98.るーしゃすのひみつ
月の光に照らされる寝室。時刻は19時。隣ではアリスが心配そうな表情で俺を見ている。
俺は先ほど見た魔獣の記憶について思い悩んでいた。
何故奴の記憶に俺が前世で通っていた高校の記憶がある?
その答えは一つ。奴は俺と同じ、日本からの転生者だ。そして、俺と同じ高校の生徒だった、ということだ。
前世であまり人と関わりがなかった俺には、執拗に俺を狙ってくるような人物が思い当たらない。というかそもそも、前世の記憶は曖昧なんだ。高校の、特に友人関係についての記憶がぼやけたようになっていて思い出せない。でもずっと前から何か、何か大事なことを忘れている気はしていたんだ。それを今、思い出さなくちゃいけなくなった。
「ルーシャス様……?一体あの魔獣の記憶から何を見ましたの?」
アリスが心配そうな口調で俺に問いかける。
アリスにもこのことを共有したい。だけど、その為には俺が転生者だということから話さなきゃいけない。エリック先輩とジェームズは受け入れてくれたが、果たしてアリスは受け入れてくれるのだろうか……。
「前々から、ルーシャス様は何かを隠されていると感じていましたわ。でも、敢えて聞かなかった。それは、ルーシャス様の根本に関わるとても大切な何かだと思ったからですわ」
黙っている俺に向かってアリスは話を続ける。
「今まではその隠し事に目を瞑っていましたけれど……もうそろそろ、私に話してくれてもいいんじゃないですの?」
そう話すアリスの目は、少し潤んでいるようだった。
俺が隠し事をしているのに自分から話さなかったこと、それにその隠し事に関わる魔獣の記憶を見たせいで思い悩んでいるのを見ているのが辛いということ、2つの思いが重なっているのだろう。
俺はそんなアリスの様子を見て、全てを話すことに決めた。
「転生者……ですの?」
「そうなんだ。俺は俺であって俺じゃない。違う人間の記憶を持ってるんだ」
アリスは少しきょとんとした顔をしていたが、ふっと息を吐いて笑みを浮かべる。
「なんだ、そんなことでしたの?もっと早く言ってくだされば良かったですのに」
「……俺に対して思うことは無いの?」
「うーん、なんで今まで話してくれなかったのか、ということぐらいですわね。前世の記憶があることなんてあり得ない話ではないですわ。ルーシャス様の場合はそれが少しはっきりしているだけですの」
アリスの言葉はあっさりとしたものだった。
なんだ?俺が勝手に怖がってただけで、転生者であることはそんなに特異なことじゃないのか?
「ルーシャス様が見たのはその前世での記憶と共通した記憶だったということですわよね?なら、あの魔獣も転生者の可能性がありますわ。そのことは、関係のある人に話しておくべきだと思いますの。まだ夜も遅くない。今からみんなを集めてお話してみてはどうですの?」
みんな、ということは俺の家族も入っているのだろうな。父さんや母さん、ジュリアお姉ちゃんにネコ耳メイド姉妹は俺のことを受け入れてくれるのだろうか。ジェームズやアリスは幼少期に出会ったとは言っても血が繋がっているわけではない。
実際に俺と血が繋がった家族は何を思うのだろう。
「大丈夫ですわよルーシャス様。前世の記憶があっても、ルーシャス様はルーシャス様ですの。お義父様もお義母様も、ジュリアさんも分かってくださると思いますわ。もちろん、ミーナさんやイーナさんも」
アリスの言葉に背中を押され、俺はみんなを集めることにした。
そして30分ほどでみんなが集まった。エリック先輩とジェームズはもちろん、他にもメイヴィス、コーディ、ハンナ、シルヴィア、ダスティンさん、クレアさん、イアンさん、マリサさんが集まってくれた。そして父さん、母さん、ジュリアお姉ちゃん、ミーナちゃん、イーナさんもだ。
「みんな突然呼びかけたのに集まってくれてありがとう。俺は今日、人間の魔獣の記憶を見た。そのことに関係して、みんなに話さなきゃいけないことがあるんだ」
エリック先輩とジェームズは全てを察したようで、みんなの前で話すのかと少し驚いた表情を浮かべている。
対照的に自信満々なアリスを見て心を落ち着け、俺はみんなに全てを話した。
話し終わると、その場はしーんと静まり返っていた。
みんなの表情からは感情が読み取れない。みんなどう思ってるんだろう?頼むから誰か何か話してくれないかな。
すると父さんが口を開いた。
「ルーシャス、お前が転生者だってことは分かった。だが、それがどうしたって言うんだ?アリスちゃんの言うように、何故今まで話してくれなかったんだ?」
「いやそれは……俺が違う人間だったって知ったらショックを受けるかと……」
口ごもる俺に被せるように、母さんが話し出す。
「あのねルーシャス、別に前世の記憶を持ってたってルーシャスはルーシャスよ。だってその記憶は前世のものなんでしょ?じゃあ今を生きてるルーシャスには関係ないじゃない」
「えっと……そんな簡単に受け入れてもらえてよろしいのでしょうか……?」
戸惑う俺に、ジュリアお姉ちゃんが続ける。
「ルーシャスくんはちょっと特別だとは思ってたけど、でもかわいい私の弟くんだってことは変わらないよ!むしろ前世の記憶があってそれを活かして何が悪いの?それも天から授かった才能だと私は思うよ!」
「ジュリアお姉ちゃん……」
「ルーシャス様〜、私はルーシャス様が特別だって、ルーシャス様が生まれた時から気づいてましたよ〜?今更それがなんだって言うんですか〜?」
「ミーナちゃん……」
「ルーシャス様、私も少しびっくりしてますが、ルーシャス様が幼少期から多才だったことに納得していますよ。ルーシャス様が本当の天才じゃなくて、なんだかほっとしているぐらいです」
「イーナさん……みんな、ありがとう」
その後もみんなは口々に俺に対して気にすることじゃないと言い続けた。
俺は一体何を悩んでいたのだろう。ここまで広い心で受け入れてくれる仲間を、何故信用できなかったのだろう。
いつもはボケるコーディやイアンさんも、今日は俺の肩を叩いてそれがどうしたと笑い飛ばしてくれる。
改めて、仲間に恵まれたなと思う。
さあ、これで俺に隠し事は無くなった。後は奴を再び探し出して全てを暴くだけだ。
ルーシャス「遂に俺が転生者だってバレちゃったな」
アリス「後書きでは私は知ってましたわよ。前も言いましたけれど。本編では知らない設定だったから、やっと話してくれてスッキリしましたわ!」
ルーシャス「ここまで来るといよいよ終盤って感じだな。どう終わるのか俺たちも分からないけど、作者の力量に期待だ!」
完結を楽しみにお待ちください!




