じ籠るようになった。


本当はすごく寂しかったけど、一人でも平気だと自分にそう言い聞かせていた。


本当はずっと誰よりも誰かを求めていた。

そのままの自分をわかってくれる人が欲しかった。


変わらないと。


こんな自分は嫌いだ。


変わりたい。


大嫌いなこんな自分を少しでも変えたかった。でも、過去の自分を知る人の中で急に変われる訳がなかった。


そうだ!自分のことを誰もしらない高校……それならそれが可能な気がした。


そんな安易な理由だけで、不良ばかりの誰も行きたがらない高校、中学以前の知り合いの居ない学校を、私は選んだ。



高校の始業式。

私は体育館に集まっていた生徒を見て愕然とした。

昨日の入学式に居たはずの黒髪の生徒は打って変わって、茶色の髪へと変わっていた。

昨日ずっと感じていた違和感。ああ、これだったんだ、と、私は理解した。


昨日はこの不良高校にはそぐわないくらいの真面目な格好の生徒ばかりだった。


実際は今日のこれこそが、この高校の本当の姿なんだろう。

茶、赤、緑、青に金髪。中が見えそうなくらい短いスカートの丈。今にもずり落ちそうなズボン。耳や鼻にはピアスが数個。

真面目そうな格好な子は、ほんの一握りだ。

でも今日、真面目な子も、きっと明日には、この空気に染まっているだろう。


ダメだ。失敗した。


私には出来ない。


髪を傷めるのが嫌で、生まれてこの方、染めるどころか、ストレートやパーマさえあてたことがなかった。

かといって、ピアスも痛そうで私には無理だ。


まあ、たとえ、頑張って見た目だけ合わせることが出来たとしても、根本的なところが変わらない限りは、結局は同じ過ちを繰り返すだけだろう。


なんとなく体育館に生徒が集まり始め、先生達に整列するように言われた。

もうすぐ始業式が始まりそうな少しガヤガヤする中。


「丸山、遅いぞ!……おまえ、なんだ!?また派手なその髪の色は!」

遅れて入ってきた男子生徒が、体育館の入り口で先生に注意されていた。

「イメチェン。今回のもいい色だろ?」

遠めから見ても、一際、目に付く赤髪あかがみだった。

いくら不良高校でも、そんな奇抜な髪の色をしていたら当たり前に指導されるだろうに、何を考えているのか、先生に赤髪を自慢げに見せている。


先生へのその堂々たる態度から見ても、同じ一年生ではないのはすぐにわかった。

案の定、彼の足元に目をやると、上履きの色が自分の青色の物とは違った。


緑色。あの色は二年生だ。


「丸山!後で職員室まで来なさい!」

「はぁ?誰が行くか、めんどくせぇ」

丸山くんは、先生に歯向かうように言葉を吐くと、両手をポケットに入れ、ヤンキー特有のオラオラ感溢れる歩き方で、私達が並んでいる列へと入ってきた。


丸山くんが、私のすぐ横まで歩いてくると、ほんのりといい香りがした。コロンでもつけているのだろうか。


「わりぃ、俺ここなんだけど」

っと、私の右隣に居た男子に声をかけた。


「す、すみません」

明らかに怖そうな丸山くんに、声をかけられた男子はおどおどペコペコお辞儀をしながら、彼を自分の前へと入れた。


入るところ間違えてるよね。私は思った。この列は新入生。上級生はもっと左側の列のはずだ。


でも誰も間違いを指摘しない。


彼の上履きの色が周りとは違うことに、私の他には誰一人気がついていないのか、はたまた、彼の髪色が派手なことと、さっき先生への態度のせいで、みんな怖くて何も言い出せないのだろうか。


