78.そつぎょうしけん
時は過ぎて季節は冬。雪がチラつき始める中、俺は東〇ドームそっくりの校舎へと向かっていた。
左側には鼻歌を歌いながら歩く上機嫌のアリス。その足音は軽く、リズミカルに響いている。
そんな姿を見て、少し緊張していた俺も表情が緩む。
「ルーシャス様、ちょっと表情が固いみたいですわ。緊張していますの?」
おっと、まだ緊張は解けきっていなかったようだ。5歳の頃から一緒にいるこの恋人には俺の心を読むことなんて朝飯前だからな。
「少し緊張してるかな。上手くやれるかなって」
「ルーシャス様なら大丈夫ですわよ!自信を持っていきましょう!」
楽観的なアリスの言葉にふっと笑い、俺は前を向き直した。
何故俺が少し緊張しているのかというと、今日は高校の卒業試験の日。小学校とは違い、高校にはしっかりと卒業試験というものがある。
学力試験はもう終わっており、今日は戦闘試験の日。この2つを合わせて総合評価が出されるのだ。
首席入学だった俺は当然首席卒業を期待されており、ブラウン先生やサイモン校長からプレッシャーをかけられている。
学力試験は問題なかったし、戦闘でも俺に勝てる生徒はいないだろう。それでもさ、首席卒業のプレッシャーをかけられたら緊張するだろうよ?
「やっぱり緊張してるみたいですわね。そんなに不安になることはありませんわ!そもそも、ルーシャス様は人間の魔獣を2体も討伐していますもの!戦闘でルーシャス様の右に出る者はいませんわ!」
テンションの高いアリスが俺を励ましてくれる。彼女はクルージングに行った夏休みのあの日からずっとこんな調子だ。
なんでも、こんなにずっと一緒にいるのに俺が手を出して来ないことを不安に思っていたらしい。それで夜船室に戻った時がチャンスとクルージングが決まった時から狙っていたそうだ。
俺が手を出さなかったのは、もちろん年齢のせい。まだ10歳にもなっていない俺たちがそんなことをしていいのかと思っていたからだ。
だけどこの世界では子どもの成長が少し早いらしく、ちゃんと俺もアリスも二次性徴が現れている。一応行為をしても問題はないみたいだ。
まあでも本音を言うと、俺は前世でも経験が無かったからビビっていた部分はある。
前世では健全な男子高校生、今世を合わせても精神年齢27歳の俺は、そういうことに関心が無かったと言えば嘘になる。人並みに興味はあったし、早く卒業したいとも思っていた。
だからある意味アリスとのクルージングは俺の卒業試験だった。ちゃんと卒業できて良かったよ......。
それから何度か俺たちは交わったが、何事も無かったかのようにいつも通りの日常が続いた。アリスのテンションはちょっと高かったが。
そんなこんなで俺はまた別の、本当の意味での卒業試験に臨むというわけだ。
校舎の中に入り、訓練場へ足を向ける。固くなった体をほぐしながら、俺はこの高校での最後の試験へと向かった。
場所は変わって訓練場。俺は自分の順番が来るのをそわそわしながら待っていた。
入学試験の時は大型魔獣に苦戦していた生徒たちも、今ではなんとか1人で倒せるように成長している。ていうか俺たちが入学した時の同級生はまだほとんどが2年生なのか。3年間戦闘訓練を積んだこの人たちはそりゃ強いわけだ。
ふと横目で隣の試験を見ると、ちょうどエリック先輩の番だった。入学時は魔術5級だったエリック先輩。大丈夫かなと思っていたが、大型魔獣も巨大な雷を起こして頭からかち割っていた。やはり光魔法が好きなのだろう。魔法陣は適正属性が関係ないとはいえ、選ぶ魔法に好みは出てくる。
だって倒れて消えていく魔獣の周りにいっぱいハゲ頭転がってるもん。何回間違えて発動させてんだよ。
「次!ルーシャス・グレイステネス!」
なんてことを考えていると俺の番が回ってきた。
いつも通り、楽勝で超大型魔獣を倒すだけだ。
試験官の開始の合図と共に何体か魔獣が襲いかかってくる。
俺は大剣を一振りして小型魔獣5体を真っ二つに切り裂く。
息をつく暇もなく飛びかかってきた中型魔獣3体を風魔法で退け、モグラ叩きのように1体ずつ頭から大剣で切り裂いていく。
すると後ろから大型魔獣2体が襲いかかって来たので俺はノールックで巨大な鎌鼬を起こし、2体とも葬る。
最後にやって来た超大型魔獣に対しては、風魔法で目線の高さまで飛び上がり、爪先まで一気に切り裂いた。
ふう〜、これで試験は終わりか......と思ったらもう1体超大型魔獣が出てきた。
うん?なんかこの展開見たことあるぞ?
「オレ、オマエ、コロス」
ああしかもこれ例の人間の魔獣に使役されてるやつだわ。めんどくさいからさっさと捻り潰してやろう。
「それは俺のセリフだな。ほらよっ!」
俺は巨大な竜巻を起こし、魔獣を天井へと押しやる。
ふっと魔法を消し、地面に墜落させたところで魔獣の首を切り落とす。
これで一件落着っと。
『またしても我が使徒を葬ってくれたな、ルーシャス・グレートフルデイズ』
「そんなおめでたい名前じゃねえわ!!のんびりスローライフ送ってそうじゃねえか!」
『できればお前をここで消しておきたかったのだが......まだ我の力が完全ではない。もう少し待て。待てと言ったら待て』
「やかましいわ!犬か俺は!!」
『そろそろお前の脳に直接話しかけるのも辛くなってきた。一生懸命頑張ったで賞を我に贈ろう』
「子どもみたいな賞自分にあげてんじゃねえよ!!呑気か!!」
『相変わらず良いツッコミだ......ではさらばだ......』
ええ......。またまたツッコミ褒められたんだけど......。あいつもうボケるために俺に話しかけてるよな?
まあいいや。今の俺なら、あの程度の魔獣は退けられる。
大慌てで駆け寄ってきた試験官とどこからともなく走り出てきたブラウン先生に事情を説明し、もう安心して良いとみんなに言い聞かせる俺なのだった。
ルーシャス「ほんといまいち緊張感ってものが無いんだよなあ......」
アリス「いくらコメディでもある程度ちゃんとしたボスは用意しておいて欲しいですわよね」
ルーシャス「まあこれがこの作品らしいといえばらしいんだけどさ、疲れるのよツッコミが。なんとかしてくれよ」
もう真面目な方に軌道修正できないから頑張って......。




