ヴェルデとナランチ
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魔力切れか。
俺も前になったことあるけど、戦場なら即死亡だよな。
そういえば最近は魔力切れの前兆すら感じないけど、魔力の総量は如何程までは増加したのだろう。
ドライ先生が所有する計測の道具みたいのではなくて、数字ではっきりと示すような物はないのだろうか。
今度調べてみよ。魔法学校ならありそうなもんだよな。
「━━くん、ヴェルデくんってば。聞こえてませんか━?」
「あっ、すいません」
考え事をしていて全然聞こえてなかった。何度もヴィヒレアさんが呼んでいたようだ。
既に中央には対戦相手のナランチが今か今かと待っていた。
これから戦場へと赴く男の顔。と、思ったらそれには程遠い顔だ。何だか青ざめた顔をしている。
腹痛か?
俺はとりあえず中央まで歩いていく。その間、誰からも見えないように、聞こえないようにこっそりと服の中で杖を出現させる。いつもの短めの杖だ。
そしてナランチの側へとやってきた。
審判を務める上級生の人は少し離れたところで待機をしている。
「そんな青ざめた顔をしてどうかしたのか? 体調悪いなら言った方がいいぞ?」
「あの…ぼく…杖を無くしちゃったみたいで……どうしよう…」
「……ああ、そういうことか。 それはどんな杖だい?」
「普通の片手杖なんだけど…あれがないと魔法使えなくて……」
「あちゃー。 それは困ったね。……使い勝手が違うだろうけど、これでよければ貸してあげるよ!」
俺は愛用の杖を差し出した。
「…えっ!でも、これ大事でしょ?」
「ああ、でも予備があるから大丈夫だよ」
ぶっちゃけ杖なくても魔法使えるしね。
ぶっちゃけないけど。
「じゃあ……お借りします。ありがとう」
「あいよ」
丁寧に両手で受けとるナランチ。
会釈をし杖の感触を確かめ、そして構えた。
それを見た俺も戦闘準備をする。
杖を出すくらいしかないけど。
こっそりと服に腕を忍ばせ「黒王樹」と小声で呟いた。
そして取り出し、構える。
二人が準備できたのを確認した上級生は、腕を上げ勢いよく振り下ろす。
「第二試合っ!はじめっ!」
すぐにナランチは魔力を練り始めた。
杖先をこちらに向け目を閉じている。
(この子も詠唱魔法ね。 今年の子達はほんとに大したものだわ。 ……しかし、二人が持っている杖は何の材質かしら?見たことないわね)
ヴィヒレアは離れたところで観戦しているが、視力が良く、見覚えのない二人の杖に注視していた。
俺はナランチを見ているだけで何もしない。
出方を待っているのだ。
あんなにピッチリと目を閉じていたら相手の攻撃を避けることもできなければ、見失うかもしれないのに。
まあ戦場での戦闘経験がなく、未熟な子供であるならばこんなものなのだろう。
しかし、攻撃発動までが長い。
欠伸がでてきた。
漸く、ナランチは魔力を杖先に集束させると詠唱を始めた。
「紅の灼熱 黒は討滅 我が手で混じり合い彼の者を灰と化せ━━━ラバボール」
すると杖先から赤黒く表面はふつふつとし、湯気のようなものを出した玉が俺をめがけ真っ直ぐに飛んで来る。
それは金属を熱してドロドロに溶かしたようなやつだ。
子供の拳くらいの大きさで一つ。
先ほどの二人よりは遥かに大きいだろう。
会場がざわざわとしている。もちろん、さっきよりもざわつきはすごい。
チラッと先生方のほうを見ると、立ち上がって興奮している人もいるではないか。
しかし俺はその空気についていけない。
なぜなら玉はさっきより大きいとはいえやっぱり小さいし、なにより遅いっ!
