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崖っぷちのチュートリアル

「死に晒せぇ!!」


 既に目的がすり替わった金髪騎士・オルヴィスが鎧馬に乗ったままこちらに駆けてくる。

 この世界の生物は攻撃的過ぎやしないか!?

 僕は即座に思考を巡らす。なにか、上手くやり過ごせる方法は無いか。

 オルヴィスとの距離は先程の刃狼達との距離とだいたい同じだから50メートル強ぐらいだろう。また、カウンターで土壁を叩きつけるか?

 いや、人間を相手にソレを行えばどうなるか分からない。

 下手をすれば殺してしまうかもしれない。だからといって黙っていれば僕が殺されるんだけど。


「ボヤボヤしてんじゃねぇ! 殺されてぇか!!」


 高貴な顔立ちからは想像もつかない好戦的で粗暴な言葉に身体が震える。

 剥き出しの敵意を向けられるのは生まれて初めての事だ。いや、過去にもあったかもしれないが、ここまで殺気が籠ったものではなかっただろう。

 殺気とはこれほどまでに身体を凍てつかせるものなのか。

 身体全体が本能的に強張っているのが動かさなくてもわかる。

 だから、僕は一つの行動を起こした。


「す、すみません!!」


 僕は全力で土下座した。両手をピッタリと地面に着け額を地面に擦りつける。

 伝わるか! ジャパニーズDOGEZAだ!! あれ? そういえば日本語が普通に伝わっているような……!!


「なんだそりゃぁ!?」


 僕が伏せた頭の先で、距離を置いてオルヴィスが急ブレーキをかける音が聞こえる。突然の停止命令により不満そうに鳴き声を上げる鎧馬と、勢いよく言葉を吐こうとして口が上手く廻っていないような呼吸音でオルヴィスが怒っている事が雰囲気として読みとれた。


「ナメてんのか貴様ぁ!」


 案の定、怒られた。

 問答無用で切りかかってきたらどうしようかと思ったが、試すとかどうとか言っていたし、本気で殺しに来るとは思っていなかった。もしもの時はバローネさんが声を掛けただろうし。


「ナメてないです。靴なら舐めます」


「プライドはないのか!?」


「プライドの為に死ぬくらいなら惨めにでも生きますよ」


 隣りでバローネさんがジト目を送ってくる。

 うん、分かってる。僕は一度死んでるよね。ちょっとした気まぐれでさ。


「ぼ、僕は戦うのも怖いのも嫌です。もちろん痛いのも。だから勇者というのもそちらのお婆さんの勘違いじゃないでしょうか」


 自分の口調が早口になっていくのがわかる。緊張している。

 だって怖いんだもの。これで剣を収めてくれればいいのだけど。


「ハ――、例えオババの勘違いでも、じゃあお前らは何者なんだという話しになる。俺が敢えて力尽くで吐かせてやるぜ!ブレードウルフを退治したその実力、見せてみろよ! 俺は純粋にそれが見てぇ!!」


 この人! ただ戦いたいだけだった!!

 僕は溜息と共に立ち上がる。腹を括るしかない。彼我の距離は10メートル程だろうか。馬の脚であれば一瞬だ。馬の身が力を溜めこむように僅かに沈むと同時、僕は後方へとバックステップした。この身体になって増強した脚力により、自分でも驚くほどの距離を跳び、間合いが開く。

 そして――


「あん?」


 オルヴィスの操る馬が地面を踏み抜き、前脚側の地面という支えを失った身体が前方へと流れる。穴の上に置いた毛布を剥ぎ取るように、芝生が中心に引っ張られるように馬と共に地面に沈んでいく。それは一瞬のことで、当事者であるオルヴィス自身もなにが起こったかわからなかっただろう。


「オルヴィス様!!」


 列を乱すことなく並んだ兵士たちが驚きの声を上げる。

 オルヴィスの姿が大地に呑まれたように見えたのだろう。丁度、僕が先程まで土下座をしていた位置だ。


「鳴子様、穴を掘ーるとはこれ如何に」


 僕の行動を読んでいたのか、同じ動きで追随してきたバローネさんが隣りで呟く。これはひどい。だがもう一つ言うなれば、


「ホールにフォ(ホ)ールだね」


 我ながらひどいな……。

 目配せしたバローネさんが親指を上げてくる。気に入ってもらえて光栄だ。

 しかしながら和んでいる場合ではない。

 土下座した時に想像し創造した落とし穴にオルヴィスを落とすことには成功したが、兵士たちは相変わらず森へのルートを塞いでおり、オルヴィスが納得のいかない限りここから逃げ出す事は難しいだろう。いや、仮にできたとしても兵士たちを蹴散らして逃走を図っては事が大きくなりそうだ。

 僕は地面にポッカリと空いた大穴を避けるように走りだす。足の向く先にはさきほど自分が倒した刃狼の死骸がある。本当に死んでいるのか不安になるぐらいの迫力のある顔をしているが、その額に僕の目的の物がある。

