90.しんこんさんいらっしゃい
アリスにプロポーズしてから約2年。俺たちは結婚した。アリスの苗字はマクロフリンからグレイステネスに変わって、騎士団の身分証なんかも申請し直さないといけないから地味に大変だった。日本で結婚したら免許証やあらゆる身分証の申請をし直さないといけないからより大変なんだろうな。
先日結婚式も終え、今日は以前から建てていた新居に初めて入る日だ。
「どんなお家になっているのか楽しみですわね!」
「そうだね!色々話し合って決めたけどちゃんと反映されてるんだろうか」
少し不安になりつつ、俺たちは新居へと向かう。新居は俺の実家とアリスの実家のちょうど中間地点辺りにある。俺たちの実家同士は馬車で数時間かかる距離なので、新居からどちらかの実家に行く時も馬車を使うことになる。なんてことはなく、エリック先輩に協力してもらって常設の転移魔法陣を描いて貰った。
これでどちらの実家に行く時も馬車を使わなくて済むし、騎士団本部へも一瞬で移動できる。もう転移魔法陣の落ちていくような感覚にも慣れたもので、俺たちは転移しながら会話もできる。まあ髪の毛は逆だってるし服はめちゃくちゃ翻っててスーパー〇イヤ人みたいになってるんだけど。
そういえば、転移魔法陣が常設されているのに俺たちは馬車で新居へと向かっている。それはもちろん外観からしっかり見たいし、ちゃんとドアを開けて中に入りたいからだ。
その為に昨日俺はマクロフリン家に泊まり、朝一で迎えに来てくれた馬車に乗り込んで新居へ向かっているのだ。ついでに熱い夜も過ごしちゃったりして。
「お2人とも、着きましたよ」
御者の声で俺たちは馬車から降りる。
すると目の前には大理石ベースの巨大な豪邸が佇んでいた。
「うん......?なんか思ってたよりでかいぞ?」
「そうですわね......あ!」
想像よりかなりでかい家に困惑していると、アリスが玄関ドアに張り紙がしてあるのを見つけた。
2人して張り紙を覗き込む。
『アリス、ルーシャスくん、結婚おめでとう!これは私からの結婚祝いだ。どうも君たちは自分たちの新居をこじんまりさせようとしていたようだからね。騎士団総司令官の夫婦たるもの、住む家も相応に立派じゃないと部下に夢が与えられないよ。では、結婚生活楽しむんだよ。ダスティン・マクロフリンより』
俺たちは2人揃ってズッコケた。ダスティンさん何してんだよ!!うちはまだメイドさんもいないし掃除とか大変になるだろうよ!!
「お父様ったらまた余計なことを......。そんなに贅沢な暮らしは求めていないですのに」
「本当だよ......。これは持て余すなあ」
「大丈夫ですよ〜、私に任せてください〜」
「えっ!?」
聞きなれたのんびりした声に俺たちが振り向くと、そこにはオレンジ色をした髪にネコ耳が付いた見慣れたメイドさんが立っていた。
「ミーナちゃん!?どうしてここに!?」
「どうしても何も、私はルーシャス様付きのメイドですよ〜?アリス様とご結婚されたのならお2人付きのメイドになります〜」
まじか。それはとても助かるんだけど、俺の実家の方は大丈夫なのだろうか。俺がいなくなって、騒がしい3人をイーナさん1人で相手しなきゃいけなくなったってことだろ?
