54.はかせとじっけん
ルーシャスくんは7歳になっております。小学校編も後半、どうぞお付き合いください!
飛び級で3年生になった俺とアリスの日常は、学年以外は特に変わることなく続いた。
元々家が近所で剣術特訓相手のジェームズはもちろん、1学年下になったヒーズマン姉弟や魔術の訓練相手のメイヴィス、シルヴィアとの交流は続いている。
前世で高校3年生だった俺は当然勉強も問題なく、家庭教師付きのアリスも年上に混じっても遜色なく好成績を残している。
飛び級でしかもカップルなんて前世でいたらいじめやイジりの対象になりそうなもんだが、むしろ年下の俺たちが入ったことでマスコット的存在として可愛がられてしまっている。つくづく平和な世界だ。
そんな平和な日常に唯一あった変化と言えば、とある先輩に出会ったことだ。
おっと、噂をすればやって来たようだ。
「ルーシャスくんこんなところにいたのか!今日も私の研究に付き合ってもらうよ!」
「もう勘弁してくださいよ...何で俺じゃなきゃダメなんです?」
「君の魔力量が桁違いだからさ!このエリック博士にかかれば君の魔力を大いに研究に活かせる!」
「はあ...」
毎日休み時間になるとこんな調子で迫ってくるのは、自称「博士」こと3年のエリック・ハリソン先輩。学年は同じだが年上なので一応先輩だ。
このエリック先輩、8歳にして魔術の研究をしている。
エリック先輩の家は魔法学者の家。本人の適正も一応魔術なのだが、色薄で正直魔術の才能はあまり無い。
それは本人も幼い頃から自覚していて、その分魔道具を作ったり魔術そのものを研究してきたという生粋の学者だ。
そんなエリック先輩は、俺とアリスが飛び級で3年生のクラスに入った時に俺に目をつけ、研究の手伝いをさせてくるというわけだ。
無茶苦茶な人だが変なところで空気が読める人で、アリスと帰ったりジェームズやメイヴィスと訓練をしたりする放課後には俺を連れ出さない。あくまで休み時間に研究の手伝いをさせられるだけだ。
そういうことで俺も学校生活をそこまで邪魔されているわけではないので、断りづらく渋々研究の手伝いをしているのである。
「何をぼーっとしているんだいルーシャスくん?休み時間は限られているのだよ!」
「わかりましたよ...で、今日は何かの実験ですか?」
「その通り!私が今魔法陣の研究をしているのは知っているね?」
「初耳です」
「その魔法陣の試作品が遂に書き上がったのだよ!」
「話聞かねえなこの人!」
「君には今日、私が書いた魔法陣に魔力を流して貰いたい!それもうんと強い魔力を!」
「え、大丈夫なんですか?俺が学校で魔法使った時大体ろくな事にならずに先生に呼び出されるんですけど」
流石に3年生になってからは授業中に魔法で遊んだりはしてないが、1年生の頃の苦い思い出が蘇る。ファーノン先生怒るとまじ怖いんだよな。鬼神みたいなのが後ろに見えるし。
「もちろん大丈夫だ!今回書いた魔法陣は相当魔力を流さないと発動しないようになっているのだよ!そして発動する魔法もかなり弱いものにしてある!魔法の強さは術式で調整できることがわかっているのだよ!」
「はあ...そういうことなら、早速やってみますか」
「よし来た!それでは共に魔術室へ行こうではないか!」
テンション高ぇ...。今日はいつにも増して熱弁だったな。
エリック先輩が言っていた魔術室というワードに引っかかる人もいるだろうから説明しておくと、日本で言う理科室のようなものだ。
と言っても、その広さは相当なもので魔法をちゃんとぶっ放せる。まあそれでも俺が魔法使うと耐えられないぐらいなんだけど。普通の小学生が使う弱い魔法ぐらいなら大丈夫って感じだ。
その魔術室だが、かつては武術の適正についてはっきりと分かっていない頃に魔力を上手く使うために魔術の授業があり、その授業で使われていたらしい。
だがだんだんと適正によっては魔術を使えない人間が多くいることが分かり、廃止されたのだそうだ。
ということで今はほとんど使われていない魔術室は、エリック先輩の研究所のようになってしまっている。学校を私物化すんなよ。
エリック先輩の後について魔術室に入ると、その中心にあるテーブルには小さな魔法陣が描かれている紙が置いてあった。
「これに魔力を流せばいいんですね?」
「ああ!早速頼むよ!」
「どうなっても知りませんからね...」
本当に弱い魔法が発動するか、何も発動しないことを願って魔力を込める。
すると魔法陣が光りだし、中心からさらに光り輝く何かが現れてきた。
思わず腕で目を隠し、光が収まるのを待つ。
落ち着いてきたので現れた物に目を向けると、つるっつるで天井の光を綺麗に反射している半球体のような物があった。
「あのー先輩、これは...?」
「光魔法、ハゲ頭だよ」
「酷い魔法!!」
「いやー見事に成功したね!見てごらん、こんなにつるつるだよ」
「綺麗にできた泥団子みたいに言うな!そんで誰のハゲ頭なんだよ!」
「知らないけど多分校長とかじゃないかね?」
「適当過ぎるだろ!校長に謝れ!」
なんだこの古のギャグは...。
発動した魔法はともかく、魔法陣自体の実験は成功だった。
これがもし実用化すれば、魔術が使えない者も遠距離での攻撃ができる。
何気に凄い発明なんじゃないか?これ。
呆れ半分尊敬半分でエリック先輩を見ると、何やら難しい顔でノートにメモを取っている。
どうやら休み時間の研究はこれからも続きそうだ。
アリス「今回は私の出番がなかったですの...」
ルーシャス「最近あんま無いよな。アリスと絡むといちゃいちゃが長くなるからかな」
アリス「そんな...!酷いですわ!もうこうなったら私がこの小説を乗っ取って、ひたすらルーシャス様といちゃいちゃするだけのストーリーを書いてやりますの!」
ルーシャス「凄い気合いだけどまじ止めてね!?本筋が進まなくなるから!」
本当にやめてもらってよろしいでしょうか...。




