93.けんきゅうのせいか
「さて、ルーシャスくん。今日は一体何の用だね?と言っても、察しは付くがね」
「察していただいた通りですよ先輩。例の件で来た次第です」
エリック先輩と怪しげな会話をする俺。いや別に本当に怪しいことしようとしてるわけじゃないよ?飲み会で嫌いな上司の唐揚げにレモンかけてやろうとか考えてないよ。
嫌がらせが地味?気にすんな。
そもそも俺の上司ってダスティンさんしかいないし。
ダスティンさんが嫌な上司かって言われたらそんなことないからな。......いや、割と嫌かもしれんな。勝手に人の家を豪邸にしちゃったりするし。嫌と言うよりはお節介が過ぎる感じか。
いやダスティンさんのことはどうでもいいんだよ。本題は今俺たちが何をしようとしているかだ。
おもむろにエリック先輩がA1サイズの紙を広げる。そこには紙いっぱいに魔法陣が描かれていた。
「大方これのことだろう?」
「ええ、それのことです!遂に完成したんですか?」
「当然だよ。私を誰だと思っているのかね?」
おお......!遂にあの魔法陣が完成したんだな!
俺の目の前にあるこの魔法陣は、高校生の時からずっと研究していた、人に照準を合わせて転移できる魔法陣だ。
転移魔法陣はそもそもが属性魔法陣よりもかなり複雑に出来ていて、場所を設定するプロセスが存在する。時間転移魔法陣はここに転移したい時間を設定するプロセスが加わって、より複雑になるのだ。
「これの完成には長い時間を要したよ......。私の研究のほとんどは、この魔法陣に費やしたと言っても過言ではないね。ついでに異世界にいける魔法陣は開発したけど」
「いやそっちの方が凄いですって絶対!ついでで済まないです!」
「しかもあれは奇跡的に消費魔力が少なくて済んだからね。私の魔力量でも魔法陣を発動させられる」
うんだからなんで異世界転移の方が魔力少なくて済むんだよ。絶対そっちのがすげえよ。もう今出てきた魔法陣どうだっていいわ。
「さあ、長い年月を費やした転移魔法陣の最後の実験だ!転移するのはもちろん君。誰に照準を合わせるかは任せるよ?」
「分かりました!早速やってみますね」
俺は魔法陣の中心に立ち、魔力を流してみる。するといつもは場所を設定するプロセスのところが少し変わっているように感じた。ここで誰か人を転移先に設定するんだな。誰にしようか。後で文句言われそうだからアリスにしとこうかな。
俺はアリスをイメージして魔力を流す。すると魔法陣が光り出し、いつもの落ちていくような感覚がやって来る。
光の中を落ちていくと、丸く切り取られた景色が見え始めた。だがその景色は見慣れた桃色のツインテール。彼女なら転移した時に距離が近すぎても問題ないだろう。勢いよくぶつかったらあれだけど。
ちょっと心配しつつ、俺は丸く切り取られた景色に飛び込んだ。
「ええっ!?ルーシャス様!?」
「やあアリス!調子はどう?」
「ええとてもびっくりしていますわ!今どこから来ましたの!?ていうか今日お休みじゃありませんでした!?」
困惑するアリスに魔法陣がようやく完成したことを伝える。
絶対こうなると思ったから転移先はアリスにしておいたんだよな。あと万が一勢いよく飛び出して抱きつく形になっても、アリスなら喜びそうだし。
「なるほど、そういうことでしたの。ようやく完成したのですわね!」
「そうそう。エリック先輩が頑張ってくれだんだ」
「初めての転移先を私にしてくださって嬉しいですわ!これでまたジェームズのところとかに出たら割と落ち込んでましたの。もしそうなったらご飯も5回しかおかわりできないところでしたわ」
「うん十分だね。しかも君の茶碗ほぼどんぶりだからね。それで5杯はむしろ食べ過ぎだね」
アリスの小ボケにツッコミを入れ、俺は再び転移魔法陣でエリック先輩のところに戻る。
あ、帰る時も人を指定しなきゃいけないんだ。これはちょっと不便かもなあ。エリック先輩を指定できる今は良いけど、シンプルに家に帰りたい時とかはミーナちゃんを指定しなきゃいけない。それで帰れるのは帰れるけどミーナちゃんをびっくりさせちゃうなあ。
行きも帰りも心配しつつ、俺はエリック先輩がいる学者協会の魔術室へ戻ってきた。
「おかえりルーシャスくん!ちゃんと転移できたかね?」
「バッチリでした!でもこれ、帰る時も誰かのところに転移しなきゃいけないんですね」
「そこはどうしても変えられなくてね......。魔法陣の種類自体が変わってしまうからその仕様は仕方ないのだよ」
なるほど、場所を指定する転移魔法陣と人を指定する転移魔法陣は併用できないんだな。
うーん、これを使う時にミーナちゃんが買い物とか行ってないタイミングだといいけど。
「ちなみにこの魔法陣は転移先にする相手の本名と顔を知ってないと発動しないシステムになっている。だから君の言うように人間の魔獣のところへ転移するには、奴の本名と顔を知らないといけないね。まあ誰かが知りさえすれば一緒に転移することで解決できるがね」
なんだそのデ○ノートみたいなシステム......。でも誰かが知ってりゃ一緒に転移できるんだな。明日にでも騎士団本部の掲示板に人間の魔獣の指名手配でも出しとくか。
「ところでルーシャスくん、もう一度その魔法陣を使って私と一緒にブラウン先生のところへ転移してくれないかね?この間久しぶりに会って、やはりあの筋肉は素晴らしいと感じたのだよ!」
「あんたほんと筋肉好きだな!部屋にボディビルダーのポスターとか飾ってありそう」
「ああ、ニホンに転移した時に何枚か拝借してきたよ。あれは素晴らしい文化だね。筋肉の美しさを競う競技があるとは!」
「何してんだ!もうどうしようもねえな!泥棒じゃねえか!」
その後も筋肉の素晴らしさを語ってくる先輩を適当にあしらいつつ、俺は学者協会を後にしたのだった。
ルーシャス「あのさ、筋肉終わり多くない?オチとして使い回してんだろ」
アリス「テッパンネタになってきましたわね」
ルーシャス「そういえば話は変わるけどアリスがツインテールって描写あったっけ?」
アリス「多分無いですわよ。これが初出しの情報ですわ。ひどいですわよね!?」
ルーシャス「まあこれでアリスのイメージもしやすくなっただろうから、終盤だけど描写したことを褒めよう」
お褒めいただきありがとうございます?




