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メイドと料理と危険遊戯


 高い天井がある。巨大な絵画が描かれ、赤や茶、金など煌びやかで豪奢な装飾の施された、見覚えの無い天井だ。しかし明らかに人工の物であることに、僕は安堵する。


 またあの世ってわけでもなさそうだ。


 神様にどんな嫌みを言われるかヒヤヒヤしたものだ。

 なにはともあれ。ボクの頭の下には柔らかなクッションの感触があり、身体がふんわりとした布団の重みを感じている。どうやら手厚い扱いを受けているようだ。

 気を失う直前の記憶はしっかりとある。

 オルヴィスという青年騎士に担がれて馬に乗っていたところまでは覚えているのだが、あれからどうしたのかは解らない。近くにバローネさんはいるだろうか。


「お、起きたか?」


 僕がのっそりと身体を起こすと、金髪の青年が鎧を脱いだ姿で立っているのが見えた。鎧を脱いだ事で筋骨隆々な骨格が露わになり、アクション映画の主人公のような印象を受ける。顔も二枚目だしな。

 ついでにと周囲にも目を向ければ、その間取りは日本では考えられないくらいに広く、天井と同じく過度な装飾が施されている。僕が寝ているベッドと同じものが等間隔に並べられているところを見ると、病室とか医務室のようなところなのであろう。今ベッドを使用しているのは僕一人だ。


「えと、オルヴィス、さん?」


 僕は思わず右手でベッドのフレームを掴んだ。

 着地と共に変化は一瞬で成され、ベッドフレームでできた盾を構える。また問答無用で襲いかかってくるのではないか。そんな懸念がある。

 しかしオルヴィスさんは穏やかな表情で頭を搔く。


「あー、そんな警戒しなくていい。それ、ベッドを壊すと俺が怒られるんだわ。大丈夫、なんにもしねぇよ」


 素直には信じられないな。さっきは戦いたくないと訴えてもやめてくれなかったし。


「いやぁ、ほんと、ごめんな。戦うことになるとつい、熱くなっちまってなぁ」


 アハハと眉尻を下げて笑うオルヴィスさんの表情は、悪い人間がする顔でも無いように思える。……思えるが、先程の理不尽を許すほど僕は人間ができていない。むしろ人間ができていたらこの世界に呼ばれていないし就職もしている。そもそも父と母が――。

 思考が負のスパイラルに入りかけていると、僕の沈黙と表情をどう受け取ったのか、オルヴィスさんが慌てた様子で言葉を繋ぐ。


「は、腹減ってるだろ? ほら、寝ている間も腹が鳴ってたしな! 話題を逸らそうとしてるわけじゃないぜ!?」


 僕が言葉を吐くより先に手を叩き大声で誰かを呼ぶ。

 「おーい」という声が響き、建物の中が次第に慌ただしくなると、ドアの無い入口の向こうから白いワンピースにフリルの付いたカチューシャとエプロンを身につけた三人の少女が駆けつけてきた。


「わわ」


 僕が呆気にとられていると、少女達はオルヴィスさんを取り囲んだ。


「オルヴィスさま! 患者さまが目を覚ましたらすぐに知らせて下さいと申した筈です!」

「オルヴィス様が任せろと言ったから任せたのに、言い付けを守れないのは何故ですか?」

「オルヴィス! 無能!」


 三者三様、それぞれのトーンで捲し立てる。


「あん? 今呼んだんだから良いだろ? ほれ、向こうもピンピンしてるし、なにが問題なんだ? ああん?」


 少女達は三人揃ってこちらに視線を向ける。すると、


「「「ベッドが壊れました!!」」」


 おぅ……、とたじろいだのはオルヴィスさんで、一瞬でも弱味を見せたのがいけなかった。少女達が再びピーチクパーチクと騒ぎ立てる。


「オルヴィスさまは無意識に喧嘩を売って歩くものですから、患者とコンタクトをとる前に呼んでほしかったです!」

「患者を刺激されては困りますね。ホント」

「弁償! 賠償!!」


 まるで餌をせがむ雛鳥のようだ。

 三人はそれぞれの髪が赤・青・黄で、ワンピースから伸びる腕や脚は恐ろしく白い。身長は喋ってる順番に大・中・小で並び、もしかしたら姉妹なのかもしれない。

 オルヴィスさんは始めこそ申し訳なさそうに聞いていたが、次第にプルプルし始め、


「うるせぇ!!」


 両手を下から上に振り上げた。鍛えられた腕力と特殊な技法の成せる技なのか、もの凄い風圧が天井に向かって吹き上げた。


「「「きゃぁ!!」」」


 咄嗟にスカートを押さえるも、前部分を押さえた事で逃げ場を失った空気が尻の方へ。

 ふわりと。

 赤・青・黄! オルヴィス様グッジョブ。


「いでで! 脛を蹴るな! あ、お前ら俺よりも患者を見ろよ。てか診ろよ! 腹が減ってるんだぜ?」


 ぐぎゅぅ、とタイミングよく腹が鳴り、僕は笑いそうになった。だが同時にめまいのような物を感じ、ベッドの盾を杖に変化させて身体を支える。なんだろう。今までに感じた事の無い飢餓感だ。普通の減り方ではないな、と直感する。


