97.きおくのかけら
「転生者……だと?」
俺から全てを聞いたジェームズは、考え込むような素振りを見せる。
幼少期から一緒に過ごしてきた親友が、実は異世界からの転生者でした。なんてそんなにすっと受け入れられるものではないだろう。
もし逆の立場だったとしても、俺はすんなり受け入れる自信がない。
「それだけのことか。もっと重要なことを隠しているのかと思ったぞ。脚フェチとか」
「お前は脚フェチに何の恨みがあるんだよ!!」
ていうか受け入れてくれるのか。俺なら受け入れられないって言ったばっかりなんだけど。俺の心が狭いみたいじゃんか。
「転生者って言っても、要するに前世の記憶がはっきりあるってだけだろ?別にそれが明らかになったところで、ルーシャスはルーシャスだ。それ以上何かあるか?脚フェチならまだしも」
「うんだから脚フェチに何の恨みがあるんだよお前は!!世の脚フェチに謝れ!!」
俺の心が狭いと言うより、ジェームズの心が広いんだな。こいつの動じなさには尊敬できるものがある。今も「ごめんなサイドステップ」とか言いながら反復横跳びしてるし。いやそれはふざけ過ぎだろ!
「それよりルーシャス、今までに人間の魔獣が2人同時に脳内へ話しかけてきたことはあったのか?」
「いや、俺が知ってる限りは無いけど……。それがどうかしたのか?」
俺が答えると、ジェームズは何回か頷いて再び口を開く。
「単純に人間の魔獣が前より力を付けたと考えることもできるが……。直接出向いて来なかったことを考えると、奴はやはりそこまで自分の力に自信を持っていないように思える。もし奴の力が前とそれほど変わっていないなら、奴はまだ近くにいるんじゃないか?」
なんだって?その線は考えてなかった。そういえば今まで奴は1人ずつにしか脳内へ話しかけていない。それが奴の限界なのだと思っていたけど、今回は俺とジェームズの2人に話しかけてきた。俺は奴が強くなったのだと思ったが、単純に奴が近くにいる可能性もある。
「そうか、なら……!」
「ああ。今探しに行かない手は無いだろう」
俺とジェームズは視線を交わし、それぞれ動き出す。
ジェームズは訓練中の剣術隊を集め、出陣の準備をする。俺は1人で外に飛び出し、黒いフードのようなものを被った人影を探す。
どこだ?どこに逃げた?絶対に今見つけ出す!
「!ルーシャス、どうしたの?」
するとパトロールを終えて本部へ帰ってくる魔術隊と鉢合わせた。先頭を歩くメイヴィスに事情を説明する。
「わかった、私たちも、探してみる」
「ありがとう!頼むよ!」
メイヴィスと別れ、俺は再び走り出す。メイヴィスにはもし奴が見つかったら拘束して俺のところへ転移して知らせるよう頼んである。何かあればすぐ分かるはずだ。
「くそっ……見つからないな」
しばらく走り回ってみたが、それらしい人物は見当たらない。逃げられたか……?
立ち止まって呼吸を整えていると、俺の横の空間が光り出した。
するとメイヴィスが現れ、珍しく大声を張り上げた。
「ルーシャス、いたよ!」
「本当か!?すぐ連れて行ってくれ!」
メイヴィスは俺の手を取り、今しがた出てきた魔法陣へと向き直って魔法陣へ飛び込んだ。
「やっほールーシャスくん!こいつだよね?」
転移した先には笑顔のシルヴィアが大岩にもたれかかっていた。
大岩の下敷きになっているのは黒いフードを被った怪しげな人物。間違いない。奴だ。
「ようやく会えたな、魔獣」
「何故……我の居場所が分かった?」
「そんなもんみんなで虱潰しに探したからに決まってんだろ!数の暴力舐めんな?」
悔しそうに下を向く魔獣。やっと……やっと奴を捕まえることができた!
さあ、どうしてくれようか?
「さてと、とりあえず名乗ってもらって顔を見せてもらおうか」
「それは……できない。まだお前に我の素性を知られるわけにはいかない」
そう言うと思ったよ。なんでか知らないけどこいつは俺たちに素性を明かしたくないらしいことは分かってる。なら、強引に聞き出すだけだ。
俺は胸ポケットからエリック先輩に貰った魔法陣を取り出し、魔獣に向ける。
「待て、なんだそれは」
「お前に敢えて説明する必要は無いけど……まあいいか。これは人の本質が見える魔法陣だ。こいつを使えば、お前に隠し事はできない」
俺が丁寧に説明してやると、魔獣の様子が明らかに焦ったものに変わった。
「待て、そんなものを使って我のことを知ってどうするつもりだ?我をこの場で倒してしまった方が、お前たちにとって都合が良いのではないのか?」
自らを倒すことを提案してくる魔獣。どうなってんだ?そこまでして正体を知られたくないって、一体何を隠してるんだ。
好奇心に駆られた俺は、魔獣に魔法陣を近づけ、魔力を流した。
「待て!やめろ!やめてくれ!!」
叫ぶ魔獣を無視して奴の本質を見る。
そこで俺が見たのは……
「……は?なんでお前にこの記憶がある?」
「くそぉ!仕方ない!」
魔獣は突然魔力を解放し、大岩を吹き飛ばした。
そのまま逃亡した魔獣の背中を見送る俺は、何をすることもできなかった。
「ルーシャス……?何を見たの?」
「いや……なんでもないよ」
メイヴィスの問いを適当に誤魔化す。俺が見た記憶は、俺が前世で通っていた高校の記憶だった。
ルーシャス「なんか謎が深まっていってるじゃないか!いいぞいいぞ。もっとシリアスでいけ!」
アリス「でもルーシャス様、この作品でシリアスはNG案件ですわ。とにかくどんな時でもふざけていくがモットーですの」
ルーシャス「そんなモットー知らなかったんだが!?まあとにかく、次回どうなるのか楽しみだ!」
ぜひお楽しみに!




