70.まほうじんのえかきうた
「どうしてこうなった......?」
現代に戻ってきた俺は、思いっきり頭を抱えていた。俺の予定では、200年前で人間の魔獣と暁の剣士に会って、俺のところに現れた人間の魔獣を倒すヒントを貰うはずだった。
だが、実際には200年前の人間の魔獣ことレオンは俺が倒し、その結果俺自身が暁の剣士と呼ばれるようになってしまった。
こんなはずじゃなかったんだけどなあ!なんか帰り際にも「武術を教えてくれ」と村中から懇願されて、適正の存在や魔力感知のやり方なんかを教えて帰ってきたし。もちろん剣の振り方も教えてきた。
あれ?でも俺は父さんに剣を教わって、それを200年前の人に伝えた。てことは俺が教わったのは俺が教えたもので、父さんは間接的に俺から剣を教わったことになる。
えーと......つまりどういうことだってばよ?卵が先か鶏が先かみたいな話になってきたな。......とんでもなくややこしいことになってしまった。これが噂のタイムパラドックスってやつか。
「やあやあおかえり諸君!随分早かったではないか!」
頭の中で卵と鶏をグルグル回していると、教室の外で待っていたエリック先輩に声をかけられる。
そういやこの人のことすっかり忘れてたわ。俺たちが帰ってきたら魔法陣の描き方を勉強するんだったな。
時間を見ると夕方の16時。俺たちが出発したのが15時50分ぐらいだったから、こっちの時間では約10分しか経っていないことになる。そりゃ早いわ。
200年前の時間では2日いたのに戻ってきたら10分。感覚がおかしくなりそうだ。なんだこの特殊な時差ボケは。
「おうハリソン!俺たちが帰ってきたから、これから思う存分魔法陣の描き方を学べよ!」
「言われなくとも!しかしさっき君たちが出発した時、この魔法陣の粗に気づいてね。もしかするともっと効率の良い魔法陣が描けるかもしれない」
へえー、流石小学生の頃から魔法陣を研究してただけある。1回見ただけで描き方の粗に気づくなんて凄いな。
「本当か!?確かにこの転移魔法陣は魔力消費も大きいし、場所と時間を設定するプロセスが難しくてなあ......もっと効率良くできるなら切実に助かるぞ!」
「そうだろう?では、試しに描いてみようじゃないか!何か転移させてもいい物は......ちょうどいい物が無いな。仕方ない」
そう言うとエリック先輩は紙に書かれた魔法陣を取り出し、魔力を込め始める。
すると魔法陣が強い光を放ち出した。ちょっと待て、この光り方見た事あるぞ?勘のいい皆なら俺と同じタイミングで気づいているだろう。
俺の予想通り、先輩の持つ魔法陣から眩い光を放ちながら肌色の半球体が出現した。
そう、懐かしの「光魔法ハゲ頭」だ。
いやこれも何回やんだよ!!話の舞台が変わっても出てくんのなハゲ頭!!
「良し、これでいい。まずはこれを転移させてみよう!」
そう言うと先輩は真っ白な紙に魔法陣を描き始めた。
ん?ちょっと待て、この魔法陣の描き方も見た事あるぞ?
なんか先輩がちょっと歌みたいなのを口ずさんでる。何だったかなこれ......?
「イェイイェイイェイイェイイェイ♪ウォウウォウウォウウォウウォ♪」
ああハク〇ョン大魔王だわ。聞いたことあると思った。......じゃねえよ!なんで知ってんだよ!
「あごヒゲ忘れてたー!ほら諸君、描けたぞ!」
自慢げに描けたものを見せてくる先輩。モザイクがかからないか恐る恐る見ると、そこにはちゃんと魔法陣が書いてあった。いやらほっとしたけどなんで描けてんだよ!!どの部分がどの部分だよ!!
「描けたのは良いのですが......あの謎の歌はなんでしたの?気になって仕方ないですわ」
「アリス、そこには触れないでいこう。スルースルー」
「では、このハゲ頭を1分後のこの場所に転移させてみよう!」
そういうと先輩はハゲ頭を転移魔法陣に乗せ、魔力を流した。
するとハゲ頭は消え、「ハゲ頭は消え」ってなんかあれだな、生えてきたみたいだな。いやそんなことはどうでもいいわ。
消えたハゲ頭を待つこと1分。魔法陣から再びハゲ頭が出現した。光魔法ではなく転移魔法で出てきたのでいつもより光は控えめだ。
「どうだい諸君!早速実験成功だ!!」
「素晴らしいぞハリソン!!これのデカいの描けるか?」
「確かに凄いですけれどあの歌は......」
「アリス!スルーだよスルー!」
アリスの言う通り歌は気になって仕方ないが、実験が成功したのは素直に凄いぞ。
これならより簡単に時間と場所を行き来できるかもしれない。
ていうかエリック先輩、魔法陣の研究ばっかやってるけどちゃんと高校で勉強してるんだろうか。賢そうな見た目はしてるけど研究一直線だからなあ。
今度ちゃんと勉強してるか聞いてみて、してなかったら一緒に勉強してあげよう。俺も前世での知識が通用しない世界になって来たからしっかり勉強していかないとな。
エリック先輩と自分の行く末を心配しつつ、無言でハゲ頭を吹き飛ばす俺なのだった。
ルーシャス「おお、なんか本来の感じに戻ったぞ」
アリス「でもボケ役が強すぎて私のセリフが少ないですわ!物足りないですの!」
ルーシャス「アリスはちゃんと大事な役柄だからさ、そんなコメディ回で消費できないキャラなんだよきっと。まあこの小説ほぼコメディ回だけど」
アリス「それじゃダメですわ!私もコメディに参加したいですの!作者!私にもボケかツッコミやらせるのですわ!」
え、それで良いんですか......?




