50.みんなとくんれん
お父さん想いのルーシャスくん、今回は騎士団と一緒です。
「えいやーっ!」
「たぁーっ!」
野太い声がこだまする。広い訓練場を見下ろしながら、俺はほえーと口を開けていた。
「彼らはどうだい?ルーシャスくん」
隣にいるダスティンさんが俺に声をかける。なんと、俺は今騎士団の訓練場にいるのだ。
まあまあ、みんなの言いたいことはわかる。誰に言ってんだ。この間来てた騎士団入団の誘いは断ってたじゃないかってそう言いたいんだろ?大丈夫。俺は騎士団に入ったわけじゃない。
「いやーなんていうか、気迫が凄いですね。僕にはあんなに闘志を出せない」
「ははっ、少し怖気付いているようだね。戦闘能力は高くてもまだまだ子どものようだ」
「まあ訓練に来たわけじゃないのもあって少し気が抜けてたところもありましたね。次からはもう少し気合いを入れてきます」
苦笑しながら答える。俺は何をしに来ているのかというと、以前父さんが言ったように痔が酷いダスティンさんのサポートをしに来ているのだ。風魔法でクッションを作り、騎士団の訓練を見るダスティンさんのお尻を守る代わりにお小遣いを貰う。まあバイトってことだ。
何故俺が騎士団でバイトをしているのかというと、父さんの誕生日プレゼントを買うためだ。今は5月上旬、父さんの誕生日は5月24日。今まではお金を稼ぐという発想が無かったため子どもらしく絵を描いて渡していたが、俺が年相応のことをすると少し気持ち悪いらしく毎年引き攣った笑顔で受け取られるんだよな。子どもが頑張って描いたんだからもう少し喜びなさいよ。まあ俺が描いた父さんは顔がだいぶキングコ○グになっていたので正直俺も渡すのを躊躇ったが。
今年は小学生になりある程度自由も効く中で、丁度よくダスティンさんが困っているというのでつけ込んだわけだ。いやー俺の適正属性が風で本当に良かった。母さんの適正を引き継いで火とかだったら文字通り尻に火がつくところだったよ。その場合尻に火がつくのはプレゼントを用意できない俺なんだけどな。
ちなみに、買いたいものはもう決めてある。剣...は流石に値段的に無理だし父さんも相当良いものを使っているので、剣を振る時に使う皮の手袋だ。俺も以前イーナさんに貰って以来愛用しているが、父さんの皮手袋はもうボロボロだ。もちろん父さんは騎士団の剣術隊隊長なので予備はたくさんあるのだが、剣と違って正直そんなに良いものを使っているわけではない。なんでも、手袋はどうせすぐボロボロになるし使い捨ての様な感覚だからだそうだ。でも魔獣との戦いで毎回手袋を変えていては、戦いの際に持っていく荷物がとんでもなく多くなる。ということで、長く使える良いものを買ってあげようと考えているのだ。
「ルーシャスくん、私のサポートをしてくれるのもありがたいが、良ければ彼らの中に入ってみるのはどうかな?」
再びダスティンさんに声をかけられる。
「入る?訓練に参加するってことですか?」
「そうだ。将来君も騎士団に入るつもりなんだろう?ならせっかく来ているんだから今のうちに訓練を経験してみるのもいいんじゃないかと思ってね」
「うーん、でも、俺みたいな子どもが訓練に入ったら邪魔になりませんか?せっかく引き締まった雰囲気で訓練してるのに」
「なーに、入ってみれば君も雰囲気に馴染むさ。それに、入ってくれたらお小遣いも弾むよ」
「入らせていただきます」
俺の即答に笑いながら訓練場へ続く階段の扉を開けるダスティンさん。悪いが俺は現金なんでね、報酬が増えることはありがたくさせていただくぜ!
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「みんな!今からグレイステネスの息子、ルーシャスくんが訓練に入る!何かあればサポートしてやってくれ!」
「「「「「はいっ!!」」」」」
気合いの入った声が響く。騎士団と言っても、ここは剣術隊の見習いが集まっているところだ。
父さんを始め各部隊の隊長は基本的に本隊の訓練を指揮しているので、見習いの訓練はダスティンさん、及び副隊長各位が見ている。
「よろしくな!ルーシャスくん!俺は見習い隊員のマイクってもんだ!今日は君のサポートに付かせてもらうよ!」
紫の髪にピンクの目の若い隊員が話しかけてくる。ダスティンさんによると、見習いの中でも特によく出来る隊員らしい。剣術で2級を持っているそうだ。
「マイクさんよろしくお願いします。いつも父さんがお世話になってます」
ぺこり、と頭を下げる。小さい頃に学んだが、過度に丁寧な態度は気味悪がられるからな。適度に丁寧にを心掛けている。
「じゃあ早速だけど、ルーシャスくんにも擬似魔獣の相手をしてもらうよ!大きさはどれがいいか選べるかい?」
この人...俺が何級か知ってて言ってるのか?まあいいや、かましてやろう。
「じゃあ、超大型でお願いします」
マイクさん含め周囲の騎士達がどよめく。
「超大型!?大丈夫なのか!?」
「サポート、してくれるんですよね?」
にやっと笑って持ってきた愛剣を握る。
「わ、わかった。じゃあ召喚するよ?」
「いつでもどうぞ」
マイクさんが魔力を流し、熊の姿をした超大型魔獣が現れる。ミーナちゃんの試験の時見て以来だな。体長は約40mのバケモノだが、俺にとってこんなのは敵では無い。
風魔法で魔獣の目線まで飛び、真っ直ぐに剣を振り下ろす。そのまま地面まで一気に切り裂き、俺は超大型魔獣を一刀両断した。
俺の試験の時と同じ倒し方だが、試験の時とは違い剣には風を纏わせていない。剣術隊の訓練なのでなるべく魔法は使わないようにしてみたのだが、反応はどうだ?
「....!!」
振り向くとあんぐりと口を開けた見習い隊員たちが並んでいた。まるで親鳥からの餌を待っている雛鳥だ。
「どうだみんな?これがルーシャスくんの実力だ。気合いは入ったか?」
「「「「はいっ!!!!!」」」」
先ほどよりも野太い声で返事が帰ってくる。どうやらダスティンさんの目的は俺を訓練に参加させることではなく、見習い隊員たちに気合いを入れることだったようだ。やり手だなあ。
ていうか心做しかさっきから見習い隊員達の俺を見る視線がさっきまで超大型魔獣を見ていたものと同じになってる気がするんだが。バケモノ扱いされるのはなんだか気が悪いなあ。
そう思ってチラッと彼らを見ると、ビシッと気をつけをし、お辞儀をされた。
「「「「「良ければ、兄貴と呼ばせてください!!!」」」」」
「いややめてもらっていいですかまじで」
「「「「「お願いします!!!」」」」」
「ダスティンさん、あのー...」
「これは予想外だったな。まあいいんじゃないか?年下の兄貴で」
「年下彼女と結婚したらややこしい家系図になったみたいに言わないでください」
「「「「「兄貴!!!」」」」」
「いやもうまじやめてもらっていいですか?」
コーディみたいな大人が5人増えました。
ルーシャス「この国の人達は俺を兄貴扱いしないと気が済まないのか?」
アリス「それだけルーシャス様が尊敬される人だということですわ!私も誇らしいですの!」
ルーシャス「だと良いんだけどさ、なんでみんな舎弟気質なの?」
アリス「作者がそうなんじゃないですの?」
ルーシャス「ああそうかもな。小物っぽいし」
もうやめて...




