76.えむぶいぴーはしったかお
真っ白な光の中をただひたすらに落ちていく。
俺はウォータースライダーで流れていくかの如く腕を胸の前で交差させ、目を閉じていた。
いきなり何事かと思ったかもしれないが、俺は今タイムトラベルの真っ最中だ。
もう落ちていく感覚にも慣れたもので、逆立つ髪の毛と激しく翻る服に反して安らかな微笑みをたたえている。いやそれはそれで気持ち悪いか。
まあそんなことはどうでもいい。俺が向かっている時間について話そう。
今回俺が向かっているのは60年前。もちろん目的は人間の魔獣だ。
4番目に現れ、貴族と一般市民の間に戦争を起こした張本人。まあその原因はプリンとチョコレートの取り合いというしょうもない理由だったらしいが......。
まあ人間同士の戦いを巻き起こす狡猾な魔獣ということに違いは無い。実際それで戦争になったそうだし。
ということで、俺は一応この魔獣についても調査しに行くことにしたのだ。
ちなみに、2番目に現れた米騒動の魔獣と3番目に現れた笑い死にの魔獣はあまり害が無さそうなので放っておくことにした。なんでそんなファニーなやつばっかりなんだよ。
そして今回はなんと1人での調査だ。ブラウン先生に見放された......というわけではなく、この間ジェームズとコーディが力試しをしていたのを見て、俺も力試しをしてみようと思ったからだ。
ブラウン先生は「グレイステネスなら大丈夫だろう!行ってこい!」と背中を押してくれたが、アリスはそれはもう不満顔だった。
着いて来ようとするアリスを甘い言葉で説き伏せ、なんとか1人で来ることに成功した俺は安らかな表情で光の中を落ちているというわけだ。元の時間に帰ったら3日連続でアリスとのデートが待っているんだけどな。
なんて説明していると、光の中に丸く切り取られた景色が見えてくる。引き寄せられるように、俺はその中へ飛び込んで行った。
スタッと軽い着地を決め、俺は辺りを見渡す。
魔力の根源があるから場所は前回と同じ、俺の家ができる近くの森のはずだが......前に感じた禍々しさはなくなってるな。豊かな緑が降り注ぐ陽の光に照らされ、俺が知っている近所の森にかなり近くなっている。
当然だが、まだ俺が生まれた家はできていないようだ。
とりあえず森の方へ行くか?いや、ブラウン先生の話では「暁の剣士」が人間たちに魔獣の嘘を教えたそうだから、まずは街の方へ行ってみるか。
そう決めると俺は風魔法を起こし、街の方向へ飛んで行った。
え?飛べるならなんでいつも馬車使ってんだよって?いや疲れるのよこれ。魔力結構使うからさ。あと生身で空飛ぶのって怖いのよ?空飛んでから落ちる夢とか見たことあるだろ?今回は俺はタイムトラベラーだから馬車を使うわけにもいかず、仕方なく飛んでるだけなんだから。
どうでもいい説明をしていると街が見えてきた。予想はしていたが、かなりザワついてるな。既に戦っているような音が聞こえる。急がないと。
俺は街全体に向けて真下に強風を吹かせ、争っている人間たちを地面に這いつくばらせた。
そして上空から声を張り上げる。
「皆さん!!今の皆さんの争いは無駄な争いです!魔獣があなたたちに嘘を吹き込んだのです!プリンもチョコレートも、ここにあります!今すぐ争いをやめてください!」
叫び終えると俺は予め用意しておいた転移魔法陣から大量のプリンとチョコレートをばら撒く。
人々は歓声を上げ、このしょうもない戦争には終止符が打たれた。
「いやあ助かりました!まさか魔獣に騙されていたとは!」
頭を掻きながら話すのはダニエル・マクロフリンさん。この時代の1等貴族で、アリスのおじいさんだ。もちろん、俺が未来でアリスと恋人関係にあることは伝えていない。彼がアリスのおじいさんだということは俺だけが知っている状態だ。
「それにしてもあなたの戦闘スタイル、伝説に残っている「暁の剣士」そっくりですな。随分お若いようですがまさか本人なんてことは......」
「あはは、まあそう呼んでもらっても構いませんよ」
冗談めかして誤魔化す俺。まさか本物ですとは言えない。言っても信じそうな勢いだが。
「それで、その人間の魔獣を倒してくださるのですか?」
「もちろんそのつもりで来ました。でも人間の魔獣は他の魔獣を操る能力を持っています。俺1人では流石に全部は対処しきれない。何人か優秀な騎士を同行させてもらえませんか?」
「それぐらいお易い御用です!こちらで何人か見繕っておきますので、どうか夜までゆっくりお休みください!」
