92.ちょっととくべつなあさ
俺とアリスが新居での生活を始めてから2年ほど経った。
とりあえずベッドは普通のものに取り替え、例のハート型ベッドはやけに欲しがっていたジュリアお姉ちゃんにあげた。「ルーシャスくんの匂いがする」と言いながらダブルベッドを片手で担いで持って行ったお姉ちゃんに二重の意味で引きつつ、俺とアリスは無事普通のダブルベッドで寝ることができるようになった。
そんな普通の日々が続いて今日は1月15日。そう、俺の誕生日だ。だけど今日は仕事。子どもの頃のように一日中パーティーをするわけにもいかない年齢だ。なんてったって今日で成人だからな。ちゃんと大人として仕事に行かないと。
「あれ......?アリス?」
ベッドから起き上がると、いつもは俺より起きるのが遅いアリスがいない。珍しいこともあるもんだ。とりあえず下の階に行ってみるか。
「アリスー?起きてるのー?」
下に向かって声をかけながらやたら長い螺旋階段を下りる。
ダイニングのドアを開けると、突然パーン!と音が鳴って紙テープが頭上から降り注いだ。
「......え?なんだ?」
「ルーシャス様、お誕生日おめでとうですの!」
「おめでとうございます〜!」
ダイニングにはレンズをバースデーケーキに型どったサングラスをかけたアリスとミーナちゃんが、クラッカーを構えて立っていた。
「えっとー、ありがとう?」
「ルーシャス様、今日はお仕事ですわよね?どうせ朝早く起きてくると思ったから2人でお祝いの準備をしましたの!」
「パフォーマンスも練習したんですよ〜!今からやるのでそこで見ててくださいね〜」
いやなんでダイニングの入口で見にゃならんのだ。廊下とダイニングの境目みたいなとこにずっと立ってなきゃいけないのかよ。
なんてツッコミを入れていると、どこからか軽快なビートを刻む音楽が流れてくる。
すると2人はなんとパントマイムをやりだした。
ええ......。シュールすぎるだろ......。どこで調達してきたのか、大きな黒い箱を使ってエスカレーターのパントマイムもやってるし。
これを見せられて俺はどう反応すればいいんだよ。まじ早く終わんないかな。
2人のパントマイムは5分ほどだったが、地獄のような時間を過ごした俺には数時間にも思えた。
パフォーマンスを終えて一旦はけていった2人を見送り、俺は乾いた拍手を送る。
「ルーシャス様、どうでしたの!?」
「私たちいっぱい練習したんですよ〜?」
「うん、クオリティが高くてびっくりしたよー。2人ともありがとー。」
棒読みで感想を述べ、俺はとにかくこの時間を終わらせることに尽力する。
「余興はこれぐらいにして〜、朝ごはんを食べましょう〜!今日は頑張っちゃいましたよ〜?」
そう言うとミーナちゃんはテキパキと料理を運び出す。
結構量があるが、うちにはフードファイターがいるのでこれぐらいが丁度いい。
ミーナちゃんが運んだ料理を見ると、クラブハウスサンドイッチにポテトサラダ、フルーツの盛り合わせやコーンスープがずらりと並ぶ。どうやらサンドイッチはミーナちゃんの得意料理になったようだ。まあ大体朝はサンドイッチだし、アリスが大量に食べるから作れ慣れたのが大きいのだろう。
そして何よりポテトサラダだ。普段は手間がかかるので、家事を一人でやってくれているミーナちゃんはあまり作らない。でも今日ポテトサラダが並んでいるということは、いつもより早起きをして作ってくれたのだろう。俺の為に、ありがたいことだ。
「さあさあお2人とも〜、いっぱい食べてくださいね〜?」
「これだけあれば私も遠慮しなくていいですわよね?早速いただきますわ!」
「勢いが凄いね君は......。まあでもほんとに嬉しいよ。ありがとう、ミーナちゃん」
「いえいえ〜」
俺たちはみんなで手を合わせて食べ始める。
アリスだけ食べるペースが俺とミーナちゃんの5倍ぐらいだが、今日も平和な一日の始まりだ。
「そういえばルーシャス様、お祝いはこれで終わりではありませんのよ?」
「え、そうなの?」
「もちろんですよ〜!本番はルーシャス様が帰ってきてからです〜」
まだ何か用意してくれてるのか。この2人は本当に俺のことを大事に思ってくれてるんだなあ。パントマイムは正直どうしていいかわからなかったけど、祝ってくれる気持ちは素直に嬉しいよ。
「ごちそうさま!」
「ごちそうさまですわ!」
「お粗末さまです〜」
俺たちは再びみんなで手を合わせ、綺麗になった皿を前にして嬉しそうに笑うミーナちゃんにお礼を言う。
さあ、たくさん食べたことだし、今日も仕事頑張るか!
アリスと一緒に転移魔法陣の部屋に行って騎士団本部へと出勤する。今日は槍術隊の訓練を2人で視察した後、魔術隊と一緒に街のパトロールだ。忙しくなるぞ!
その晩、家に帰ってきた俺はダイニングに人一人が入れるほど大きなピンクのプレゼントボックスがあるのを見て全てを察し、容赦なく箱を開けてジュリアお姉ちゃんを引っ張り出すのだった。
ルーシャス「2回連続パーティー回ってめちゃくちゃ平和だな」
アリス「良いことですわ。どうせクライマックスでは戦ってることでしょうし」
ルーシャス「おいおいこらこら、先の展開を言うんじゃないよ。まあ一応敵が残ってるからね」
アリス「でもこのペースでちゃんとそこまで描いてもらえるのでしょうか?私心配になってきましたわ」
うん、私も心配です。ちゃんと完結させるつもりだから安心してね!