 ブレードウルフの刃角。先程の刃狼達はこれを武器として使っていた。突いたり飛ばしたりしてだ。飛ばすだけでバローネさんの腕を斬り落としたのだから、強度は証明されている。僕は右手でその刃に触れ、イメージする。

 イメージから変化までの時間は一瞬だ。角の部分が刃狼の額から外れ、柄の付いた剣に変化した。刃渡りは30センチほど。これでは小さい。二匹、三匹と刃を重ね充分な長さと厚さを確保した片刃の剣が出来上がった。

 骨の変化したものだと思っていたが、随分としっかりとした質感だ。金属としての冷たさを持っているし、重さも刃の大きさの割に軽い。


「ブレードウルフは鉱石を好んで食べます。その角は骨と鉱石の成分が混じることで鋼以上の強度を持ちながら驚くような軽さを実現しております」


 眼鏡があったならば「クイッ」という動作がさぞ様になっていたことだろう。バローネさんの解説に僕は頷く。


「無手よりは全然安心感が違うなぁ」

  

 デザインがかなりRPG攻略サイトに載っていた剣に寄ってしまったが、なかなかの物だと自画自賛する。


「く」


 背後から聞こえた声に僕は振り返る。

 見れば落とし穴からオルヴィスが這い出てきたところだった。


「くっそ! 油断したぜ! あらかじめ落とし穴を掘っていたとはな! 降参のポーズもありゃフェイクか!?」


 穴に落ちた割に、随分と元気そうだ。表情が怒るでもなく犬歯を剥き出しに笑っているのはどうしてか。


「なかなかの策士じゃねぇか。俺らがここに来ることも最初から読んでたんだろ?」


 読みもなにも、落とし穴を作ったのは即興で、土下座で地面に触れて時間も稼ごうとしたのもその場の思いつきだ。僕の能力を知らないのだから当然、か。いっそ「こんな能力です」って見せればチート能力ってことで納得してくれるだろうか。


「面白れぇ! その貪欲に勝利を掴もうとする姿勢、アリだな!! ここからはガチでの真剣勝負といこうやぁ!」


 勝手に解釈して勝手に闘争心を燃やしてきた!

 落とし穴から出る際に一度収めたのであろう、剣を鞘から再び引き抜き、オルヴィスが気迫とともに迫る。鎧を纏っているにも関わらず、そのスピードはビデオを早送りのようだ。馬に乗るよりも早く見えるのは目の錯覚だろうか。

 って、考えている暇も――!


「ふんっ!!」


 大上段から裂ぱくの気合いのもと、銀の刃が振り下ろされる。一瞬ではあるがオルヴィスの背中から腕にかけての筋肉が膨らんだように見えた。それは刹那の間で、強化されたこの身体の目なら追える。だが身体が付いていくのか!?

 僕は咄嗟に持っていた刀剣を逆袈裟に振り上げる。

 間に合えと!


「!!」


 相手の動きは高速であり、僕の動きもそうだ。

 ただ違ったのは、


 経験の差!!


 僕が振り上げた刃は相手の刃を受けることなく空を切った。

 見ればオルヴィスは刃と刃がぶつかる寸前、今までの下に向けた力が無かったかのように、振り下ろす動きを振り上げる動きに切り替えていた。下に向けた力が確かに有ったのだから、一瞬でそれが成せたのは始めからの想定と、強靭な筋力のおかげだ。

 本気で殺す気か!?

 オルヴィスは再び持ち上げた腕を、弧を描くように回し、装飾にまみれた刃が僕の胴体を真横から薙ごうとする。見事に空振った僕は両腕を上げバンザイの体勢を取っているからマズイ。日頃から剣を扱うであろう騎士に対して、同じフィールドで戦おうとしたのが間違いだった。

 僕は後悔する。だがその前に、


 生きるための対処をする。 


 僕の両手に握られたままの刀剣はイメージによって形が変わる。

 手首を少し捻る事で角度を調整し、後はイメージする。天を突いていた切っ先が一瞬にして地面に向かって伸びる。刀剣の形ではなく、シンプルな棍だ。シンプルな分、長く伸ばせる。


「なに!?」


 オルヴィスの横からの一閃が、棍を挟んで僕の身体にぶち当たった。


「うぐっ!」


 切り裂いたでも、断ち切ったでもなく、ぶち当たった。

 僕は棍を握ったまま真横に吹き飛んだ。

 なんとい馬鹿力か、僕の足が地面を離れ、きりもみ状態で芝生の上に落ち転がる。骨に異常が無いか心配になるレベルの衝撃と痛みだ。

 正直、起き上がれる気がしない。

 想定外の衝撃を腕に得たオルヴィスも、動きを消すことなく腕を振り切って一瞬の硬直を得ていた。


「あれを止めるか? なにが起きたか分かんねぇけどスゲェな!」


 死んだらどうする!?

