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樹属性魔法の使い手  作者: 深海 和尚
冒険者登録編
16/68

マホン・トンプソンの闘い

アクセスありがとうございます。

 ギルドの裏手にある鍛錬場。

 数十名は収容できるほどの大きさをもつ広場中央には、マホンとスキンが一定の距離で相対している。


 広場中央には二人しかおらず、囲むように円に広がるのは俺にマリンさん、ギルドマスターに野次馬で見にきた冒険者達数名だ。

 俺は帰ろうとしたのだが、マホンに睨まれ強制連行されてしまったのだ。


 広場は鍛錬のためだろうか、地面はボコボコであり金属や木製の残骸がちらほらと落ちている。

 壁には血のようなものがいくつも付着し、蜘蛛の巣状に入ったヒビが鍛錬の激しさを物語っていた。

 そして、隅の一画にはトレーニング用の道具が積まれている。

 個人で黙々と鍛えてもよし。人と人とが実戦練習をしてもよし、と言ったところか。


 その一画に何本も置いてある木刀のうち、比較的キレイな一本をスキンは手に握っている。


「坊主。 これは木でできているが骨の一、二本は覚悟しろよ。 俺はな、闘いとなったら手加減きかねーからな」


 マホンさん、二日後に入学式でっせ。

 骨折ったらまずいっすよー。


「ふん。 ボクを子供だと嘗めたこと、剣を向けたことを後悔させてやる」


 小太りでスルスルイカかじってる変な奴だけど、なんだがカッコいいじゃんか。


「そうかい、そうかい。 じゃあ俺が先輩として世の中の厳しさを教えてやろうかね」


 そんなスキンは銀ランクの冒険者だ。

 いくらなんでも子供のマホンには厳しいだろう。

 入学すらしていない子供ができることなんて、精々魔力操作くらいだろう。 

 方や銀ランクの冒険者。もうベテランさんだ。

 誰の目から見ても結果は明らかだ。スキンの勝利を確信している。ただ一人、本人を除いて。


「勝つのはボクだっ!」


 マホンは木刀を持たなかった。

 それどころか両手に何も持っていない。

 ここにいる誰もが思った。どうやって闘うのか?と。

 隠し武器の類いは見えない。

 魔法の使い手としては幼い。使えるにしても詠唱すらしていない。触媒の道具もない。魔道具らしき物もない。


 だからスキンは油断していた。

 何の武器も持たない子供に警戒する大人は早々いない。

 相手が手練れと知っているならまだしも、冒険者として成り立てのガキだ。


 そしてマホンの腕が上がる。

 次の瞬間。


「━━がっ!」


 スキンには何も見えなかった。

 何かの飛来音がしたような気はしたが、何が起きたのか分からなかった。

 木刀を握っていない左手がだらんとぶら下がる。肩に激痛が走り、腕が上がらないのだ。


 見ればマホンが手のひらを見えるように開いて腕を前に突きだしていた。 


「━━あれは……」


 マスターじじいが俺の隣で呟いた。


「分かるんですか?」

「うむ。おぬしの友達はトンプソン家の者か?」

「はい。彼はマホン・トンプソンと言います。 知り合ったばかりで友達ってわけでもないですけど……」

「そうかそうか。 わしも実際に見たのは初めてだが、これはなかなかのもんじゃな。あれはな…、トンプソン家、一子相伝の秘術にして魔道具『ファンタズマゴリア』じゃ」

「魔道具?ですか。 なんですかそれ」

「まぁ簡単に言えばじゃ、砂鉄を自由自在に操る魔道具じゃな。 どれが魔道具になっているのかはワシにも分からんがな……しかし、末恐ろしい……」


 その間にも砂鉄の弾を凄まじい速度で飛ばしていく。

 もちろんスキンの肩を貫いたのもこの砂鉄の弾である。

 目に見えて出血が酷い。


 マスターじーじが末恐ろしいと言ったのは、この魔道具の扱いではなく、子供なのに躊躇なく人を傷つけることができるその性格のことかもしれない。


「━━くそっ!」


 回り込むように走りながら、なんとかギリギリで躱していく。

 とばっちりを受けるのは周りの野次馬である。


「うわぁー!死ぬ死ぬ!」「逃げろ!逃げろ!」と、てんやわんやであった。


 弾を繰り出していくマホン。


 あれ?なんか少しほっそりした?