「早く行って食いもん持ってこいよ」


「これは大変! 早く行かなきゃ!」

「急ぎますね、我慢できますか?」

「急ぐ!急ぐ!」


 少女達が慌ただしく走りだす。そんな中、3色姉妹(仮)の一番小さいのが立ち止まり、振り返る。少女はポケットに手を突っ込み何かを取り出すと、そっと僕の手に握らせた。


「食べて! 食べて!」


 走り去る少女の背中を見送り僕は自分の手に握られた物を確認する。

 割れて二つになったビスケットのような物だった。


 ポケットに直入れだと……!?


 僕はそれを自分のポケットにしまい、素直に食べ物が運ばれてくるのを待つことにした。


「「お待たせしました!」」

「ましたー!」


「早い……!?」


 ちっこい少女が出て行ってすぐのことだった。二人の少女が顔を出し、追いかけるようにさっきのちっこいのが現れる。


「あぁ、すぐに何か食べられるように手配しておいたんだ」


 オルヴィス様有能!

 僕のお腹が歓喜の叫びを上げる。同時に、異世界の食べ物への好奇心が出てくる。いったいどんな料理が運ばれてくるのか。

 少女達が道を開けると。背後から少女達のワンピースをそのまま黒くしたような、目に見えてメイドとわかる女性達がワゴンを運んでくる。少女達は一体何をしていたのか、オルヴィスさんが直接このメイドさん達を呼べば良かったのではないだろうか?

 いや、そんな見方はいけない。僕はただ、空腹に心が荒んでいるのだ。

 早く異世界料理を胃に収めねばもっとひどい思考が飛び出しそうだ。

 ああ、良い匂いがしてきた。そしてなんとなく懐かしくて馴染み深い……。

 昆布などのダシと様々の具材の混じり合ったこの香り。これは――


「おでん……?」


 おでんだ。しっかりと土鍋のような容器に入っており、余熱でグツグツと煮えている。美味しそうだけど、何だろうこのガッカリ感。

 この世界にはおでん文化が根付いているの? なんだか僕の言葉も通じているようだし。ここは本当に異世界なの? 盛大に仕組まれたドッキリだったりしないだろうか?

 僕は右手に握ったステッキを変化させてみる。

 うむ、見事な女体尻だ。感触は固い。そう言えばこの能力は質感が変えられないんだなぁ、と鉄の尻を撫でながら考えていると、引き攣った笑みのメイドがそそくさと帰っていった。

 うむ、能力は本物だ。間違いない。特殊なCG技術を用いようとも、ここまで再現度の高い尻はなかなかできまい。僅かに肉に弛みを持たせることで質感を上げ、モチーフには――


「あー、気に入らなかったか?」


 尻について考察している僕を遠巻きに見ていたオルヴィスさんが躊躇い気味に声を掛けてくる。


「いや、良い尻だ」


「そこじゃねぇよ」


 は、と僕は我に返る。

 今、ごく普通に言葉を交わさなかったか僕。こんな、見るからに友達多そうで、事あるごとに仲間内でハイタッチとかしてそうな、壁に飾ったコルクボードに仲間内で撮った写真とかメチャクチャ飾ってそうな二枚目金髪碧眼白馬の騎士様と。

 意識したら余計に喋りづらくなった!


「お前の連れの姉ちゃんがよぅ、慣れない土地で戸惑っているだろうからって、教えてくれたんだよ、この料理。おでんっていうのな味見してみたが、かなり美味いな。元の味は知らんが」


 バローネさんが?

 見ないと思ったらどこにいるのだろう?

 知らない人がいっぱいいる中で、僕一人だけではメチャクチャ心細いのだが。

 

「そうそう、この料理、誰かが食べさせるのが作法らしいな?」


 いや、それはかなり特殊な世界の人達の作法であるが、バローネさんはいったい何処まで本気で教えているのかな!?


「やる! やる!」


 一人もの凄く張り切ってる少女がいる。ビスケットの少女だ。


「キィ、やってみるか」


「うん!うん!」


 やる前から嫌な予感しかしないが、キィと呼ばれた少女は興奮気味に木製の串を手に取ると、透き通るような出汁に浮かぶハンペン的な物(原料不明)を取り出す。

 数ある具材の中から何故ソレをチョイスした!?