 なぜか嬉しそうな目を向けてくるオルヴィスと、それを止めようともしない外野。

 これはいじめか? そういえば、なんで戦ってんのかな。バローネさんとちょっと嬉しいハプニングにいそしんでいただけなのに。

 身体が痛いし、皆怖い。

 なんだか腹が立ってきた。

 そもそも向こうが殺して構わない気持ちで来ているのに、僕が殺さないように気を遣う必要があるのか?

 僕は素人で、弱者であるのに。

 僕は右手で地面に触れる。


「怒っても、良いよね」


 疑問形ではない。これは宣言だ。

 右手を置いた地面が大きく震動を起こして盛り上がっていく。周辺に散らばった刃狼達の死骸を巻き込んで。


「な、なんだ!?」


 ざわめきが伝播し周囲を戦慄が包む。

 構わない。

 できうる限り禍々しく、畏怖を与えるように。

 大地の盛り上がりはやがて形を成す。


 それは、巨人だった。


 体長は5メートルを超え、足が短く、腕が太い。首は無く、胴体に形だけの目と口が付いている。背には刃狼の毛皮を生やし、敢えて無骨に、敢えて凶悪に。

 僕の右腕が触れている限り駆動する事ができる大地の巨人〝ゴーレム〟


「ぶっ飛ばせ!」


 背中に乗った姿勢で僕は指示を飛ばす。

 ゴーレムの動きは鈍重な見た目に反して素早かった。腕を振り上げるでもなく、作り変える。

 それによって得られる高速だ。高速で作り変えられる巨大な拳が、大気を巻き込み鈍い音を立てて伸びオルヴィスの身体を打ちつけた。


「ぐぇ!?」


 アッパー気味に振り抜かれた拳の先から、反応することなく全身を持っていかれたオルヴィスが天高く打ち出される。


「「オ、オルヴィス様!!」」


 ざまぁみろ。

 その時は素直にそう思った。

 オルヴィスが飛んでいく方角が崖の向こう側だということに気付くまでは。


「ああああああ!?」


 やってしまったという思いが頭に浮かび、僕は叫んだ。

 思わずバローネさんの方を見る。


「命懸けの、崖ダイブ」


 なんだか絶好調だな!?

 親指をビッと上げてくるバローネさんから目を離し、僕はゴーレムごと崖に向かってジャンプする。


「届けぇ!」


 腕を伸ばした先でオルヴィスをキャッチしようとするが、距離が届かない。

 ならばと、ゴーレムの身体を作り変える、二つの足が一本に纏まり地面に向かって伸び、両の腕も一本に纏まり巨大な手の平を形作る。地面から大きな腕が生えたようにも見えるだろう。地に着いた腕の根元から大地を吸い上げ長さを増していく。

 力なく頭から落ちてきたオルヴィスの身体を受け止めると、巨大な腕が大きくしなった。

 もてよ、とオルヴィスの身体を引き寄せながら思う。

 土の上を波打たせ、オルヴィスの身体をベルトコンベアのように引き寄せ、左手でオルヴィスの鎧の縁に手を掛ける。あとは土でできた巨腕を縮ませ陸に戻るイメージを浮かべれば、なんとかできそうだ。

 ……なんとか、あぁ、なんとかだ。


 きゅーっと、間抜けな音が響いた。


 どこからだろ? ああ、僕か。僕のお腹の音だ。

 突然空腹感が押し寄せてきて、血が胃に集中しているのか頭がボーっとする。お腹空いた。でも眠い。

 意識が朦朧としてくる中、僕はオルヴィスの身体を禿げだらけの無惨な草原に放り投げた。大した距離ではない。でも充分な距離だ。僕は自分の身体が崖側に滑り落ちるのを感じる。

 あぁ、落ちるのか。腕を伸ばす気にもなれないな。これが力による消耗なのだろう。

 なんとなく、川に捨てられた猫の事を思う。

 結局、同じ事をしているな僕は。あの猫は生きているだろうか?

 まぁ、今回は自分の自業自得であるし、せっかく第二の人生をくれた神様には申し訳ないが、早くも幕引きのようだ。こんなゲームのチュートリアルのような場所で。

 沈む意識と徐々に感じる浮遊感。これは、死ぬな。





 そっと、誰かが僕の腕を掴んだ気がした。

 大きくゴッツい手だ。ウチの父親も、ここまで大きくなかったな。





「ふんぬぉぉぉぉぉ!!」


 腕のヌシか。

 頭上から気合いの入った大声が響いた。ゆっくりと振り仰げば、顔を真っ赤にして腕を伸ばす金髪の騎士がいた。鎧の籠手を外した生の手を、崖から身を乗り出すように伸ばしている。さっきまで問答無用で剣を振り回してきたオルヴィスが、必死に歯を食いしばって僕の腕を引っ張っている。


 なんだか、ちょっぴり笑えた。



早くいろんなキャラを投入したい。

そんな衝動に駆られながらも、順序は大事と自分に言いきかせております。


タイトルとかサブタイ、考えるのが苦手です。

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