第3話 魅了の効果
「人間たちが勇者の召喚に成功したようだ。」
召喚されてから半月ほど経った頃、魔王様に呼ばれ知らせを受けた。
どうやら私が倒す予定の勇者が召喚されたらしい。
「そうですか。ちなみにどのような感じの人ですか?」
「密偵によればお前と同じ年頃で長い黒髪の女だそうだ。」
「えっ?勇者って男の人じゃなくて女の子なんですか?」
普通、勇者は男だろうと勝手に思っていたが女の子だったようだ。
そこで私は一つ気づいたことがあった。
「魔王様、勇者が女の子だと非常にマズイことがあるのですが…。」
「マズイこと?まさか女は傷つけたくないとでも言いたいのか?お前は我に召喚された以上、女だろうと子供だろうと倒してもらわなければならん。やらぬのなら元の世界に返すつもりはないし、ここで地獄のような労働をさせるだけだ。」
いぶしがる魔王をスルーして話を続けた。
「いえ、違います。元の世界には私の大親友が待っているので勇者が誰であろうと倒します。…でも一つ問題があるんです。」
「なに?早く理由を申せ。」
早くしろと魔王様が鋭い目つきで私を睨む。
慎重に言葉を選びながらポツリポツリと理由を話した。
「ご存知かと思いますが、私が神から貰った祝福は魅了です。このスキルは同性には殆ど効果がないそうです。勇者が男であれば問題ないですが、女勇者であるなら私のスキルは勇者に通じないということになります。」
「なんだ、そんなことか。」
私の言葉を聞いた魔王は表情を緩めるとニヤリとした顔になる。
「魅了が同性には効かないとはスノーから聞いたのか?」
「はい、そうです。」
そもそも私はこの城に来てから魔王様とスノーとしか話をしていない。他の魔物たちは人間嫌いのようで話しかけてくる人はいなかったのだ。ちなみにスノーも私を嫌ってるが、お世話係ということで嫌々ながらも話はしてくれる。
「やはりそうか。確かに普通の魅了は同性には効きづらいがお前の魅了は普通ではない。スノーに魅了を使って確かめてみたか?」
「えっ、使ってないですよ。まだこの力は魔獣相手にしか使ってませんし。それに同性である以前に私のことを毛嫌いしてるスノーさんに効くとは思いませんから。」
私のことが嫌いというのは本人も言っているし実際話しかけると舌打ちされたりすることもある。
最近は多少マシになった気がするが、私を見る目が家畜を見るときのソレだ。あれを魅了しようとは流石に思わないし、思えない。
「お前の魅了のスキルレベルはカンストしている。これがどういう意味を持つのか、お前は自覚していないようだな。レベルマックスのスキルはそれ以外と比べものにならない別格の力、効果を持つ。試しにスノーにその力を使ってみよ。我が許可する。」
「本気で言ってます?私のこと毛嫌いしてるサキュバスを魅了できると思っているんですか。」
「本気に決まってるだろう。さっさと行ってこい。」
部屋から追い出された私は魔王の言ったことに半信半疑になりながらもスノーを探すことにした。
今日彼女は別の仕事が入っているらしく朝から会っていない。
ひとまず彼女の部屋に向かい扉をノックしたが反応がない。どうやら不在のようだ。
このまま適当に探しても良かったが魔王城はとても広いため下手すると遭遇できない可能性がある。
なので私は近くにいる魔人たちに片っ端から聞くことにした。
「すみません、スノーさんがどこにいるか知りませんか。」
「俺に話しかけてくるな。人間くさいんだよ。」
まだ聞き取り調査を始めて1人目だがすでに心が折れそうになった。というか人間なので人間くさいと言われても困る。そこで私は一つ閃いた。私のスキルはまだ知性のある生物に試していない。スノーに魅了をかける前にこの生意気な魔人で試そうと思った。
「そうですか。では…くらえっ!スキル、魅了発動!」
別に声を出す必要はないが知性のある生物、つまり魔人に試すのは初めてだったので変なテンションになっていた。
「なっ、グッ…………オオオオオオオオオオオオオ!!!!」