 小太りのような着膨れしていたようにも見えたマホンが、心なしか少し痩せたようにも見える。


 一発大きいのをもらってしまったが、スキンは腐っても銀ランクの冒険者。避け続けた末に、一気に間合いへ飛び込んだ。

 そして、木刀を振り上げる。 


「痛ぇーのくれやがって。 死ぬなよ? 『ハードクラッシュ』」

 スキンは力任せの重い一撃を振り下ろした。

 その一撃は岩石にもヒビを入れる。

 子供の骨なら即、粉々だろう。


 しかし、鈍い金属音を響かせて木刀はマホンに届かない。

 マホンは両手に構える金属の剣でそれを防いでいた。


 (おいおい、なんだこりゃ。 岩にもヒビを入れる一撃だぞ? それを子供が防げるわけないのに。 というか、これはどうなってんだ?)


 マホンは剣を構えているが、剣はマホンと一体化してそのまま全身を金属の鎧で覆いつくしている。

 甲冑を着込んだ騎士のようであるが、剣先から頭、そして足まで繋ぎ目が一切ない。


 その塊にスキンはもう一撃いれようと木刀を再度振り上げようとする。が、木刀はびくともしない。


「━━なんだ?!」


 見ればマホンの剣と接触している部分から鉄に取り込まれていた。

 木刀が使えないと見るや、すぐに手を離す。そこはスキンは熟練の冒険者。判断が早かった。

 新たな木刀を取りに行こうと、後方にある一画へ振り向く。

 しかし向けたのは上半身だけだった。

 体を捻って後方を向けただけだ。

 固定されたのは木刀だけにあらず、足もまた砂鉄により鉄の塊となっていた。


「おっさん、またこっちのターンだよ。━━魔剣術『鉄百貫』」

 突如、後方よりマホンの声がする。

 咄嗟に振り向くスキン。

 金属のマホンはそのままだ。木刀も取り込まれている。

 気配は━━━上空からだ。

 スキンは見上げた。

 しかし、足も固定され反応が遅れてしまう。

 瞬間。


 ガァーン。


 脳天を刃の無い鉄の剣が殴り付けた。

 鈍い音が鍛錬場にこだました。


 鉄の像をそこに残したまま上空へ飛び上がったマホンは、刃の無い剣を空中で形成、膨れ上がったその重さ実に375キロ。

 そしてその重さを利用してスキン目掛けて降り下ろしたのだ。

 その一撃はあまりに()()、スキンは一瞬にして意識を刈り取られてしまったのだ。


「勝負ありっ!じゃな」


 勝敗は決した。

 誰もが予想しなかったまさかの結果に野次馬からは喚声があがる。マホンは無言でスキンを見下ろしている。

 もっと喜ぶかのと思ったけど、実にクールだ。


 マスターじーじはスキンの容態の確認と回復魔法師の手配をするよう、マリンさんに指示を出した。

 マリンさんはスキンをちょっと確認しただけですぐに鍛錬場を後にした。顔は青ざめているようにも見えた。 

 スキンは遠目にも重症に見えた。肩からの出血に加え、頭からも夥しい量が流れ地面を赤くしていく。

 これはけっこうやばそうである。


 

 俺は見ていた。

 あの小太りのマホンが空中に飛び上がった瞬間を。

 いや、スキン以外のここにいる観客のほとんどは見ていただろう。

 マホンは小太りではなかった。顔のわりに体が太ってんなとは思ってたけど、あれは砂鉄が体を覆いつくしていたんだろう。

 地面の像も、空中で剣を創る時にもそれを利用したんだ。

 本来のマホンはずっと細い。しかも、あの砂鉄が日頃重りの役目をしているのか、細身の彼は、その動きが子供とは思えないほど速かった。


 と、そんなことを考えていたらマリンさんが息を切らして戻ってきた。


「マ、マスターっ! 回復できる者がいません!! というか、あの傷は深すぎて魔法では治せません! なので、ハイポーションをあるだけ持ってけませた!」


 あっ、噛んだ。

 あれくらいなら、前世ではすぐ治せたはずだけどなあ。

 この世界では無理なのか…。


「うむ。 確かに回復魔法では無理か…。 よし、ハイポーションを使え! スキンには働いて返してもらうぞ」

「は、はひっ!」


 マリンさんが持ってきたハイポーションは四本だ。二本ずつ頭と肩にぶっかける。

 すると、途端に白い湯気のようなものが上がる。


 出血の勢いは少し弱くなったか?

