63.れきしのべんきょう
高校の寮に入ってから数日経った。
小学校の時もそうだったが、この世界には卒業式はあれど入学式というものは無いらしい。アメリカの大学みたいなものだ。
1月15日、つまり俺の誕生日からすぐに授業は始まった。高校では午前中に数学、歴史、地理の3教科を学び、午後には戦闘訓練がある。小学校とは違い全員強制参加だ。
ちなみに高校では国語は教えないらしい。ジェルダーリ王国の文献は魔導書等の指南書以外はほとんどが歴史書で、全て物語形式で書いてあるため国語は実質歴史の授業になるからだそうだ。
確かに歴史的事実に基づいて書かれた物語に対して「この時の作者の気持ちを答えよ」とか言われても困るもんな。いや日本の国語でも困ってたけどさ。そんな高校生に分かられるような気持ちが作家先生にあってたまるかって話よ。
そして俺は最近その歴史の勉強に傾倒している。理由を説明しよう。
以前読んだ『英雄列伝』に人間の姿をした魔獣が出てきたことを覚えているだろうか。そうそう、あのヒャッハーなやつ。
あいつを研究すれば、俺のところに現れた人間の魔獣について何かわかるんじゃないかと思ってるわけだ。
ということで、俺は通常の歴史の授業に加えて自主的に先生に話を聞きに行っている。
今日もそろそろ職員室に着く頃だ......と思ったら出てきたな先生。
「おうグレイステネス!また来たのか?お前も物好きなやつだな」
「こんにちはブラウン先生。今日もよろしくお願いします」
「分かってるよ。じゃあ空き教室に行くぞ!」
この気のいい先生はウィリアム・ブラウン先生。歴史の教科担当だ。
大学まで行って教師になった人で、魔獣の歴史について特に詳しい。
以前この国の大学は専門学校的な位置づけと言ったことがあるが、教師になる為のコースも存在している。これは学者コースの一つだそうだ。
その為この国では教師は学者に分類される。学者になると自動的に身分が貴族になるので、一般市民から学者を目指す人もいるらしい。
話が逸れたが、この先生の凄いところは武術にも秀でているところだ。なんと槍術で1級を持っており、超大型魔獣を槍一本で狩ることができる。
なんでも、研究対象の魔獣を捕獲する為に武術を磨いていたらいつの間にか強くなり過ぎてしまったそうだ。末恐ろしい人だ。
「それで、今日は何を聞きたいんだ?」
空き教室に着いた俺たちは放課後の補習タイムをスタートさせる。
「今までは魔獣全般について教えてもらってましたが、今日はある種類の魔獣について教えて欲しいんです」
「おう、なんでも来い!鯨の魔獣とかか?俺も飲み込まれたことがあってなあ......腹の中で焚き火をしてくしゃみを出させて脱出したもんだ」
なんだそのピ○キオみたいな話......。それはそれで興味あるからまた今度ちゃんと聞いてみよう。
好奇心を抑えて俺は本題に入る。
「いえ、人間の魔獣について知りたいんです」
「人間の魔獣だと......?何でそんなことが知りたい?」
「実は去年の夏、人間の魔獣が俺の部屋に現れたんです。近いうちに対峙することになるだろうって言い残して消えていきましたが」
「なんだと!?お前それ大丈夫だったのか!?」
「使い魔みたいなのは秒殺しましたけど、人間の魔獣そのものには何もされなかったですよ。あ、ボケてはきたんでツッコミは入れましたけど」
「なんでそんな危険な魔獣と漫才してるんだお前は......」
俺の言葉に呆れ果てるブラウン先生。いやだってしょうがなくない?ボケられたらツッコむしかないよね?あれ、俺がおかしいのかな。
「つまりお前は人間の魔獣と戦う為のヒントが欲しいってことだな?」
「その通りです!何か知りませんか?」
「うーん、かなり危険ではあるが......グレイステネス、お前武術は何級を持ってる?」
「剣術1級、魔術1級です」
「なら大丈夫か......よし、いいだろう。ついてこい!」
そう言うとブラウン先生はずんずん廊下を進み始めた。
慌てて着いていくと、どんどん校舎の古びた方へ向かっていく。
「先生、どこへ行くんですか?」
「来れば分かる。とりあえず着いて来い」
仕方なくそのまま先生に着いて行く。するとある教室の前でピタッと先生が止まった。
「ここだ。入るぞ!」
先生が扉を開けると、そこには床一面に巨大な魔法陣が描かれた部屋があった。
「先生、これは......?」
「転移魔法陣だ。それもただの転移魔法陣じゃないぞ!転移する場所と時間を指定できる魔法陣だ!」
「時間を?......まさか!」
「そのまさかだ。200年前の魔獣が初めて出現した場所に行って直接人間の魔獣に会いに行くぞ!」
「ええ!?でも先生、俺は念の為剣を持ち歩いてますけど先生は槍持ってますか?」
「伸縮する槍を常に持ち歩いてる。これで困ったことは無いから大丈夫だろう」
「ほんとですか!?そんな装備で大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない。じゃあ行くぞ!」
なんでネタ通じんだよ!とツッコミを入れる暇も無く、先生は膨大な魔力を魔法陣に流した。
すると魔法陣が光り出し、どこかに落ちていくような感覚を覚えた。
「う、うわあーっ!!!」
「いざ!200年前へ!」
先生が叫んだ瞬間、目の前が光に包まれた。

ルーシャス「え、ここで終わり!?」
アリス「珍しく次回に持ち越しのパターンですわね」
ルーシャス「日常系コメディのくせに2話完結型とかやめとけよ全く」
アリス「まあまあ、2話で終わらないかもしれないですわよ?あら?でもその場合私の出番は......」
頑張って出すから待ってて!




