95.しめいてはい
「アニキィ!!アニキ!!出たでやんすよ!!アニキ!!」
1階から異常に騒がしいコーディの声が響く。あの転移魔法陣、誰でも入って来れるのまじで良くないな。エリック先輩に言って家族しか入って来られないように改造して貰えないだろうか。
それにしても朝からなんだ?コーディがここまでやかましいのなんて珍し……くはないな。割といつものことだ。
まあ一応コーディの話を聞きに行くか。
「コーディ、朝からどうしたんだ?」
「アニキ!!やっと降りて来たでやんす!!聞いて欲しいでやんすよ!!」
「うん聞くよ。聞くから落ち着いて何があったのか話して貰えるか?」
コーディは2回大きく深呼吸をしてから改めて話し始める。
「例の、人間の魔獣があっしのところに現れたでやんす!」
「な!?本当か!?」
「大マジでやんす!あっしもびっくりしたでやんすよ!」
なんで奴がコーディのところに……?でも奴はエリック先輩のところにも現れたことがある。俺とある程度親しい人を狙って関係の崩壊を狙ってるのか?
でも奴はカーロス国王から王位を奪い取ることも目的の一つだったはずだ。何故俺の周りを執拗に狙ってくる?本当の目的は何なんだ……?
「よし分かった。コーディ、奴に何かされたか?」
「特に何もされなかったでやんす。でも、少し話したでやんすよ!奴が犬派か猫派かを聞いてきたんで、あっしはブランド豚一筋って答えたでやんす」
「会話がしょうもねえな!!そんでブランド豚は完全に食うつもりだろ!!」
「あと、朝はご飯派かパン派かも聞かれたんであっしは白湯派って答えたでやんす」
「おじいちゃんか!!もっと食えよ若いんだから!」
人間の魔獣もコーディもボケだからなあ。ツッコミ不在だとボケ合戦になるのか。俺も色んな意味でその場にいたかったよ。
「それから最後に、ルーシャスのアニキが王位を狙ってるから国王の近くにいる時は気をつけろって言われたでやんすよ。そんなわけないと思ったから相手にしなかったでやんすけどね」
「最後だけまともだな!それまでの会話が必要だったかはともかく、その対応は偉いぞ!」
もちろん俺は王位なんて狙ってない。アリスとミーナちゃんと平和に暮らしていくのが俺の望みだ。王様なんてめんどくさいもんになりたくねえよ。
でもやはり、これまでの奴の動きから推測するに、奴の狙いはカーロス国王よりも俺のようだ。何故俺を狙うのか、何が目的なのか全く分からないが、俺を周りから隔絶させようとしている。つまり、俺を裏切り者に仕立てあげたいということだ。
それは奴自身の今の力では俺を倒しきれないからだと思われる。敢えて自分で襲って来ないということは、奴自身の戦闘力はあまり高くないのかもしれない。
てことは、今がチャンスだ。コーディが人間の魔獣から本名を聞き出し、顔を見ていれば転移魔法陣が使える。
「コーディ、奴から情報を聞き出したりとかしてたりする?」
「情報、でやんすか?いや、特に何も聞けてなかったでやんすね……。突然のことだったからボケること以外考えられなかったでやんす」
「なんでボケることは考えられるんだよ!!そんなとこで競い合うなよ!!」
まあそう上手くは行かないか……。でも奴がコーディのところに現れたということは、俺の親しい友人を狙ってくる可能性があるということだ。
つまり、俺の友人たちに奴が現れたら名前を聞き出し、顔を見るよう周知しておけば俺は誰かと一緒に転移魔法陣を使うことができる。
何か起こる前に倒してしまうのが一番だ。とりあえず俺と親しい友人を集めてこのことを伝えるんだ。
「コーディ、このままここにいてくれるか?俺の友達に伝えなきゃいけないことがある。朝早くて悪いけど、すぐ済むから待っててくれ」
「かしこまりでやんす!あっしも手伝いやしょうか?」
「助かる!じゃあコーディはハンナとシルヴィア、メイヴィスを呼んで来てくれ!俺はジェームズとエリック先輩、あと上にいるアリスを呼んで来る!」
俺たちは転移魔法陣を使い、それぞれの家へ転移して行った。
そしてコーディのおかげで全員が揃い、俺はみんなに呼びかける。
「みんな、朝早くからごめん。でもどうしても話しておかないといけないことがあるんだ」
「ええ!?それはびっくりだ!!」
「まだなんも言ってねえよジェームズ!みんなボケなくていいからとりあえず聞いてくれ!」
全くこいつらは……。とりあえず全員を黙らせ、俺は人間の魔獣について話し始める。
「今朝、例の人間の魔獣がコーディのところに現れた。以前はエリック先輩のところにも現れたそうだ。奴が何を考えているのかはわからないけど、恐らく狙いは俺。つまり、ここにいる人たちのところへは奴が現れる可能性がある」
「大丈夫、私、倒せる」
「私も私もー!岩弾で一発だよ!」
「あたしも戦える自信はあるわね。ていうかみんな強いし大丈夫なんじゃないの?」
女子たちが口々に奴を倒すと意気込み始めるが、奴は本体を見せたことが無い。恐らく現れるとしたら声だけか、俺のところに初めて現れた時のようにホログラムのようにして現れるかだ。
エリック先輩の時は声だけだったらしいが、コーディはちゃんと姿を見ている。どういう違いなのかは分からないが、とにかく奴の本体が直接やって来る確率は低いだろう。
「てことで、みんなには情報収集に協力して欲しいんだ。もし奴が現れたら、奴の本名と素顔を確認して欲しい。声だけで現れる場合もあるから、その時は本名だけでも。顔と名前さえ分かれば俺が奴のところに直接転移して倒しに行けるからさ。みんな、頼めるかな?」
俺が尋ねると、みんなは一斉に首を縦に振る。
しかしここでアリスが口を開いた。
「でもルーシャス様、奴はかなり適当なんですのよね?もしはぐらかされたらどうするんですの?」
「もちろんそこは考えてるよ。エリック先輩、例の魔法陣をお願いします」
俺の言葉でエリック先輩は人数分魔法陣を配り始める。
「ルーシャス、これはなんだ?」
「これはエリック先輩が発明した、人間の本質が分かる魔法陣だ。奴は必ず適当なことを言ってくる。だから、その魔法陣を使って奴の本質を見るんだ。そしたら本名も顔も、それどころか目的も分かるかもしれない」
「なるほどですわ……。念の為、これは私たちの家族やメイドさんにも配っておいた方が良さそうですわね」
アリスの言う通りだ。俺の周りにいる人たちはみんな警戒が必要になる。今はとにかく奴の情報を集めることが最優先。まだ奴が直接危害を加えてくることは無さそうだが、何かある前にこちらから動きたい。
俺はみんなを帰した後、騎士団本部にエリック先輩の魔法陣を配りに向かった。
ルーシャス「おお……いよいよなんかクライマックス感が出てきたか?話が動き出しそうだぞ」
アリス「この作者にしては割と真面目に書いてますわね」
ルーシャス「この調子で完結まで頼むぞ?笑いよりストーリーだぞ?」
ぜ、善処します……。




