61.たびだちとまさかのおとも
「これで準備はOKかな」
でっかいスーツケースを閉じて呟く。
今日は1月10日。俺が高校の寮に向かう日である。
準備は当日に終わらせるタイプの俺は、またまた早朝に起きて洋服や本を詰めていた。
愛剣は入らないので背中に担いで行くが、随分邪魔な荷物にはなるな。7歳の子どもが自分よりでかい剣とスーツケースを持ち歩く姿は想像するだけでシュールだ。
7歳の子どもと言っても俺はもうあと少しで8歳。少しはマシか?いやあんま変わんないな。
どうでも良いことを考えていると、コンコン、とノックの音がした。
「ルーシャス様〜、お迎えの馬車が来ましたよ〜」
「はーい!今行くよ!」
遂に俺がこの家を旅立つ時が来た。ルーシャス・グレイステネスとしてこの世に生を受けてから約8年。
高校の寮生活は1年間だけとは言え、長く住んだこの家を離れるのは寂しい。
家族のみんなはもちろん、ジェームズやメイヴィスにも会えなくなるから飛び級の時とは訳が違う。
しかし大人になるとは別れを経験することだ。1年間しっかり寮で成長して帰ってくると誓おう。
そう決めて扉を開けると、大きな馬車が待っていた。
馬車の中からタタターっと軽い足音を立てながらアリスが降りてくる。
高校は少し離れた地域にあるので、アリスの家の馬車で送ってもらうことになっているのだ。実は受験の時もそうしてもらった。ありがたいことだ。
「ルーシャス様、おはようですわ!準備は大丈夫ですの?」
「おはようアリス。俺は大丈夫だよ。アリスこそ荷物が多くて大変じゃないの?」
「そんなに荷物は多くないですわよ?服と弓矢ぐらいしか持っていくものはありませんわ」
「あらそうなの?まあ確かにそんなに豪華な生活してるわけじゃないか」
アリスはお嬢様だが、ワガママも言わない良い子で意外とシンプルな生活をしている。
服も目立つほど豪華ではないし、部屋も広くはあるが特段高価な家具は無い。
ベッドの上に大量のぬいぐるみが暮らしている、というわけでもないからいざ家を出るとなっても特に持っていくものはないのかもしれない。
むしろクマのぬいぐるみのチャーリーを連れていく俺の方が荷物は多いぐらいだ。
スーツケースと大剣を後ろにある荷物用の馬車に積んでもらい、俺とアリスは前の馬車に乗り込む。なんか後ろの馬車の方がでかいんだけど。荷物用だからそこまででかくなくても良いんだけどな......。まあいいか。
いよいよ出発だ。
馬車の外を見ると、ミーナちゃんとイーナさんが手を振っている。馬車が出発すると2人はぺこりとお辞儀をして、家の中へと戻って行った。
「はあーこれで1年間は家ともお別れかー」
「ルーシャス様も寂しいと思うんですのね」
「そりゃ思うよ。生まれてからずっと住んでた家だからなあ」
「私はどちらかと言うとワクワクしてますわ!高校でも飛び級をして、早く卒業してお父様と騎士団で働くんですの!」
「アリスは志が高いなあ。ダスティンさんにも期待されてるし、俺も飛び級を目指さなきゃな」
「アニキなら大丈夫でやんすよ!なんたってアニキは天才でやんすから!」
「いやいやそんな天才だなんt......は?コーディ!?」
「やれやれ、こんなことで驚くとはルーシャスもまだまだだな。まるで逃げ惑うシロオリックスのようだ」
「ジェームズまで!?そんで例えがピンと来ねえな!?」
まさかのコーディとジェームズの登場に困惑する俺とアリス。
え、まじでなんでいんの?どうやって乗り込んで来たの?
「貴方たち、いつの間に乗り込んでたんですの!?」
「そりゃまあ、昨日の夜からここに潜んでたが?」
「泊まり!?」
「アニキとアリスの姉御を見送りに行くって言ったらここに泊まらせてもらえたでやんすよ?」
「ちょっと待ってくれ、1回話を整理しよう」
突拍子もない話に着いていけず、最初から話してもらった。
どうやら事の発端はコーディが俺と離れるのが寂しいと言い出したことらしい。
それをジェームズに相談すると、2人でマクロフリン家に行こうという話になり、ダスティンさんが面白がって馬車に泊まることを提案されたそうだ。
元々は2人で見送りに行くだけの予定だったが思わぬ申し出に調子に乗った2人はそのまま馬車の中に潜み、俺たちが出発するタイミングを狙っていたのだ。
いや見送りに来てくれる気持ちは嬉しいんだけどさ、ちょっとやり過ぎじゃないかい?
高校までの道のりは馬車で約3日。宿に入れなかった時の為に簡易的に宿泊できるようになってはいるが、よくそんなことが許されたな。
「ていうか君らさ、帰りはどうするのさ?」
「もちろんこのま馬車に乗って帰るぞ。なんならそのままそれぞれ家まで送ってもらえる手筈になっている」
「ハンナにも黙って来ちゃったもんで、姉御のお父さんから説明してもらうよう頼んであるでやんす」
「なんと言うか......その......凄い行動力ですわね。でも姉御はやめて欲しいですわ姉御は。なんかその、厳ついですわ呼び方が」
「はあ......まあ着いてきちゃったものは仕方ない。俺たちが降りたら真っ直ぐ家に帰るんだぞ?」
「もちろんだ。この道中の街に子ども用の遊技場があるらしいが、そんなところに寄ったりはしないぞ。中を覗くだけだ」
「子ども向けの武具の店とかもあるらしいでやんすけど、寄ったりしないでやんすよ!ちょっと素振りさせてもらうだけで!」
「寄り道する気まんまんだな!?」
まさかの旅のお供ができてしまったが、それはそれで楽しく過ごせるから良いか。
それにしてもダスティンさん......毎度お騒がせなことをしてくれる。何気に1番のトラブルメーカーはあの人なんじゃないか?
1年後帰ったら絶対文句言いに言ってやる。
新たな決意を固めながら、俺は友人達との会話に戻るのだった。
ルーシャス「ジェームズ......コーディ......お前らってやつらは本当に......」
アリス「びっくりしましたわよ!これだから男子の悪ノリは......」
ルーシャス「1番悪ノリしてたのはダスティンさんだけどな」
アリス「お父様ったらいつまで経っても子どもなんですから!帰ったら説教してやりますわ!」
ルーシャス「とりあえず高校生編スタート!だけど登場人物が変わらないから始まった感が無いな」
アリス「きっと作者がちゃんと書いてくれますわよ!ですわよね?」
誠心誠意頑張らせていただきます!




