始めに
以前私はホラー小説を書きたければ『リング』を参考にすればよいと述べたことがあります。作家、貴志祐介はこの鈴木光司氏の『リング』に影響を受けてホラー小説の執筆を始めました。
「ホラーというのは、ミステリの文脈でまったく新しいものが書ける」
貴志祐介は『リング』を読んで気づいたそうです。
その後、貴志祐介は1996年、『ISOLA』が日本ホラー小説大賞を受賞、1997年にも『黒い家』で同賞を受賞しています。ホラー以外では『硝子のハンマー』や『新世界より』等、ミステリ―やSFを手掛けています。作家になる前は、SF小説を好んで読んでいたと言ってますから、ホラーよりもSFが書きたかったのかもしれません。
さて、貴志祐介のホラー作品の魅力は何かというと、「人間のもつ欲望や狂気」の描写が凄まじく怖いという点です。彼の作品には「幽霊」や「呪い」といったものは出てきません。「人間」の怖さをリアリティのある描写で書いています。
私はホラーというものは、「理不尽な恐怖」が必要であると勝手に思っておりました。映画を例にあげるとすれば『チャイルド・プレイ』や『13日の金曜日』みたいな、「殺人鬼や怨霊が意味も無く追いかけてくる」、あの恐怖です。
しかし、貴志祐介の作品を読むと、「原理」がいかに大切か分かります。物事の現象には必ず原因があります。たとえそれがホラーでも。「原理」が無い作品だと、B級感が増しますね。「おいおい、いくらなんでもそれはないだろ」というツッコミです。ホラーの「おやくそく」を外れようとするあまり、怖さよりもネタ的な要素が強まってしまうんですね。貴志祐介はミステリーを書く時にはまず「原理」を考えると言っております。「こういう原理で人が殺せるのではないか考え、それを現実世界に落とし込む」「そうすれば、被害者と加害者はこういう人物で」という感じです。
そんな貴志祐介の代表作、『黒い家』と『天使の囀り』を例にとり、ホラー小説を学んでいきたいと思います。
次の章では『黒い家』について解説していきます。