のろのろのろのろと。絶対当たらないわ。
まあこの歳でそこまで出来たなら将来が楽しみといったところだろうか。
ナランチはハアハアと息を切らし杖を見つめている。
あの息切れは魔力切れの兆候だろう。
杖はあまりしっくりこなかったのかな。
あの見つめようは、もしかしたらいつもよりも威力が出なかったのかもしれない。
その間にも進み続ける魔法の玉は、俺とナランチのちょうど半分の辺りに差し掛かった。
もちろん、ここに到着するまで待っている俺ではない。
ということで反撃だ。反撃とは言えないかもしれないが。
俺は杖先をナランチに向けるようにして手に乗せ、風魔法をかける。
すると杖は先と後ろを軸に螺旋回転を始めた。
遠目には杖をただ乗せているように見えるだろうが、手の上で高速回転をしている。
次第にキィィンと耳障りな音を立て始めた。
狙いを魔法玉に定めつつ、後ろのナランチの体に掠めるくらいに━━あっつっ!
回転摩擦が熱すぎて、思わず手を振ってしまった。
あ、やばっ。
杖は音を立てながら真っ直ぐに飛んでいき、かろうじで魔法玉にぶつかる。
端に当たっただけの魔法玉は、四方八方へ弾け飛んだ。
近くに人がいたら大惨事だ。
杖の勢いは少しも衰えることなくナランチの頬を掠めると、そのまま後ろの壁に激突。
ドカァンと壮大な音を立てつつ、杖より遥かに大きなクレーターを作り、壁の中まで突き刺さって見えなくなってしまった。
「━━ひッ!」
ナランチの頬をツーっと血が伝う。
かと思えば、地面の刻印が光り一瞬にしてその傷を塞いでしまった。
ナランチは頬についた血を気にすることもなく、後ろを振り返り、その惨状に絶句した。
そして俺も絶句した。
壁、硬いって言ってたのに……。
御神木の時と同じことしちゃったよ。
あっぶな。
しかし外れてよかった。
あそこまで威力でるとは思わなかった……。
即死はダメだっていってたし。
「こ、降参します」
ナランチはもう魔力の残量も乏しく、壁の状態を見て戦意を喪失していたのだった。
「そ、そこまでっ! ヴェルデ・ブルノーブルの勝ちとする!」
審判の声だけがドーム内へ響き渡る。
会場は静まり返っていた。
そこにいる多くの者が何が起きたのかいまいち理解できず、言葉も出なかった。
その生徒達の中でも勧誘のために来ていた者、特にクラブの長達と生徒会の会長を含む数名は、戦闘の内容をメモ用紙と記憶に刻み込んでいた。
先生達は数名は賞賛する者と恐怖を感じている者に別れた。
ただ、それは心に抱くだけであり、口に出す者も顔に出す者も一人としてこの場にはいない。
マホンは驚愕にまばたきすることも忘れ、食い入るようにヴェルデを見ていた。
(……なんだあれは……相手の魔法は分かるけど、アイツのあの飛ばした物は杖?杖なら木っぽいけど……熔属性の魔法に燃えずにとは……いやいや、それよりもあの威力は……アイツ何なんだ)
俺は降り注ぐ視線にいたたまれなくなり、ナランチを見た。
ふと目が合った気がしたけど、ナランチは杖を握りしめたままヴィヒレアさん達のほうへとさっさと戻ってしまった。
杖を返しなさいよ。
しっくりこなかったんじゃないのかよ。
とりあえず最後の試合も始まることだし、俺もそっちへと移動することにした。
観戦していたヴィヒレアさんは目を丸くしていた。
自信家のキザなソルフも目を丸く、いや違うな。
丸いではなく、細めていた。眉間にシワも寄せて。
気にくわなかったのだろうか?目をつけられてしまったのだろうか。
一応ニコッとしてみたのだが、チッと舌打ちが聞こえた、気がした…。
気のせいかな。気のせいだろうな。
「最後の試合を始める! ソルフっ!スンタラっ!中央へ」
審判の呼び声が聞こえ、止まった場がまた動き出した。
ソルフは俺に一瞥をくれると、またチッと鳴らし中央へ歩いていった。
気のせいじゃないね。
「…………」
とりあえずナランチくん、杖を返しておくれ。
花粉がきつい。
目がしゅぱしゅぱして執筆か思うようにいかない……。
言い訳です。すいません。