そのことをミーナちゃんに尋ねると、イーナさんは1人でやれる自信があると言ってミーナちゃんを送り出したそうだ。
俺が生まれた時にはまだ15歳で頼りなかったイーナさん。今では頼もしく成長したようだ。感慨深いな。
「そういえば、マクロフリン家にはアリス付きのメイドさんはいなかったの?あれだけ人数がいたけど」
「うーん、一応いましたわ。でも彼女はメイド長で忙しかったので、他のメイドさんもたくさん手伝ってくれていましたわ。なので実質私付きのメイドさんはいなかったですの」
「そういうことで私がお2人付きのメイドとして働くことになったんですよ〜。ルーシャス様、アリス様、これからよろしくお願いします〜」
ミーナちゃんはもう23歳。しっかりしたメイドさんに成長しているし、何より魔術1級の凄腕魔術師だ。俺とアリスは基本的に同じ時間に仕事に出ている。留守を任せるのにこれ以上の適任はいないだろう。若干家事が心配だが。
「さ〜て、早速お家に入って今日のお昼ご飯を作りますよ〜!お2人は新居でごゆっくりなさっていてください〜」
腕まくりをして張り切るミーナちゃん。10歳の頃の方が大人びていたように見えたのは気のせいだろうか。
彼女は最初の頃はしっかりしていたが、魔術1級を取るためにマジカル☆暴走ネコちゃんになったり、料理が何かしらの動物の形になっていたりと結構無茶苦茶な面がある。
それでも俺が生まれた時から一緒にいてくれたメイドさんだ。俺も心から信頼している。
彼女が新居でもメイドとして働いてくれるのは本当に心強いことだ。
「ルーシャス様、早速お家に入るのですわ!私見たい部屋がいっぱいありますの!」
「そうだね。多分予定よりかなり部屋が多くなってるから何に使うか考えないとな」
「どうぞごゆっくり見て回ってください〜。ご飯が出来たら及びいたしますね〜」
ミーナちゃんの言葉に甘えて、俺とアリスは家を見て回ることにした。
早速ドアを開けて中に入ると、とんでもなく広い玄関が俺たちを迎えてくれる。
うん、この時点で俺たちの予定と違うね。分かってたけど。俺とアリスは2人で住むのに必要最低限の家を注文していたのだ。決して豪邸に住もうとしていたわけではない。全く、ダスティンさんめ。
1階にはだだっ広いリビングにどてかいソファが置いてあり、その正面にはこれまたどでかい暖炉が設置してあった。おいこれちゃんと炎を起こすのにめちゃくちゃ時間かかりそうだな。俺の風魔法ありきの設計だろ。
ダイニングはもうサミットみたいなテーブルが置いてあった。こんなに人呼ぶことあるか?
そしてお風呂は俺の希望で日本式のバスタブがあるタイプにしてもらった......はずなんだが、銭湯ぐらい広いぞ。壁に富士山そっくりの山が書いてあるのは誰の入れ知恵だ?
更にトイレ。ここは普通かと思いきや、なんと音姫まがいの音声装置(魔道具)が付いていた。流れる曲はちょっとそんな気がしていたが、俺たちが卒業した高校の例の校歌だ。嫌だわこんなの!用を足す度に切なくなるだろ!
1階の一番奥には大きな魔法陣が描かれた部屋。これが転移用の魔法陣だ。
これからはこの部屋から出勤したり帰省することになるということだ。
ちなみにこの部屋、何故か熊の魔獣の剥製が置いてあったので後で撤去しておくことを心に決めた。
まじダスティンさん何してんだよ!趣味が行方不明だわ!
「お父様の趣味は気まぐれですの。その時その時で置きたいものを置いていくのですわ。実家でも困ってましたの!」
「そうなんだ......。それを自分が住まない家にもやっちゃう辺り説教が必要だな」
アリスの苦労話を聞きながら2階へ向かう。
2階は俺たちの寝室と、ミーナちゃん用と思われる寝室があった他は空き部屋になっている。まあこれから子どもが生まれたりメイドさんが増えたりするかもしれないし、部屋はいくつあってもいいんだけど。
俺たちの寝室に入ると、ピンクの照明にハート型のベッドが置いてあって速攻でドアを閉めた。おい誰がこんなピンキーな部屋にしろって言ったよ!?またダスティンさんだな?
ちなみにミーナちゃんの寝室も見てみたけど(まだミーナちゃんはキッチン以外に入ってないので彼女の私物は何も置いていない)、大きなネコが口を開けてその中にベッドがあるデザインになっていた。どっかの通販サイトで見たことあるようなデザインだな。ていうか23歳が寝る部屋がこんなネコネコしてて良いのかよ!
「ルーシャス様〜、アリス様〜、ご飯ができましたよ〜」
ちょうど良いタイミングでミーナちゃんが呼びに来たので、俺たちはサミットテーブルが置いてあるダイニングへ戻る。
ツッコミ疲れたからご飯食べて回復しないと。
ミーナちゃんが出てきたハンバーグは、どう整形したのか四分休符の形になっていた。
休めよってことか〜。じゃねえわ!なんでこんな形なんだよ!!迷走具合まで成長してどうすんだよ!!
更に疲れる運命を受け入れた俺は、全力でミーナちゃんにツッコミを入れるのだった。
ルーシャス「この新生活、大丈夫なのか......?」
アリス「ミーナさんはちょっと独特な料理を作るだけだから大丈夫ですけれど、お家の中がやりたい放題でしたわね」
ルーシャス「次回までに改善されてるといいんだけど。頼むぞ、作者!」
可能な限り普通の家を目指します!