そういう私も、間違いを指摘出来ずにいた。

でも、私の場合は丸山くんが怖そうだからとかじゃない。

今まで人と関わることから避けていたから、声をかけるタイミングがつかめないだけだった。


私は横目でチラッと彼の方を見た。

先生への態度は悪かったが、きれいな顔立ちで女子受けはよさそうだ。

やわらかそうなふんわりパーマに、後ろが短めのマッシュカット。長い前髪が目にかかっていて、表情がよく見えない。


近くで見ると、本当に綺麗な赤い髪だ。

奇抜な色のはずなのに、不思議と彼には似合っていた。


横目で見ていたつもりが、いつの間にか、私は丸山くんを凝視していた。 綺麗な髪に見惚れて、彼から視線を外すのをすっかり忘れていた。


「あ?なんだよ?」

どうやら私がジッと見ていたことが、気に触ったようだ。

丸山くんは目にかかった前髪を片手でどかしながら、するどい目付きで私をにらみつけた。

にらまれたはずなのに、前髪に隠れてたその顔が、想像以上にカッコ良くて、私の胸がドキンと高鳴なるのを感じた。


「なんか言えよ」

丸山くんは、何も答えない私に明らかにイライラしてた。

何か言わないと……

「あっ、赤い髪、似合ってるね、素敵」

私は動揺し過ぎて、思わず変なことを口走ってしまった。 自分の発言に、顔がカッと熱くなるのを感じた。


「バカか……」

呟くように丸山くんが言った。

そして、私のことなど、興味なさそうにそっぽ向いた。

でも、そっぽを向いた丸山くんの耳が、ほんのり赤らんでいるように見えた。


始業式が終わり、教室へ向かう途中。

丸山くんだけが、別の方へと歩いて行く。

職員室に行くのかとも思ったが、あきらかに逆方向だった。


今までの私なら他人に関わるようなことは絶対にしない。

でも、丸山くんに睨まれたあの瞬間から、私の心に何かが引っかかって離れなかった。

私は探偵のようにコソコソと、丸山くんの後を追った。


後を付けていくと、バスケ部と書かれた部屋に入って行くところだった。

このまま中に入られてしまったら、流石にその扉を開けて入る勇気まではない。


思い切って、

「ねぇ?どうしたの?何してるの?」

っと、私が声をかけると、丸山くんは迷惑そうな顔でこちらを見た。


「なんだ、おまえ、さっきの……。なんで、付いてきた?」

付いてきてしまった理由なんて、私にもよくわからなかった。

ただ、気になったからなんて、軽い告白みたいで、恥ずかしくて言えなかった。


「しょ、職員室、行かなくていいの?さっき先生に言われてたでしょ?」

そんなこと本当はどうでもよかったが、他に言える言葉が出てこなかった。


「バーカ、行くわけねぇーだろ。おまえこそ、早く教室に戻ったほうがいいぜ」

丸山くんは、私をその場からさっさと追い払いたかったみたいだ。

でも、その場から動こうとしない私に、丸山くんは面倒くさそうに軽くため息を付いた。


「今、誰もいねぇーし、入れば?」

丸山くんに誘われ、私は部室の中へと足を踏み入れた。

中に入ると、どこかで嗅いだことあるようなほんのり嫌な臭いと、同時に丸山くんと同じコロンのいい香りがした。


「鍵、かけろよ」

丸山くんに言われ、私は少し戸惑いながらもドアの鍵を閉めた。


私が鍵をかけたのを見計らうように、丸山くんは部室に置いてあった鞄から、なにやら四角い箱を取り出した。


タバコだ。


丸山くんはその箱から、ライター、それにタバコを一本取り出すと、 口にくわえ火をつけた。窓際に置いてあった空き缶を灰皿代わりに持ってくると、手近にあったパイプ椅子を逆向きにし、またがるように座った。


無駄のない、手慣れた動きだった。


「おまえも、こっちきて吸うか?」

丸山くんの言葉に、私は激しく何度も首を横に振った。

未成年はタバコを吸ってはいけない。

丸山くんだってそんなことは言われなくても、わかっているはずだ。


「そう」

っと短く言うと、丸山くんは、それ以上は勧めてこなかった。


「……禁断症状……」

丸山くんが呟いたそれが、さっきした私の質問の答えだと気づくのに少し時間がかかった。

その言葉からも、タバコを吸うのが今日が初めてではないことがわかった。


タバコを吸う丸山くんは、何故か少し寂しそうに見えた。


心にある寂しさをタバコで誤魔化しているみたいだ。


タバコを吸うことなんて少しもカッコいいと思えないし、体を悪くするだけ。いいことなんて一つもないし、すぐにでもやめた方がいいと思った。


「背、……伸びなくなっちゃうよ?」

私はまた、思っていることをきちんと言葉にすることが出来なかった。

本当に伝えたいことはそんなことじゃなかった。


丸山くんは無言で立ち上がると、私に近づいてきた。

不思議と怖さは感じなかったが、私はなんとなく後ずさりをした。


私はいつのまにか、壁際に追いやられていた。

背中はもう壁だ。

これ以上は下がれない。


その時、丸山くんの手が振り上がった。


叩かれるのかと思って目をぎゅっとつむってみたが、その手は私の頭上に優しく置かれただけだった。


「ちっせぇーな」


そう言われて彼の方を見上げると、頭一つ分以上は高い位置に丸山くんの顔があった。

目の前に立たれると、自分が思っている以上に丸山くんの背を高く感じた。


「……おまえ、いくつ?」

「え?」


よく見ると、丸山くんはタバコを持つ右手を不自然に横へと伸ばしていた。 煙が少しでも、私の方にいかないように気にしてくれているようだ。

そんなに人を気遣う優しさがあるなら、吸わなければいいのに……。と、思ったけど口にはしなかった。


「身長だよ」

「……154センチ」

「ちっせ」

丸山くんはフッと鼻で笑うと、タバコを一口、寂しそうに吸った。


「おまえは吸うなよ」

そういうと、丸山くんは、また元の椅子に座りなおした。

そして、私がここにいることさえすっかり忘れてしまったかのように、またタバコを吸いだした。


「む、無理だよ……もう、少し吸っちゃった……」

沈黙を破るように、私は無意識につぶやいていた。

私は丸山くんを困らせたかったのだろうか。

何故そんな言葉を口にしたのか、

自分でも、よくわからなかった……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