64.まっする・たいむとらべる
「うわあああああああ!!」
ただ真っ白な光の中をひたすらに落ちていく。
少しすると光の先に丸く切り取られた景色が見え、そこに吸い込まれて行くのが分かった。
「グレイステネス!!あそこに飛び込むぞ!!」
「は、はいー!!」
先生の言葉になんとか返事をし、俺たちは勢い良く光を抜けた。
すると今まで丸く切り抜かれたようになっていた景色が360度広がる。
その景色は......何故か見慣れた景色だった。
「あのー先生、ここ俺の家なんですが......」
「何!?あちゃー、転移時間の設定を間違えたか......?」
間違えたにしても俺ん家に出るのはよく分かんないよ......。後ろを見ると、俺たちが出てきた転移魔法陣がうっすらと浮かび上がっている。どうやらどこ○もドアと同じシステムで、帰りもこの場所から転移するようだ。
いやそんなことを言ってる場合じゃない。引っかかることがある。間違えたのは時間だけか?
「先生、時間の設定を間違えたというのは......?」
「ああ、転移魔法には場所を設定するプロセスと時間を設定するプロセスがあってな、魔力で調整するんだが少し力の入れ加減を間違えたらしい」
先生の説明に「なるほど」と呟き、疑問をぶつけてみる。
「ということは先生、200年前に魔獣が出現した場所はここで合ってるってことですか?」
「そのはずだ。お前、どんなところに住んでるんだ?」
普通に暮らせてたんですが......。俺の家が魔獣の出現場所?そんなことないと思うんだけどな、8年住んでて平和だったしな。
しかしここはどの時間軸だ?俺が生まれてるのか生まれてないのかで大分変わってくるぞ。
何かで聞いたことがあるが、タイムトラベルをして過去の自分に会ってはいけないとかあるもんな。実際やったのはもちろん初めてだがもし過去の俺に会ったらどうなるんだろうか?
そんなことを考えていると、家からすごい勢いで父さんと母さんが飛び出してきた。
「おいそこの2人!!今この辺りで魔獣が大量に出現したと知らせがあった!早く逃げろ!」
父さんが俺たちに向かって叫ぶ。俺のことが分かってないのか?いや違う。今分かった。これは、俺が生まれる前の時間だ。両親が2等貴族になったというあの戦いだ。
「ぼーっとしてないで、早く逃げて!!大型魔獣も混じってるみたいよ!!」
「ああ、心配しなくても大丈夫だ!!俺たちなら戦えr......!むぐ!むぐぐ!!」
危うく参戦しそうになる先生の口を押さえつける。
確かこの戦いでうちの両親は大戦果を挙げ、2等貴族になったはずだ。
ここで俺たちが参戦してしまってはタイムパラドックスが起こってしまう。
「ぷはーっ!何するんだ!」
「説明は後です!あの2人が全部倒してくれるので僕たちは行きますよ!!」
「いやでも俺たちも戦k」
「良いから!!行きますよ!!」
俺の剣幕に押され、「お、おう」と返事をする先生を引っ張ってその場を離れる。
少し離れた丘まで来て、俺は息を吐いた。
「ここまで来れば大丈夫でしょう」
「グレイステネス、なんで加勢しなかったんだ?」
息一つ切らしていない先生に驚きつつ、俺は事情を説明した。
「なるほどな、そういうことだったのか......」
「はい。両親が2等貴族になっていなかったらその後の運命が大きく変わります。もしかしたら俺も生まれて来ないかもしれません」
「それは悪いことをしたな......すまん!この上腕二頭筋に免じて許してくれ!」
「何に免じてんだよ!ムッキムキだなおい!」
「ほら、この辺ピクピクさせられるんだぞ」
「聞いてねえよ!この人こんなキャラなんだ!」
その後も続いた先生の筋肉自慢を適当に流しながら、俺は家の近くの森で両親が戦っているのを眺める。
2人が戦っているところを見るのは何気に初めてだが......強いな。流石2人ともそれぞれ剣術1級と魔術1級を持ってるだけある。
父さんは1体1体確実に長剣で切り裂いていき、母さんはもう森ごと燃やす勢いで巨大な魔法を使っている。
確かこの時出現した魔獣は60体で、騎士団が到着するまでに父さんが10体、母さんが20体倒したはずだ。
確かにこの規模の魔法を使っていたらその内訳になるのは納得できる。2人とも強いし1人でも全部殲滅できるだけの強さがあるが、母さんの方が攻撃範囲が広いという話だ。
やがて森のざわめきは収まっていき、落ち着きを取り戻す。2人の魔獣退治が終わったようだ。
良かった。これで両親は2等貴族になれるはずだ。
しかし気になるのは俺の家が魔獣の出現場所ということだ。
両親が2等貴族になったという戦いが家の近くの森であったのは聞いたことがあった。
だが200年前の伝説になっている戦いもこの場所で行われた......?
これは帰ってから調べる必要がありそうだ。
「先生、とりあえず学校に戻りましょう。200年前に転移しないと」
「それがだな......俺の魔力量ではあの転移魔法陣を使うのに1日1往復が限界なんだ。今日のところは帰るだけで我慢してくれ!」
ええー......。そんなこと言われたら気になって今夜眠れないよ。まあでも、あの大きさの魔法陣なら確かに魔力は多く使いそうだ。
早いところ使い方を教えて貰って、自分でタイムトラベルができるようにしたいところだ。
「わかりました。じゃあとりあえず学校に帰るだけで我慢します」
「すまんな......。では、転移魔法陣まで戻るぞ!」
「はい!」
「しかし見てみろ、この見事な大臀筋を!これもピクピクできるんだぞ!」
「まだ言ってんのかよ!見たくねえ筋肉だな!」
先生の筋肉キャラはこれからも付いて回るのだろうか......。行く末を不安に思いながら帰路に着く俺なのだった。
ルーシャス「思わぬ形で俺の両親に出会ってしまったな」
アリス「少しルーシャス様のルーツが知れたみたいで私も嬉しいですの!」
ルーシャス「それより先生のキャラが気になるよ......あんなマッスルキャラなんだな」
アリス「あの先生ちょっと私は関わりたくないですわ......その、暑苦しいですの」
ルーシャス「まあわかるけど良い人だからさ、あんま嫌わないでやってよ。文句は無理やりキャラ付けした作者に言おうな?」
すみません......。