すると、さっきまで嫌そうにしていた魔人はトロンとした顔になって雄叫びを上げながらこちらに向かって走ってきた。
「ちょっ、おま!急にこっちに来るな!キモい!!」
驚いた私はとっさにそう叫ぶ。
私の声に反応して魔人はピタリと止まったが発情した獣の目でこちらを見つめていた。
あぶない、あぶない。止めていなかったら犯されるところだった。
こんな知らんやつに襲われたくはない。
ちょっとだけ危険だったが、とりあえずスキルの効果はあることが分かった。
「さて、もう一度聞かせてもらいますが、スノーさんがどこにいるか知っていますか?」
「ググッ…おそらくスノー様はこの時間、書庫にいると思われます。」
魅了にかかってるせいかヨダレを垂らし虚ろな目でこちらを見ながら答えてくる。
中々えげつない力だ。
「なるほど、教えてくれてありがとう。書庫の場所がわからないので案内してくれますか?」
「かしこまりましたァ。」
この魔人、私に興奮しすぎて言葉の端々が変になってる気がする。
自分のスキルの凄さを垣間見た私だった。
一応私を襲わないように命令しているが、まだスキルを使うことに慣れていないので制御し損ねる可能性がある。
下手したら処女を失ってしまう。
念のため五歩ほど離れた位置で魔人の後ろを歩くことにした。
しばらくついて行くと貫禄のありそうなヴァンパイアと話をしているスノーを見つけた。
彼女のことをただのエロい身体つきのサキュバスとしか思っていなかったが、結構偉い立場のようだ。
よくよく考えてみると異世界から召喚された私の世話係の時点で、それなりに優秀なのだろうが。
「スノーさんみーつけた。」
「ん?…チッ、なんだカエデか。今、私は忙しいから邪魔をするな。」
こちらを見てイラっとした顔つきのスノーは話し相手のヴァンパイアに一言何か言ったあと、私に背を向けて歩き出した。
「えっ、どこに行くんですか?待ってください!」
「……。」
私の声を無視してどんどん歩いていく。
いくら今日は私のお世話をする日ではないといえども、シカトしてどこかに行こうとするのはひどくないだろうか?
逃すわけにはいかないと、スキルを発動しつつ彼女の肩に手を置いた。
「待ってくださいってば!」
「ひゃんっ!!!」
聞き間違えだろうか。
普段聞いたことのない声を上げたスノーがヘナヘナとその場に座りこんでしまった。
「すっ、すみません。強く肩を掴んだつもりはなかったのですが…大丈夫ですか?」
一応声をかけたのだが返事がない。身動きを取らずに俯いたままだった。
「あの…。」
「おっ、お前…!」
俯いたままだった顔を突然あげ、スノーが叫んだ。
彼女は顔を赤らめ涙目になっていた。
サキュバスとして生きてきた彼女は性に関しては他の種族よりも経験がある。
だがスキルを発動した楓に触れられた途端、今までに感じたこともない強烈な快楽が全身を襲ったため思わず力が抜けてしまったのだ。
「魔王様に言われてスノーさんに魅了を使ってみましたがどうやら効果はあるようですね。」
「ふっ、ふんっ!お前の魅了なんて効いてないぞ!サキュバスたる私が貴様を魅力的に感じるわけがない!」
効いていると思ったが否定された。確かにさっきの魔人に試したときは反論はしてこなかったので本当に効いてないのかもしれない。
魔王め、嘘を言ったんじゃないだろうな。
試しにもう一度触れて、絶対にやってくれなさそうなことを頼んでみた。
「スノーさん私にチューしてください。頬っぺたに軽くするだけでいいので。」
「はぁっ!?そんなことするわけが…ないだろう!」
顔をさらに赤らめながら声を荒げた。
しかし顔がどんどん近づいてくる。
「私はお前の世話係。魔王様から貴様の願いは出来る限り叶えるよう言われている。だから…こっ、これは仕方なくするだけだ、勘違いするなよ。」
「うぉっ!」
言い訳をしながらも唇を合わせてきた。
軽く頬っぺたにキスしてと言ったのだが流石サキュバス、迷いなく唇に一直線。めちゃくちゃ激しいディープキスをしてきた。
サキュバスの舌技のテクニックに翻弄された私は気を失うのだった。




