52.まじゅうのしょうたい
「「人間の言葉を話す魔獣...?」」
「うん、昨日の夜僕の部屋に現れたんだ」
俺は昨日あった出来事を父さんと母さんに話した。人語を話す鳥の魔獣が現れたこと、倒した魔獣の死骸から魔力が溢れ、魔力の根源を支配する者と名乗る影と話したこと、その影にツッコミを褒められたこと...。最後のはどうでもいいか。
話し終えると2人は顔を見合わせ、同時にため息をついた。
「まさかもうお前にこの話をしないといけなくなるとは...」
「高校生になってから、騎士団に入ってからでも遅くないと思っていたのだけれど...」
そう言うと、2人は魔獣について話してくれた。
なんでも魔獣というのは魔力に当てられた動物、と教えられていたが、正確には違うらしい。普通の魔力に触れても動物が魔獣になることはない。特殊な闇の魔力というものが存在し、その根源から溢れ出す魔力に触れた者が魔獣になる。これは人間も例外ではないとのことだ。つまり、闇の魔力に当てられた人間は魔獣化する可能性がある。知能の低い動物は闇の魔力に当てられて暴走するが、人間を始め知能の高い動物は闇の魔力を逆に支配することがあるらしい。恐らく俺が昨日出会ったのは、闇の魔力を支配した元人間の魔獣だそうだ。
そして最初に現れた鳥の魔獣だが、これは人間の魔獣が闇の魔力を使い、意図的に生み出した魔獣だ。闇の魔力を支配した者がその魔力を使って魔獣を生み出すと、知能を持った魔獣になるということだ。なんかもう魔が多すぎて何言ってんのかわかんなくなりそう。
「闇の魔力に当てられると精神は暴走し、破壊衝動に駆られる。動物の魔獣はそれで暴れるが、人間の魔獣は違う。闇の魔力で知能が上がり、世界の支配を目論むんだ」
「それも非道な方法でね。一般市民たちに貴族や王族の悪い印象操作をして暴動を起こさせるの。そして人間同士で戦わせ、自分たちで滅びるように仕向けるのよ」
「そうなのか...でもそれならなんであの影は僕を直接狙ってきたの?」
「恐らくだが、世界を支配するためにお前が脅威になると思ったんだろう。闇の魔力には未来を見通す力があるという話も聞く。つまり、お前が将来人間をまとめるリーダーになっているってことだ」
うーん納得。現騎士団総司令官から直接後任に指名されてるからな。
だがここで1つの疑問が浮かぶ。以前ジュリアお姉ちゃんと訓練をした時、お姉ちゃんは知能の高い魔獣はいないと言っていた。お姉ちゃんも見習いとは言え騎士団の一員。人間の魔獣について知らないなんてことがあるのか?
そのことを両親に聞いてみると、ジュリアお姉ちゃんも知っているとのことだった。
「ジュリアはああ見えて心配性なところがあるから...ルーシャスを怖がらせないために教えなかったのね」
お姉ちゃん...!なんて弟想いなんだ!ごめんねずっと変態とか言って。
「それにしても随分人間の魔獣について詳しいんだね。そんなに高い頻度で現れるものなの?」
「いや、そんなことはない。闇の魔力に当てられるのは、魔力を持たない動物がほとんどだ。人間が闇の魔力に当てられるのは魔法への適正が高く、自身の魔力と闇の魔力が混じりあった場合だ。特に魔法の属性が1つに特化していない者は闇の魔力に当てられやすい」
「でも魔法への適正が高い人は1つの属性に特化している人がほとんどだから、滅多に人間の魔獣が現れることはないの」
「じゃあなんで2人はそんなに人間の魔獣について詳しいの?」
2人は再び顔を見合わせてから、諦めたように話し出す。
「実はね、1ヶ月前に王様のところにも人間の魔獣が現れたらしいの。今はせいぜい人間を支配した気でいるといい、今後10年強でお前は玉座から降ろされるであろうって言い残して...」
「なんで期間ちょっと曖昧なんだよ!予言なら隙を残すなよ!」
「そして騎士団は王族を守るようダスティンさんから命令が出された。だから最近は王宮に付く護衛の数を増やしてるんだが、その護衛にも人間の魔獣に会った者がいる。なんでも、お前たちなど象に集るライオンの群れのようなものだ。蹴散らすことなど容易にできる、と言われたらしい」
「まあまあ苦戦してんじゃねえか!勝つか負けるか五分五分だろそれ!」
ツッコミどころの多いやつだな!?相手するのに気を引き締めなきゃいけないのになんでこうも気が抜けることばっかり言うんだあいつ。
「人間の魔獣が現れたのは実に200年振りのことで、歴史的な書物にしか存在が記されていない。俺たちもその書物を読んだ知識しかないから、十分気をつけるんだ」
「ルーシャスはとにかく自分の、それからアリスちゃんの身を守ることを考えるのよ。何かあった時のために、これを渡しておくわ」
母さんに渡されたのは、昨日父さんが貰っていた剣の形をしたキーホルダーことお守り。俺のは大剣バージョンだ。
「念の為ルーシャス用も買っておいたのよ。もう渡すことになるとは思わなかったけれどね。私ったら用意周到!褒めてもいいのよ?」
パチッとウインクを決めてくる母さん。男子小学生全開のキーホルダーに苦笑しつつ、俺はそれを胸ポケットにしまった。
こうして俺の夏休みは不穏な空気と共に過ぎて行ったのであった。
ルーシャス「珍しく真面目な話だったな」
アリス「でもやっぱり敵はふざけてるんじゃないですの?ずっとボケてますわよ」
ルーシャス「俺もそれが気になってたんだよ。どうにも気合いが入らないんだよなあ...」
アリス「案外魔法とか剣よりもツッコミの方が効いたりするのかもしれないですわね」
ルーシャス「いや流石にそこは真面目にやるだろ...やるよな?」
どうでしょう...?




