86.あたらしいまほうじん
「いきなり呼び出してしまってすまないね、ルーシャスくん」
「いえ、それより今までと違う魔法陣ができたって言ってましたけどどんなんですか?」
「それを今からお見せしようと思っていたのだよ!さあ、着いてきてくれたまえ!」
ここは学者協会。数日前エリック先輩から手紙で呼び出しを受け、俺は初めてここに足を踏み入れた。
魔法学者たちが集まるこの協会では、魔法に関する様々な研究が為されている。
俺たちが普段使う魔力灯や魔道具は、ここの教会で発明されたものがほとんどだ。
そんな学者協会でも、俺の噂はそれなりに広まっているらしい。俺の方を見てひそひそと噂話をする学者が数名。
まあこの歳で騎士団総司令官補佐だもんな。噂になることは免れないと思ってる。
「あれがルーシャスって子よ。エリックくん知り合いだったのね」
「あれがそうなのね。あのムキムキのブラウン先生の教え子っていう......。一体どれほどの筋肉だったのか話を聞いてみたいわね」
うん、なんか話題は俺のことじゃなさそうだ。
ていうかエリック先輩以外の学者もみんな筋肉に興味あるのかよ!どういう趣味嗜好をしてんだ学者ってのは。
「さて、ここだよルーシャスくん!」
エリック先輩に案内されたのは広めの魔術室。中を見てみると、大きな魔法陣が描かれた紙が床一面に広がっていた。
「これがその今までと違うっていう魔法陣ですか?」
「その通りだよルーシャスくん!今からこれの最終実験に付き合ってもらおうと思ってね!」
最終実験?てことはまだ完成はしてないのか。
大方魔力消費が大きいからとかそんな理由で呼ばれたのだろう。できるだけ魔力は戦闘がある時の為に取っておきたいんだけどな。
まあいいけど。
「ではルーシャスくん、早速これに魔力を流してもらえるかな?」
「え、説明無しですか?いきなり知らない魔法陣に魔力を流すのはちょっと怖いんですが」
「まあまあ、危険ではないから安心したまえ!」
自信満々のエリック先輩。態度はいつも同じだから信用できるかは五分五分だ。
まあエリック先輩も今では魔法陣を使って大型魔獣ぐらいなら倒せるようになってるし、俺がいれば問題ないか。
そう思い、俺は魔法陣の中へ入った。エリック先輩も着いてくる。
「それじゃ、いきますよ?」
「よろしく頼む!」
俺は魔法陣に手を添え、魔力を流した。魔力を流す過程で、場所を設定するようなプロセスがあった。転移魔法陣か。適当に設定すればいっか。
ほどなくして俺たちは光に包まれ、落ちていくような感覚に襲われる。
もう何度味わったことだろう。今では俺は転移中も真顔を保つことができるようになった。目覚しい成長だ。
「ルーシャスくん、見えてきたよ!」
先輩の指差す先を見ると、いつも通り丸く切り取られた景色が見える。東〇ドームそっくりの建物が見えているから、行先は俺たちの母校か?
いやでもそれだと普通の転移魔法陣だし、あんなに大きい魔法陣を用意する必要も無い。
何がどう普通と違うんだろう?
深まる謎とは裏腹に、目的地はもう目の前に迫っていた。
光を抜けて軽い着地を決める。すると相変わらず東〇ドームそっくりの建物がその姿を現す。
いやーここに来るのも久しぶりだな。今日はジェームズやコーディも登校してるのかな?
「着いたね、ルーシャスくん」
「ええ、でもなんで高校に?」
「よく見たまえ、ここは本当に私たちが通っていた高校かね?」
はい?先輩は何を言ってるんだ。こんな東〇ドームそっくりの建物なんて、ジェルダーリ王国には俺たちの高校しかないはずだ。
「私はよく見たまえ、と言ったんだよ。その建物が私たちの母校とそっくりなことには驚いたが、ここは君がなんとなく設定した行先だ。私の仮説を立証するのに十分な証拠を持った、ね」
何を言ってる?今日の先輩かなり変だぞ?
ここは俺たちの母校じゃないのか?だとしたらもう東〇ドームそのものしかこんな形の建物無いだろ。
......東〇ドームそのものしか無い?いやまさか、そんなわけがない。あり得ない。
「どうしたんだいルーシャスくん?まさかこの私が知らない建物のことを知っているのかね?」
エリック先輩が追い討ちをかけてくる。そんなはずない!ここが俺が前世でいた日本だなんてそんなことはあり得ない!
「もう、諦めたまえ。私には隠し事はできないよ」
「あんた......俺の何を知ってるんだ?」
「それは君自身が一番よく知っていることだろう?」
エリック先輩の目はいつも通りだ。特に俺に向かって疑いや攻撃の目を向けているわけではない。
だけど、この先輩は知っているようだ。俺がこの11年間誰にも話したことのない事実を。
辺りを見渡すと、高層ビルに囲まれている。近くに何本か電車も走っているようだ。
唯一俺が知らないのは、柱に貼り付けられている戦隊ヒーローのポスターだけ。俺が知っているヒーローとは姿かたちが変わっているが、ああいうのは毎年変わるもんだから俺が知らなくても当たり前だろう。
もう、言い逃れできないのか......?
「必死に考えているようだが、私の中ではもう確信に変わっているのだよ、ルーシャスくん」
エリック先輩はそう言うと、少し息を吸い込んで、震える声でこう言った。
「君、転生者なんだろう?」
ルーシャス「え?ここでバレるの?ていうかアリスがこの後書きにいるのマズくない!?」
アリス「あら、ここでの私は一読者という設定ですから知ってましたわよ。この空間はパラレルという認識でOKですわ」
ルーシャス「あ、そうなのね。じゃあいっか。じゃあいっかじゃねえよ!どこで終わってんだよ!」
アリス「ちゃんと次の更新で畳んでくれますわよ!ね?作者?」
誠心誠意頑張ります!




