83.きしだんのれきし
ダスティンさんにこれまでのアリスとの経緯を夜まで洗いざらい話させられた入団式の翌日......。
俺とアリスはそのダスティンさんに連れられ、座学ということで机へと向かわされていた。
昨日のことがあったから気まずすぎるけど、こういうのは大事だからちゃんとプライベートとは分けないとな。仕事だし。
「さて、今日から君たち2人を将来の総司令官にするべく、騎士団についての授業を行うよ。心して聞くんだぞ?」
授業って言い方をされると学生に戻ったみたいでちょっと抵抗があるな。
まあ仕方ない。これも俺とアリスの英才教育の為だ。ダスティンさんの言う通り、心して聞くことにしよう。
「ではまず、騎士団の歴史についてだ。私たちが所属する王国騎士団がいつ頃出来たのか、知っているかね?」
「確か約130年前でしたっけ。身分制度の走りがこの辺りだから、この時代にはもう騎士団があったんですよね?」
俺が即答すると、ダスティンさんは満足そうに頷く。良かった、正解みたいだ。
「その通りだ。高校でよく勉強してきたようだね。騎士団が出来たきっかけは、約200年前に現れたとされる人間の魔獣だ。この魔獣を倒した「暁の剣士」が村の人間に武術を伝え、戦えるようにした。その後何度か各地で魔獣の襲撃があったが、その村の人々が武術を使って倒していった。これが、後に騎士団となるんだ」
うん、この話知ってるな。ていうか身をもって体験したわ。てことは、俺がいなかったら王国騎士団は生まれなかったのか。知らない間にとんでもねえ重責背負わされてんな俺。
「そして、騎士団の走りとなった武術を使う人々のいる村の村長が今の王族の祖先とされている。この村長は村人たちに慕われ、予言の力を持っていたそうだ」
うんこれも知ってる。ていうか会ったことある。今のカーロス国王もあの婆さんの子孫なのか。そこだけは知らなかったな。
「この村長は自分の村を中心に王国を作り、騎士団を設立した。このときはまだ正式に騎士団とは言われていなかったがね。人々が魔獣の襲撃に遭った際対応する戦闘集団という感じだったそうだ」
「それで、その戦闘集団が騎士団になったのは何故ですの?そのままでも問題は無いように思えますわ」
今まで黙々とノートを取っていたアリスが手を挙げて質問する。まあこれも大方予想はつくが、2番目に現れた人間の魔獣がきっかけだろう。
「その通りだルーシャスくん。えらく人間の魔獣について詳しいようだが、特別な補習でもしてもらったのかね?」
「あんたも心読むのかよ!親子揃って気が抜けねえな!まあ、補習はしてもらってましたね。ブラウン先生って人に」
「何、ブラウンか!あいつは何度も騎士団に勧誘したのだが、魔獣の研究をするの一点張りで取り合ってくれなくてね.......。最後の方には勧誘の話をしても筋肉を見せつけて誤魔化されてしまったんだよ」
それ誤魔化せてんのか!?どちらかと言うと勢いで押し切られただけの気がするぞ。
まああのブラウン先生のことだ。騎士団には入らないだろうな。
「ブラウンが教えたのならそこまで詳しいのも納得だ。それはいいが、話を戻そう」
ここからダスティンさんによる騎士団設立の話が始まった。
ざっくり説明するとこんな感じだ。
まず最初の人間の魔獣、レオンの話は代々王族と貴族に伝えられていた。でもレオンの時点では他の魔獣を操るぐらいしか能力が伝わっていなかったので、具体的に対策を取ることがされていなかったらしい。
だが約130年前、再び人間の魔獣が現れた際は闇魔法で作られた偽金で米を買い占められ、人々の生活から米が消えた。まあこの国はパンやパスタも主食として食べるからそんなに大きな問題ではないんだけど。
しかしこの事件がきっかけで闇魔法というものの存在が知れ渡ることになった。
今までは動物の魔獣が闇雲に襲ってくるのに対処するのが仕事だった貴族は、闇魔法の応用性を案じていざという時に連携を取りやすくする目的で「王国騎士団」を設立した。
という感じだ。
ブラウン先生のおかげである程度知ってはいたが、俺が知っていたのは人間の魔獣から見た歴史だ。騎士団側の歴史を教えられるとなんだか少し新鮮に感じるな。
「ここまでが騎士団設立の歴史だ。ではここで2人に問題だ。3番目に人間の魔獣が現れた際、騎士団はどう対処したと思う?」
ここで不意に俺たちへの質問が投げかけられた。そういや3番目の人間の魔獣は危険性が薄そうだから放っておいたんだよな。だから実はあまりよく知らない。
「ルーシャス様、その人間の魔獣は何をしたんですの?」
「ああ、アリスは知らないんだっけ。簡単に言うと、人を笑い死にさせたんだよ」
「......はい?どういうことですの......?」
まあそうなるよなあ。俺もブラウン先生から聞いた時はそうなった。
だって意味が分かんないもん。こういうと不謹慎だけど、もっと悪いことしろよな。
「うーん、飲み込めないのですけれど、対処するとしたらお笑いで勝つことが思いつきましたわ」
「ファニーすぎるだろ!もうただのお笑いバトルじゃねえか!」
「おおアリス、やるじゃないか。正解だ」
ええ正解なの!?それもう騎士団が対処することじゃないよね!?
「その時は人間の魔獣と騎士団の代表2人がお笑いで戦ったんだ。無作為に選ばれた5人の一般市民を、5つのステージで笑わせていく。最後のステージ以外は3人笑ったらクリアで、最後のステージは全員笑わせないとクリアにならないルールだったそうだ」
うんもう完全にイ〇モネアだろ!!そもそも笑い死にさせるのがその魔獣の攻撃なのに、騎士団側も人を笑わせてどうすんだよ!加担してんじゃねえか!!
「このように、人間の魔獣は様々な方法で我々人間を脅かしてくる。4番目に現れた人間の魔獣のことも知っているかね?」
もちろんこれは知っている。なんてったって俺が直々に手を下したからな。まああのタケシはそこまで悪いやつには見えなかったけど。心の友とか言ってきそうな雰囲気があったな。
「約60年前に現れたその人間の魔獣は、貴族と一般市民の間に戦争を巻き起こした。これは200年前の人間の魔獣を倒した「暁の剣士」が現れて倒してくれたとされているんだ。年齢的に辻褄が合わないから、彼は転移魔法陣を使って未来からやって来たとも言われている。これについては私も真相がわからないがね」
「ああ、それならルーシャス様のことですわよ。高校の転移魔法陣を使って人間の魔獣を倒しに行きましたの。200年前には私も同行しましたわよ?」
「ちょっとアリス、それを言うと話がややこしく......」
「なんだって!?君は何かと規格外だと思っていたが、まさかあの「暁の剣士」本人だとは思っていなかったよ!ちょっと詳しく話を聞かせてくれるかね?」
「ほらーこうなっちゃうじゃんー」
こうしてダスティンさんから歴史を学びに来たはずの俺は、何故かダスティンさんに歴史を教えることになったのだった。
まさか2日連続でダスティンさんと夜まで話すことになるとは......。
ルーシャス「もうー、だから黙ってたのに」
アリス「ごめんなさいですわ......まさかお父様があんなに食いつくとは思ってなかったですの」
ルーシャス「もう俺ダスティンさんの顔見るのトラウマになっちゃいそうだよ。どうしたらいいんだ?」
アリス「そういう時は全部作者のせいにすればいいですわよ!根本全部作者が悪いですの!」
え、ちょっと待って酷くない!?




