42.わるいことばかりじゃありません
「はーい、今日はちょっと早いけどこれで終わりでーす」
『いえーい』
「あ、ルーシャス君は放課後職員室に来てねー」
「いや何で⁉︎」
ピス◯チオ風に白目を剥く俺。
授業が終わる3分前のことだ。この超短時間で俺の気持ちは上昇の後に急降下した。それはもうアクロバット飛行並みに。
相変わらず何故か黄色の靴下を履いた先生が出て行くと、俺の周りにわらわらとクラスメート達が群がってくる。
「おいルーシャス、お前また何かやったのか?」
「いや、ホントに心当たり無いんだけど……」
「どうせこの間先生にヤバいことでも言ったんだろ」
「それはあるかも!ほら、ルーシャス君って無駄に大人っぽいから気づかないうちに怒らせちゃったりして?」
「うっ…無いとは言い切れないな。……無駄とはなんだ無駄とは」
「アニキなら大丈夫だ!俺が慰めてやるからボロボロで帰ってこい!」
「ボロボロになること前提なのな……」
こうして男女問わず俺に話しかけてくれるようになったのはいいのだが、いかんせん話題が悪過ぎる。特にコーディ。口調は治ったものの、こいつは遠慮という概念を知らない。
まあ見て分かる通り、遠慮を知らないのはコーディだけじゃないんだけどな。
俺が短期間でここまで話しかけられるようになったのは、皮肉にも暴風事件のおかげだ。
元々俺は『グレイステネスさん家のルーシャス君 この頃少し変よ〜♪』と噂されていたためにそこそこ有名だった。
そんな俺が例の事件を起こしたことで、『あれで力を抑えてるんだから、少なくとも魔術1級は本当らしい』と認識されて結果オーライ。
ついでに俺のドジっ子キャラが定着し、晴れてクラスの人気者となった。
素直に喜べないのは何故だろう。
「ルーシャス様、辛いことを言われたら全部私に話して欲しいですの。力になれるかは分かりませんが、話を聞くことなら私にも出来ますわ」
「アリス…ありがとう…ありがとう…」
そう言って俺はアリスを抱き寄せた。
やっぱり純粋な味方はアリスだけだ。
「えっ⁉︎ル、ルーシャス様…?」
「あーっ!またイチャイチャしてるー!」
「アリスちゃんったら、顔真っ赤にしちゃって!かわいいんだから〜」
「いいなー、私もルーシャス君に抱きしめられたーい!…でもお似合い過ぎて文句言えないよねー?」
「僕達が入る隙がないって感じ?」
「ホントにそうだよなー。美男美女だと何も言えないから辛い!」
あははーと笑いが起こる。
入学した頃は全員に睨まれてたのに随分と変わったもんだ。
これが暴風事件のおかげじゃなきゃもっと良かったのに。割と切実に。
「ルーシャスー、アッツイのはいいんだけどさ、そろそろ行かなきゃダメなんじゃないか?」
「うっわ、忘れてた!俺行って来るわ!」
何やってんだよーと笑う声を背中に受け、ついに俺は戦場に向けて出陣した。
軽い足音が廊下に響く。
音源はもちろん俺。職員室に向かっている途中だ。
職員室が見えて来たが、前回と違ってこの段階で先生の赤黒い怒りのオーラは感じない。
それにしても、何で俺は呼び出されたんだ?
特に思い当たることはないんだけど……。
悶々としているうちに職員室に着き、俺はドアをノックして先生を呼んだ。
「ファーノン先生いらっしゃいますか?」
「あ、ルーシャスくーん。今行きまーす」
大きめのスリッパをパタパタさせて俺のところへ来る先生。今回は先生の背後に怒りのスタ◯ドは見えない。理由として考えられるのは、単に悪い話でないか、いつの間にか俺のスタ◯ドDI◯Kが抜かれたかだ。
……前者であることを願いたい。
「今日君に来てもらったのはー…」
ダルそうだなー。そんなに面倒なら呼び出さなきゃいいのに。
「…武術の補習についてなのー」
「補習?俺は免除されてるはずですよ?」
「そうじゃなくてねー、君ー、剣術と魔術が1級なんだよねー?」
「はい、そうですけど……?」
先生は数回頷くと、再び口を開いた。ダルそうに。
「実はねー、補習の子達にー、指導をしてあげて欲しいんだー」
「指導?俺が教えるってことですか?」
「そうだよー。……いいかなー?」
俺が教える……か。
確かに、この貴族の学校にいてまだ武術の級を取っていないのは少し深刻かもしれない。
基本的に貴族=騎士だからな。実際、貴族の7〜8割は騎士で残りは学者(魔法学者)と、騎士・学者の中から選ばれる大臣だ。
貴族である以上、どうしても武術は付いて回る。小学生時点で5級すら持っていないというのは結構重大な問題だ。そうでなきゃわざわざ学校で補習なんてやらない。
そこで同年代で既に国内トップクラスの戦闘力を誇る俺を指導役にすることで、負けたくないという気持ちを出させつつ級獲得を目指す考えか。
なるほど、学校も考えてるんだな。
でも俺に教えられるかなぁ?細かい力の制御は相変わらず不得手だからな……。
そのことを先生に伝えると、
「大丈夫だよー。6歳で1級でしょー?いくら才能があってもその年でそんなの取れないよー。ルーシャス君、凄く頑張ったんじゃないかなー?」
って言われた。
図星です。図星すぎます。
そういや俺0歳の時から腕立て伏せが日課だったな。
「はぁ…分かりました。次の補習からでいいですか?」
「そうだねー、そうしてくれると助かるよー」
「えーっと…用件はこれだけでしょうか?」
「うんー、もう帰っていいよー」
「あ、はい。さようなら」
「さよーならー」
ばいばーいと手を振る先生を後にして俺は廊下を歩いた。
突き当たりまでくると思いっきり息を吸い込んで、叫んだ。
「聞いてたかー⁉︎やっぱり俺はマズイことはしてなかったぞー!!」
すると、クラスメート達が一斉に飛び出してきた。
「やったじゃん、ルーシャス!」
「お前って凄かったんだな!」
「1級って嘘じゃなかったのね!」
「なんだよ、皆疑ってたのか?正真正銘、剣術も魔術も1級だぜ!」
「よっしゃ、皆でアニキを胴上げだ!」
『ワーッショイ!ワーッショイ!』
次の瞬間、気持ち良く宙を舞っていた俺と、胴上げしていた皆の耳に届いたのはもう聞きたくなかったあの声だった。
「何してるのかなー……?」
『せ、先生ッ!!』
やっぱり俺のDI◯Kは抜かれてなかったみたいだ。
前と同じ、ヤツが見える。
結局クラス皆で仲良く怒られた1年2組だった。
ルーシャス「前々から思ってたんだけどさ」
アリス「なんですの?」
ルーシャス「俺とアリスのイチャイチャするシーンが多くないか?」
アリス「私はこれでいいのですけれど…」
ルーシャス「なんか最近ギャラリーも多いしジェームズ達も久しく登場してないし」
アリス「あっ…そういえばジェームズさん最近見ないですわ」
そういえば……!
ルーシャス「いや作者が忘れてちゃダメだろ」
返す言葉もありません……。




