46.にゅうだんのすゝめ
今回はルーシャスくんが振り回されるお話です。
「はあ!?騎士団入団!!??」
素っ頓狂な声が上がる。声の主はもちろん俺だ。俺の目の前には難しい顔をした父さんと満面の笑みの母さん。あ、あとタップシューズを準備したジュリアお姉ちゃんもいたわ。なんとかパニックになるのを堪えられるようになってきたようだがタップシューズだけはすぐ取り出してしまうようだ。どこから持ってきてんだよまじで。
「いや、流石に止めたんだがなあ...ダスティンさんがどうしてもと聞かなくてな...」
その言葉に父さんに視線を戻す。テーブルに肘を付いて手を組んでいる父さんは某総司令みたいになっている。唯一の違いは項垂れてるとこだけだ。
「いいじゃない!どうせ他の騎士達に混ぜても実力は余裕で上だと思うわよ?」
項垂れる父さんに対してノリノリウキウキの母さん。この夫婦、どちらもテンションは高く落ち着きが無い方だが母さんは特にその傾向が強い。父さんは歳を重ねる毎に落ち着いて来ているのに対し、母さんは若い頃から変わらない。まあ主にやってることがお茶会だからなあ。ノリだけで言うとギャル女子高生みたいな人だ。
大分話が脱線したが、俺たちがテンションに随分と差がある家族会議をしてる訳は、ダスティンさんからの推薦で俺が騎士団に入ることを勧められてると聞かされたためだ。
いや流石に早すぎやしないかい?俺6歳よ?小学1年生よ?ともだちひゃくにん作ってからでも遅くないと思うぜ?
「実力があるのは俺もわかってる。実際ルーシャスが騎士団にいてくれたら大きな戦力になることは間違いないってこともな。ただ俺はルーシャスに貴族として、騎士としてのことを何も教えられてない。それが心配なんだよ」
「そんなのはみんな一緒じゃない?突然騎士団に入った元一般市民も大勢いるわよ!入ってから考えればいいのよ!」
楽観的すぎやしないかいマイマザー...。母親ってのはもっと過保護なもんだと思ってたよオイラは。普通は父親がやんちゃさせて母親が過保護なイメージだが、どうやらうちは逆のようだ。
けど正直母さんの言うことにも一理ある。俺は貴族としての礼儀やルールなんかを何にもまだ教わっちゃいないが、それは騎士団側が教えるべきこととも思える。理屈はな。
ぶっちゃけ言おう。俺は騎士団が怖いんだ。
いやだって俺前世高校生よ?いきなり軍隊に入るようなもんだろ?いや怖いってそりゃ。もっとぬくぬく生きてたいよ。多少チート貰って転生したけど心は日本人だからさあ。別に運動部だったわけでもないからそういう規律の厳しそうなとこには抵抗あるんだよなあ。
「うーん、正直なことを言うとルーシャスくんにはまだ騎士団には入って欲しくないかも。私はしっかり学校に行かせて貰って、そこから騎士団の見習いになってとっても充実してるんだ。だからルーシャスくんにもちゃんと学校生活を過ごしてから騎士団のことは考えて欲しいな」
俺のぬるすぎる考えを察したのかしてないのか、ジュリアお姉ちゃんが助け舟を出してくれた。まあお姉ちゃんも口ではああ言っているが、実際の胸中は俺を危険に晒したくない気持ちが大きいのだろう。動揺が手に取るようにわかる。いや手に取ってるのはタップシューズなんだけどさ。いい加減手放しなさい。
「ジュリアもそう思うか。俺としても、ルーシャスには勉強や武術以外でまだ学ぶことがあると思う。大切な友人と過ごす時間がかけがえのないものだってこともわかってるしな」
父さんは心の底からそう思ってそうだ。Theリア充みたいな人生送ってきてんだろうからなあ。自分の子どもが小学校に入ったと思ったらいきなり仕事に就かせられるのは耐えられないのだろう。
いやまあ実際のところ前世でしっかり高校まで行ってんだけどさ。日本には中学もあったから12年間学校通って、普通に友達もいてそこそこ楽しい学校生活謳歌した経験ありなんだけどさ。
「それに...」
父さんが続ける。
「前にルーシャスには直接話したことがあるが、ダスティンさんはルーシャスを自分の後継者、つまり騎士団の総司令官にしたいと思ってる。今騎士団に入れて早いうちに後継者を育成しておきたいんだろうが...」
父さんは苦笑しながら話す。なんだ?何か言い淀んでるような表情だ。言っていいのか悪いのかわからないようなことを口にしたがってる感じがする。
「どうしたの?何か言いたいことがあるのかしら?」
母さんが突っ込んだ。父さんも落ち着いてきたとは言え、かなり表情に出やすい方だ。誰が見ても何か言いたいのはわかる。母さん以外のみんなも察しているのがわかったのか、ふっと息を吐くと父さんは口を開いた。
「いやな...実はダスティンさん、最近痔が酷いらしいんだ。それで自分が前線にいるのがちょっと辛いらしくてな...ルーシャスを早く後継者にしたいのももちろんあるが、ルーシャスが常に側にいれば風魔法でクッションみたいなことができるだろ?座る時にやって欲しいんだそうだ」
俺たちはズッコケた。なんだよその理由!?いや確かに俺は魔法が使えるようになった時風を使って椅子みたいにしてたことあったけどさ!!痔のクッションに魔法使わすなよ!それぐらい買ってくれ!!
ああいやこの世界だと痔のクッション無いのかもな。今度マクロフリン家に行く時自作して持って行ってみようかな。それで早すぎる騎士団入団も免れるかもしれない。
「失礼します〜」
間の抜けた声が響き、俺の専属メイドことミーナちゃんが部屋に入ってきた。と同時にズッコケてる俺たちを見て首を傾げる。
「皆様、どうされたんですか〜?」
「いや、ダスティンさんがルーシャスをもう騎士団に入れたがってるって話を...」
「ああ〜、それなら断っておきましたよ〜。ルーシャス様が騎士団に入って忙しくなると、私の魔術の練習に付き合って貰えないので〜♪」
俺たちは再びズッコケた。前も言ったが何故メイド側の都合にご主人様が合わせるんだよ!!
「ああ、確かにルーシャスを守るのもミーナの仕事だからな。級を取るために練習するのは必要なことだ」
え、そうなのパパん!?むしろこのメイドちゃんの方が危険よ!?こないだなんか災害レベルの水柱で移動してきて俺を迎えに来たからね?下手すりゃ俺死んでたからね!?
何はともあれ、とりあえず俺の騎士団入団は無かったことになったようだ。でもむしろ身の危険で言うとより迫ってくるのは何故だろう。
身震いする俺を見て、ミーナちゃんは首を傾げるのだった。
ルーシャス「いや、冷や汗かいたよまじで。まだ学校でみんなとワイワイしたいよ僕ちんは。」
アリス「お父様ったら先走ってしまって...私からも怒っておきますわ!」
ルーシャス「ありがとうアリス...それにしても遅い時間に投稿とはいえ2日連続で更新か。作者もやる気だしてきたみたいだな」
アリス「この調子でどんどん私たちの活躍を書いてほしいですの!」
頑張ります...!




