一方
母が戦っているとはつゆしらず兄弟を待つ。
『遅いなぁ。まだかな。兄は恐らく鳥狙いでしょ?んで、弟は』
『ねぇちゃぁぁぁん!』
『……。それ……は……』
『えへへ、凄いでしょ?!』
ほめてほめてと言わんばかりに目をキラキラさせ尻尾をブンブン振り回す弟。
『返してきなさいっ今すぐ!それは魔物じゃなくて精霊の子供だっ』
『えー?でも、角ウサギみたいだよ?』
『土の精霊だ。多分その姿が気に入ってるだけだ。早くもとの場所に返してきなさいっ』
『はぁい』
ズコズコと返しに行く弟。ほんっとうにこの馬鹿が……
少し待っていると茂みが揺れる。
ひょっこりと茂みから頭が出てくる。兄だ。
『おや、どうしたんだ?妙に疲れているが』
『ああ兄か。いや、弟が精霊の子供を連れてきて』
『全くあいつは』
苦笑する兄。
いや、苦笑じゃなくて止めて欲しいんだが。
『兄がそんな態度だからあいつがそんなミスをするんだよ?弟のことも考えないと』
『分かってる。だが、弟や妹は可愛いものなんだよ』
『だとしても』
『厳しいなぁ』
喉の奥でくくっと笑うと頭を舐めてくる。これがまた気持ちいいんだ。
『ところで妹は魚か』
『池じゃ魚くらいしかいない。池、というより水が嫌いですよね。兄と弟は』
『毛皮が濡れる感覚が好きになれない。魚は旨いが』
『その魚も私が捕ってくる奴だけどね?』
『まぁまぁ、な?』
『何がまぁまぁなの?全く。』
ついっと目をそらす兄。
はぁ、本当にこの兄弟は
『ところで兄はやはり鳥ですか』
『ああ、クロドリだ。えっと人風に言うとダークホークだっけ?』
『たしか、そうだったと思う。にしても』
じっと鳥の入っている籠をみる。
『随分と装飾したね?』
『いやぁ楽しくってついやり過ぎた』
籠の格子には繊細な氷の蔦が絡み付き、取手?咥えるところ?は丸いアーチ。その上にはなかにいる鳥と良く似た氷の鳥の彫刻。
物凄く繊細に魔力を使わなければ出来ないことだ
『相変わらず魔力の扱いは』
『それしか取り柄がないからさ。弟のように力が強い訳でもない。お前のように足が速いわけでもない。弟は魔力の扱いがとても下手だが肉弾戦は一番だ。お前はその素早さを生かした動きで敵を翻弄し仕留める。魔法もそこそこつかえるだろ?私は魔法が外れたらおしまいだ』
悲しそうに自嘲の笑みを浮かべながらそういう兄。
確かにいまでは私が一番速く、弟は一番力が強い。
だが
『私は兄をそうだとは思わないけど?確かに一番体力もないし力も弱いし防御力も一番低い。でも、私は兄を尊敬している。どんな時も冷静で頭も良くて魔法の腕は比類なき者。それじゃ駄目?』
じっと兄を見つめる。
ふい、と兄が顔を背ける。
『そんな風にいわれちゃ自分を卑下出来ないじゃないか。妹に尊敬してる、だなんて言われてちゃ、ね』
『兄……』
『返してきたーー!あとね、また捕まえてきたよ!あれ?兄ちゃん?姉ちゃん?なにがあったの?!』
雰囲気を思いっきりぶち壊すような明るい声。
ま、助かった
『『何でもないよ』』
『そうなの?ならいいや!』
ニコーっと笑う弟。ほんっとうにもう……
『『可愛いなぁ全く』』
何だか良くわからない顔をしている弟の頭を兄と一緒に舐めた