82.おうさまはおちゃめさん
ガタゴトと心地よいリズムが響く中、俺とアリスは緊張の面持ちで馬車に乗っていた。
今日は騎士団の入団式。その会場はなんと王城だ。
改めて説明するが、俺の言う騎士団とは王国騎士団のことだ。
王族と一般市民を守る為に貴族という階級が設けられており、3等〜1等貴族はこの王国騎士団所属の者がほとんどになっている。
騎士団に入るのに入団試験というものは無く、実質的に高校の卒業試験が騎士団の入団試験を兼ねている。ということで、同期入団の団員たちは高校の同級生たちが多い。
たまにコーディとハンナの父親のようにスカウトされて入団する団員もいるが、その場合は一応入団試験があるようだ。
話を戻すが、騎士団の入団式は王城で行われる。国を護る騎士になるということで、国王から直々に任命される形で入団となるのだ。
しかも俺とアリスに関してはいきなり総司令官のダスティンさんの補佐役になる。
こんなことは滅多に無いようで、俺たちだけ特別任命式があるそうだ。なんてこった。
向かいに座るアリスは固くなっている俺の顔を心配そうに見つめている。
「ルーシャス様、今日は一段と緊張されてますわね......。気持ちは分かりますが、もう少し楽になさってもいいと思いますわ」
「そうは言うけどねえ......。王様なんて会ったこと無いし緊張しちゃうよ」
「そうですの......やっぱりジェームズとコーディを潜り込ませておくべきでしたわね......」
小声で不穏なことを呟くアリス。そんなこと企んでたのかよ!流石に今回は冗談で着いて来られる域を超えてると思うぞ!?
そういえば、ジェームズたちは高校2年生になったのでそれぞれ実家に帰ってきている。
俺とアリスは高校時代ずっと寮にいたので馬車で3日かかる距離をどう通うのかと思っていたが、なんと一人一人に高校までの転移魔法陣が配布されるらしい。
うちのジュリアお姉ちゃんも魔法陣で通学していたそうだ。なんてファンタジーな。
「そういやアリスは王族に会ったことがあるんだっけ?」
「一応ありますわよ。遠い昔ですけれど」
そう言うと昔を懐かしむような目をするアリス。いやまだ君9年ちょっとしか生きてないでしょうに。俺はそろそろ10歳になるが、アリスは誕生日が12月なのでまだ9歳になったばかりだ。
王族に会った記憶があるということはそれなりに意識がある頃だから、そう遠い昔でもないはずなのだが。
「当時は5歳になる少し前でしたわ。王様とその娘、カルミア王女に会って遊び相手になりましたの」
「へえー、何して遊んだの?」
「王城でアフタヌーンティーを嗜みながら婚期の話をしましたわね」
いやOLか!!5歳になる前の子どもが婚期を心配すな!!おままごとでもしてなさい!!
「王女さまはそれはそれは可愛らしくて、私なんか目じゃないほどでしたわ。ルーシャス様が心を奪われてしまわないか心配ですの......」
「それは大丈夫だよ。俺にとってはアリスが1番なのは何があっても変わらないからさ。そこは信用してもらって」
「本当ですの!?嬉しいですわ!約束、ですわよ?」
目を輝かせるアリスが差し出してきた小指に俺も小指を絡ませる。
俺は決してアリスを裏切ったりしない。この時、そう心に決めた。
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王城に着くと、謁見の間の扉の前まで案内される。そこには門番のように立っている2人の騎士の姿と、見慣れた人影が一つあった。ダスティンさんだ。
きっとこの入団式に騎士団総司令官として参加するのだろう。
「よく来たねルーシャスくん。随分久しぶりじゃないか。高校ではずっと寮に住んでたんだって?」
「お久しぶりです。お変わりないようで何よりです。寮に住んでたのはちょっとその方が都合が良かったので......」
「君がいない間それはそれは辛かったよ。なんとか風魔法を覚えて君のようにクッションを作ろうとしたんだがね、どうも私には魔術のセンスが無いらしい」
ダスティンさんの恨みがましい視線から目を背けつつ、俺は引き攣った笑みを浮かべる。
いや俺だってずっとあんたの痔のお世話をしてるわけにもいかないからね?
「もうお父様!ルーシャス様が困っておられますわ!痔が酷いなら早くルーシャス様に総司令官の座を譲るのが懸命だと思いますの!」
「アリス......そうしたいところなんだが私も君たちに教えなければならないことがたくさんあってね。それが済んだらルーシャスくんに総司令官の座を譲ろう」
いやちょっと待って!?早いよ!?俺まだ心の準備できてないのよ!?
