79.おおきなはなびをうちあげろ
今年もまた、桜の花びらが舞い散る季節がやってきた。
ただし、今年は少し特別な春だ。俺はついにこの高校を卒業する。
ついにって言ってもまだ2年しか通ってないんだけどさ。飛び級に飛び級を重ねるミーナちゃんコースで卒業まで漕ぎ着けてしまった。
「明日から家に帰るのですね......なんだか寂しいですわ」
「寮で2年暮らしたもんなあ。友達ともまた離れちゃうしな」
飛び級卒業は隣を歩くアリスも同じで、またしばらくメイヴィスやシルヴィア、ハンナと会えなくなるのを寂しく思っているようだ。
俺と違って転生者でもないのによく最短ルートで卒業まで来たよ。素直に尊敬する。
俺とアリスは卒業したら騎士団に入る。まあほとんどの卒業生はそうなんだけど。
俺とアリスの場合は少し他の人とは違って、いきなりダスティンさんの補佐に付くことになっている。
ダスティンさん直々に後継者に指名されている俺と、その恋人かつダスティンさんの娘のアリス。騎士団で未来を担う2人ということで特別扱いされているのだ。
そんなことされたら他の団員に嫉妬されたり嫌がらせされたりしないかな?と不安に思っていたのだが、俺が小学生の時に何度も騎士団に混じって訓練を受けていた為そんな輩は存在しないようだ。
既に自分たちより強くなっている俺のことを尊敬しているようで、嫉妬どころかむしろコーディのように舎弟を名乗る団員も多い。
それでいいのか......。
「やあやあルーシャスくん、また一緒に卒業だね!私と一緒に卒業できることを光栄に思たまえ!」
「ああエリック先輩。今日もテンション高いですね」
そういえばこの人も卒業だった。一段とテンションの高いエリック先輩は、騎士団ではなく学者が進路だ。
魔法陣の研究を高く評価され、学者協会に入るらしい。そんなもんあるんだな。初めて知ったよ。
「時にルーシャスくん、またアレ、やるかね?」
「アレ......ですね?やるなら派手にやりましょうよ」
顔を見合わせてにやりと笑う俺たち。アレ、というのは小学校を卒業した時に打ち上げた魔法の花火のことだ。
感動を呼んだ演出だが、二度やるなら規模を大きくしたい。
エリック先輩もそこのところは分かっているだろう。俺は魔力を流すだけだからどんな花火が出るのか知らない。期待しておこう。
「アレってなんですの?気になって朝も起きられませんわ」
「寝過ごしてるじゃねえか!朝は起きろ!」
「まあ期待しておいてくれたまえアリスくん。良いものが見られると思うよ。それでは!私は先に行っているよ!」
大股で胸を張り、オー〇リーのように歩いていくエリック先輩を見送る。
俺の手には去り際にすっと渡された魔法陣。
さあ、卒業式が楽しみだ。
「卒業生、起立!!」
ブラウン先生のどでかい声で俺たち卒業生は立ち上がる。
なんでブラウン先生がその役なんだよ、と思ったが単に声がでかいかららしい。適当にやってんな!
「校歌斉唱!!」
校歌......?そんなのあったっけ?
2年通ったけど聞いたことないぞ?まあいいや、とりあえず口パクでみんなに合わせよう。
『僕らが出会ったあの日もこんな雨の日だったね もう帰らないあの日々が一番輝いていたのかも…...♪』
うん?なんか聞いたことあるぞ?しかも結構前の記憶だな。もうちょっと聞いてみよう。
『心の中の君の笑顔が 雨粒のフィルムに焼き付く もしももう一度だけ君に会えたら 伝えたい ただ「愛してるよ」と…...♪』
......おいこれ小学校の武術の補習で準備運動の時流れてた曲じゃねえか!!
これここの校歌だったのかよ!!誰だよ作詞作曲したの!歌詞もメロディーも切なすぎるわ!
もし会ったら尻に微量の電流を流してやる。制裁が地味?気にすんな。
「校長、式辞!!」
校歌を歌い終わると、サイモン校長が登壇した。そういやこの人高校生活で全く見なかったけどどうしてたんだろうか?単に作者が忘れてただけなら全力でビンタをかましてやりたい。
「諸君、卒業おめでとう!早速だけど私は滅多に校舎に顔を出さないからあまり君たちのことを知らないんだ。せっかくだからここで一人一人自己紹介してもらおうかな?一発ギャグ付きで」
ブラック企業の歓迎会か!!卒業式でそんなことさすな!!
「というのは冗談で、もちろん君たちのことはよーく知っているよ。3年間、いや2年間の人もいるかな?まあよく頑張ったね」
なんか適当だな。まあってなんだよまあって。辛い戦闘訓練を乗り越えての卒業だよ?もっと労ってやれよ。俺は辛くなかったけど。
「最後にみんなにこの言葉を贈ろう。地震雷火事親父」
卒業式で贈る言葉じゃねえだろ!!チョイスどうなってんだよ!!この先不安になるわ!!
「サイモン校長、ありがとうございました!!それでは、卒業生退場!!」
さて、退場の時がやってきた。列を作って歩いていく卒業生たち。校舎を出る、というところで少し前を歩くエリック先輩がこっちを向いてウインクをしてきた。相変わらず合図チャラいな。
エリック先輩の合図を受け、俺は手元の魔法陣に思いっきり魔力を流す。
すると魔法陣から煙の筋が空に上り、上空で爆発。見事な花火が打ち上がる。
卒業生と先生たちは思わず空を見上げ、俺もどんな花火が打ち上がったのかと一緒に顔を上げた。
空に描かれていたのは、何を思ったか様々なポーズを決めるパンイチのブラウン先生だった。
「......なんでだよ!!綺麗な花火用意したと思うだろ!!誰が見たいんだよこれ!!」
「ええ?綺麗じゃないかね?私は気に入ってるんだが」
「あんたの性癖は聞いてねえよ!!こういう時は万人受けを狙えよ!!感動のかの字もねえわ!!」
空に向かってツッコミが響く麗らかな午後。
俺の高校生活は、こうして終わりを迎えたのだった。
ルーシャス「これにて!高校生編完結!無理やり時間を進めた感じもあったけど、これでようやく騎士団に入れるな」
アリス「でもやっぱり総合的に見て私の出番は少なかったですわよね。そこだけが不満ですわ」
ルーシャス「それはそうかもだけど、今までで一番ヒロインらしい章だったんじゃない?ほら、クルージングの回とか」
アリス「あの回はお気に入りですわ!せっかくだからリピートして欲しいですわね」
ルーシャス「とにかく、次回からは騎士団編!これからもよろしくお願いします!」
次回からもぜひお付き合いください!




