黒い家
貴志祐介は作家になる前は保険会社で働いており、この『黒い家』も保険会社での経験を元に執筆されています。保険会社とホラーと聞くと、一見結びつかないように思えますが、貴志祐介は自身の体験談から非常に現実感のある舞台を作り上げています。こうして現実感を出したことで、「人間の持つ本質的な怖さ」が際立ったのだと思います。
以下『黒い家』の大まかなあらすじです。
「大手生命保険会社「昭和生命」の京都支社で保険金の査定業務を担当する主人公・若槻慎二は、保険加入者である菰田重徳からの呼び出しにより菰田家を訪問するが、そこで菰田家の子供(妻の連れ子)が首を吊った状態で死亡しているのを発見してしまう。
事件の疑いが濃厚な事案であったことで、昭和生命は保険金の支払いを保留していたが、重徳は執拗に支払いを求める。疑念を抱いた若槻は、一連の事件の首謀者を重徳と推測し、妻の幸子宛に注意を促す匿名の手紙を送ってしまう。
そこから、若槻自身とその周囲の生命が脅かされる恐怖の日々が始まった」
この話は「保険金殺人」がテーマになっており、保険金目当てに殺人を犯したサイコパス(?)と保険金を支払いたくない保険会社の攻防が描かれています。
この作品の肝はなんといっても、生命保険業界の”闇”をうまくホラーに落とし込んでいるところです。
生命保険は、人生のリスクを低減するための相互扶助のシステムであるが、他人や社会を思いやる気持ちが欠如し、その結果「モラルハザード」をあちこちに招いている状態が生々しく書かれています。
結果、物語を読み進めていくうちに、読者は「人のもつ狂気」というものに、麻痺してしまうんですね。
麻痺してしまうので、殺人鬼のもつ狂気に気付きにくい。クライマックスで殺人鬼に追いつめられるシーンは、冷や汗がとまりませんでした。
本当に怖いのは、幽霊や妖怪ではなく人間っである、といことを体現した本作は、ホラー小説とはなにかを考えさせられる作品でした。