 スープが未だにグツグツと煮だっている。


「はい!」


「ほぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 キィが勢いよく差し出したハンペンが僕の頬に押し当てられ、僕はリアクション芸人の如く床を転がった。世の中コレを美味しいと言って有り難がっている人種がいるそうだが、正気の沙汰ではない。一瞬にしてお家に帰りたくなった。

 キィのケタケタという笑い声に悪意が無いのは分かっているが、腹が立つ。しかし立ってはいるが減ってもいるので素直にかぶりつく。熱いっ! が、美味い!

 舌が火傷しそうに熱いが、味がしっかりと染みていて、歯触りなどの食感に若干の違いはあるが、僕の知るハンペンと言っても差し支えがないだろう。ハンペン美味い。


「アカ姉ぇ、アオ姉ぇ! これ面白い!」


 キィが目を輝かせて姉達に振り返る。やはり姉妹だったか。てか名前。髪とパンツの色の通りか。

 一番身長が大きく、おっとりしていそうなのがアカで、中くらいの身長で軍人のようなキリリとした雰囲気を醸しているアオ、そして見るからに幼女なキィ。なるほど、分かりやすい。


「あの、私達もよろしいでしょうか?」

「やってみたいですね、少し」


 キィに触発されたのか、美少女二人がそれぞれ串を持つ。まさか女の子たちから〝アーン〟される日がこようとは、夢にも思っていなかったな。なにこの幸せ、明日には死ぬの? ……もう死んでた。


「「はい!」」


「ぎゃひぃぃぃぃん!?」


 二人同時にハンペンを頬に押し付けてきた!

 なんなの? このおでん、ハンペンしか入ってないの? てか頬に具材を押し付けるのは作法じゃない! 有り難く食べるけど!


「あ、私はアカと申します。よろしくお願いしますね。あのぅ、先程はオルヴィスさまが失礼いたしました。オルヴィスさまは大変有能な方ではありますが、好戦的な性格から、無意識に喧嘩を売っては買い、売っては買いと……」

「アオです。たび重なる粗相をお赦しください」


 アカとアオが旋毛つむじが見えるくらい頭を下げ、上司の行動への謝罪を述べる。その間も僕が口の中の具材を呑み込むと鍋から串を取り出し、口に運んでくれる。

 誤った作法通り一回頬に押し当ててから。


「あ熱っ! 熱いっ!!」


 君たちも似たようなものだよ!

 そう叫ぶのを堪え、僕は串をもぎ取った。


「大丈夫、一人で、食べれます」


 空腹が多少なりとも解消され、思考が纏まってきた。

 あの緑の丘でオルヴィスさんと一戦交えた僕は、途中力尽きるように意識を失い、オルヴィスさん達によってこの場所に運ばれてきた。

 こうして手厚く看護してくれているという事は、敵対するつもりはないだろうが、だとすればこの人達はなんなのか。思っていても仕方が無いことなので口に出して質問する。


「えと、まだ状況が呑み込めていなくてですね、ここは何処で、あなた方は何者なんですか?」


 口に出してみて気付く。それは向こう側の質問だろうと。

 よくよく考えて見れば、異邦者は僕とバローネさんの方であり、この人たちは領地内に現れた不審人物を捕えただけに過ぎない。いや、不審人物というか、勇者がどうとか言っていたが、まぁ、なんというか、情報を持っていないのはお互い様か。


「ここはクオリア王国の城内医務室で、俺は――もう何回か耳にしてるだろ? オルヴィスだ。オルヴィス・グレム。一応、ここで兵士長をしている」


 クオリア、王国?

 聞いた事もないな。いや、異世界に来たのであれば当然なのだろうけども。


「お前さんの事は大体あの姉ちゃんから聞いているよ。ナルコ」


 バローネさんの事か。


「世界に平和を取り戻すために異世界から神が送りだした超勇者だってな」


 ……ハードル高くない? 超勇者ってなに!?


「世界の命運を背負うに足る器だと聞いた」


 バ、バローネさんは何の意図があって僕をそんなに持ち上げるのかな!?

 生き辛いよ!

 嫌な汗が全身から噴き出してくるようだ。そんな僕の様子を知ってか知らずか、オルヴィスさんは真剣な顔で言った。


「お前に、会わせたい人がいる」



また間が空いてしまいました。なるべく急いだつもりですが、そのため文章が少し粗いかもしれません。

最近、休みがなくて……いえ、言い訳は駄目ですね。なるべく早く続きを載せれるように頑張ります。

エタらない事だけは誰にでもなく約束、宣言いたします。

目指すは読みやすくわかりやすい作品。

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