 でも、傷口は塞がらず、そこまで好転したようには見えないな。

 ……これでハイポーションすか?

 なおんねーでねーすか。

 ポーションだとどんだけだよ。

 最早、ポーションなんて水と変わらねんじゃね?


「よし、マリン。 これなら死にはしないな。 あとは縫って安静にしたらよいじゃろうて」


 まじかよ。

 おっけーでちゃったよ!


「ふう。 なんとかなりましたね!マスター」


 なってねーよ。

 まだ出血が続いてるよ?

 死ぬよ?

 この世界の基準、色々やべーす。


 それを聞いてか野次馬は次々と鍛錬場から出ていった。

 マホンもいつの間にかいなくなっていた。


 残っているのは、俺とマスターとマリンさんにスキンだけだ。


 う~む。

 しゃーねーなー。


「マスター。 ちょっといいですか?」

「何じゃ小僧。鍛錬場を使いたいなら後にしてくれ」

「いやいや、違いますよ。 スキンさんを治せるんですけど━━━」

「なんじゃと小僧っ! まさか大回復魔法の使い手か?いや、そんな、そんなまさかエクスポーションを持っているのかっ! あーっ!はたまた霊薬エリクサーかーぁぁ?!」 


 うっせーじじいだな。何も言ってねーし。


「……いや、違いますね」

「マスター、落ちついてください。ヴェルデくんはまだ何も言ってないですよ。 それにそんなものはこの世界には存在しないですよっ!」

 マリンさんはどうどう、とマスターじーじの背中をポンポンする。

 馬かっ!


「む。 じゃあ何じゃ」

「あの…、魔法なんですけど…」

「魔法じゃと? 見たところ、おぬしは樹属性じゃが? 回復魔法なら光か聖属性じゃないと無理だろうて」

 隣でマリンさんがうんうんと首肯している。


「まあそうなですが、とりあえずやりますんで秘密にしといてもらえますか?」

「うむ。やれるもんならやってみい。 出来たなら秘密はもちろんじゃ。なあ、マリン?」


 マリンさんは目を閉じ話半分で頷いている。

 信じてはいないようだ。


「わかりました。 では━━黒王樹(ブラックキングウッド)

 俺の手の中に馴染みのある木の杖が現れる。


「━━な、なんじゃ! それはなんじゃ!」

「マ、マ、マスター! なんか出ました!なんか出まひは!」


 二人がとてもうるさい。

 なんか出たってなんだよ。幽霊(ゴースト)かよ。

 この世界にも幽霊(ゴースト)はいるのだろうか。


 そんなことはさておき。

 あまり時間も無さそうなので次。


月光草の花(ムーンドロップ)」 


 俺が杖振るうと、地面にポコンと一輪の花が咲いた。

 ほんのり青白く輝く姿はとても神秘的である。

 これはもちろん魔界で咲く花だ。満月の光りが差し込むキレイな湖の畔にしか咲かず、花弁は開いてから一分もしないうちに閉じてしまう。

 閉じる前に採取しないと効果はないのだが、その開いた花弁に溜まっている雫はありとあらゆるケガや病気を治すのだ。

 伝説級ではないが、その条件の厳しさから貴重な花であった。

 まあ前世では俺はこれでも治らなかったから万能薬というわけでもないが。

 もしかしたらあれは呪いの類いだったのかもしれない。



 俺はすぐさま花をむしり取り、その雫をスキンへと振りかけた。青白い光に包みこまれるスキン。

 次第に呼吸は落ち着いていく。


 それから数瞬後、スキンは全てのケガが完治したのだった。

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