ダニエルさんの言葉と同時にメイドさんが現れ、俺を空き部屋へ案内してくれる。人間の魔獣が動き出すのは恐らく夜。それまでゆっくりさせてもらおう。
時刻は夜。俺は3人の騎士を引き連れて森へと戻ってきていた。
「この森から魔獣がたくさんやってくると思います。皆さんは魔獣の相手をお願いします!俺は森の中心へ行って、人間の魔獣を倒してくるので」
俺の言葉にこくりと頷き、3人の騎士たちは武器を取り出した。
1人が長剣、1人が長槍、1人が弓矢だ。彼らには外に出てきた魔獣を倒す役目を担ってもらう。ダニエルさんの推薦だから相当優秀な騎士が集まっているのだろう。その眼差しは鋭く、武器を取った姿もどこか威圧感を覚える。頼もしい限りだ。
ほどなくして森から何重にも重なる咆哮が聞こえ、俺たちは走り出す。
ていうか長剣の人めっちゃ速いんだけど!そしてめっちゃ強い!森の入口で既にもう何体か魔獣を手にかけている。
これは頼りになりそうだ。
見事な剣さばきを見せる騎士を横目に、俺は森の中心へと駆け抜けた。
「さて、と。この辺かな」
前回と同じ、魔力の根源を見つけ、俺は足を止める。
紫色に妖しく輝く大岩は神秘的で、何か惹き付けるものがある。迂闊に近づいたら飲み込まれてしまいそうな雰囲気だ。
「なんだお前!!俺様の縄張りに入ってきやがって!!」
大声を張り上げながら現れたのは、ゴリラの魔獣......いや、一応人間の魔獣なのか。喋ってるしな。
「俺はルーシャス・グレイステネス。お前を倒しにきた!」
「なんだと〜!?人間のくせに生意気だ!ギッタギタにしてやる!」
うん、なんか見た目も言動もまんまジャ○アンだな。強いのは強そうだが、なんていうかその、おつむの方は具合が悪そうだ。
「いくぞ!!うおりゃ!!」
純粋に殴りかかってくる魔獣の一撃を難無く躱し、俺は風魔法で魔獣を木々の方へ押しやる。レオンの時と同じように鎌鼬で大木を何本か切り倒し、魔獣を下敷きにして身動きを取れなくさせた。
「おいっ!なんだこれは!さっさと俺様を解放しやがれ!」
「あまりうるさくすると首を切り落とすぞ?まずは俺の質問に答えてもらおう。お前、名前は?」
「なっ......!タケシだ」
「おい相変わらずパロディが雑だな!!」
その後、俺はタケシからいくつかのことを聞き出した。
まず人間同士を戦わせ、滅ぼそうとした目的だ。これは単に自分が強いことを示すために、本能的に滅ぼそうとしたらしい。なんて危険なやつだ。
そして仮に人間を滅ぼした後何をしようとしたのか。なんと世界中の動物たちを全て魔獣に変え、自分に従えようとしたらしい。スケールのでかいガキ大将だこと。
最後に、なぜ闇魔法を使わずに普通に殴りかかってきたのか。これは単に自分が闇魔法を使えるということを知らなかったそうだ。やっぱあれなんだな、偏差値が低いというか......バカなんだな。
ある程度情報を聞き出すと、俺はタケシの首を切り落とした。こいつはなんか嫌いになれそうにないが、レオンと同じ危険な思想の持ち主だ。生かしておくことはできない。
タケシを倒して森の入口へと戻る。ちょうど朝日が登ってきて、ああまた俺は暁の剣士と呼ばれるんだなと考えながら3人の騎士たちと合流する。
「皆さんありがとうございました。ちなみに、1番ご活躍されたのはどなたで?」
興味本位で聞くと、3人は揃って長剣の騎士を指さす。自分でも指さしてんじゃねえか。
「本当に助かりました。ダニエルさんに報告しますので、お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
長剣の騎士に尋ねると、今まで閉ざされていたその口が開かれた。
「もったいないお言葉です、暁の剣士様。恐縮ながら名乗らせていただきます。私は、ルイコフ・グレイステネスと申します」
......ん!?グレイステネス!?そういえばこの騎士、青い髪に緑の目をしている。よく見ると父さんそっくりだ。ということは......俺のじいさん!?通りで強いわけだ。父さんに剣を教えたのもこの人ってことだもんな。
まさかの親族の登場にパニックになりながら、ダニエルさんのところへ戦果を報告しに行く俺なのだった。
ルーシャス「おいおい、じいさん出てきちゃったよ。バレてないかな?俺のこと」
アリス「私のおじい様も出てきてびっくりですの......。でも私本人が出てないですわ!不満ですの!」
ルーシャス「まあまあそう毎回出番があるわけじゃないから......。レギュラーキャラだからなるべく出してあげて欲しいけどね。ね、作者?」
善処します......!