アリスもアリスで俺をそんな高い地位に推さないの!まだ見習い団員にすらなってないんだからさ。まあこれからなるんだけど。
「他の新入団員はもう謁見を済ませて騎士に任命されている。君たちが最後だ。私も同席するが、失礼の無いようにね」
ダスティンさんの言葉で再会ムードは消え去り、ピリッとした緊張が走る。
そうだ。俺たちはこれから王様に会って、直接騎士に任命されるのだ。ダスティンさんの言う通り、失礼の無いようにしないと。
「では、扉が開いたら中に入るんだよ」
そう言うとダスティンさんは扉の前に立っていた2人の騎士に目配せし、扉を開けさせた。
前を歩くダスティンさんに続いて、アリス、俺の順で中に入る。一応こういう時は貴族でも位の高い方から順番に入るのがマナーらしい。
部屋の中心に来ると、ダスティンさんはスっと端へ寄り、俺とアリスが残された。
俺たちは右手を心臓の前に添え、片膝を着いて頭を垂れた。
「そんなに固くなるな、期待の新星たちよ。顔を上げて見せておくれ」
想像していたよりかなり柔らかい声が響き、俺たちは顔を上げる。
そこにはグレーの長髪を靡かせ、同じくグレーの口ひげをたくわえた40代くらいのザ・イケおじという人物が立っていた。
この人こそジェルダーリ王国の国王、カーロス・ジェルダーリである。
赤いマントを身につけ、腰には青い宝石の付いた長剣を帯びている。その宝石と同じ青い目を嬉しそうに細める国王は、優しい雰囲気を醸し出していた。
だが一目見て分かった。この人、強い。
「桃色の髪の女の子がダスティンの娘、アリスだね。少し前は我が娘、カルミアとよく遊んでくれていたが、随分大きくなったね。そして青い髪の男の子がルイスの息子、ルーシャスか」
「仰る通りです国王様。この2人には、私の跡を継ぐ人物になってもらおうと思っています」
ダスティンさんが答える。いよいよ俺たちは今から騎士になるんだ。グッと気が引き締まる。
「それじゃあ、一人ずつ自己紹介をしてもらおうかな。名前と武術の級、あと好きな体位を教えてくれ」
おい最後のはいらないだろ!ボケだよな?え、ボケだよね!?
「お久しぶりです、国王様。アリス・マクロフリンですわ。弓術2級を持っておりますの。好きな体位は座位ですわ」
答えるな!!てか座位好きだったのかよ!俺も知らなかったわ!てかダスティンさん凄い顔で見てるんだけど!?とんでもないことしたよこれ!?
え、これ俺も答えなきゃダメ?ああ、王様が期待に満ちた目で俺を見てるから答えなきゃダメなやつだ。はあー。
「お初にお目にかかります、国王様。ルーシャス・グレイステネスと申します。剣術、魔術でそれぞれ1級を持っております。好きな体位は......正常位です」
俺が渋々答えると、王様は満足そうに頷いた。
「その歳でその強さ、期待されているのも納得だ。そしてお互い愛し合っているのがよく分かる。2人ともお互いの顔が見える体位を言ったからね」
うんもう体位の話止めない?なんで俺王様と下ネタ話してんの?
「それでは、今日より君たちを王国騎士団総司令官補佐に任命する!早く一人前になれるよう励んでくれ!」
「「はっ!」」
こうして俺たちは正式に騎士となった。
なんだか緊張が解けてしまってふぅっと息を吐いていると、顔を引き攣らせたダスティンさんがこちらに向かってきて再び緊張が走る。
「ルーシャスくん、ちょっと別件で話があるんだが付き合ってくれるね?」
「は、はい......」
表情筋がおかしくなってしまったダスティンさんに強い握力で手首を掴まれ、観念して着いていく俺なのだった。
ルーシャス「なんだこの恋人の親の前で好きな体位を言わされる新手のセクハラは......」
アリス「あら、私は堂々と言えてスッキリしましたわよ?」
ルーシャス「どえらい根性してるね君!?俺は地獄を見たよ......」
アリス「まあ結果的に王様には褒められたから良いんじゃありませんの?お父様には私からハッキリ私たちの関係が進んだことを伝えておきますわ」
ルーシャス「これも全部王様をあんなキャラにした作者ってやつの仕業なんだ......」
ごめんよ......個性を出したかったのよ......。




