41.たいせつなひと
ここは……どこだ?
教室のようだが、普段通っている小学校とは明らかに違う。
何年も使われた机や壁には、人のイニシャルや相合傘の落書きが所々に見られる。
辺りを見渡しながら、俺は自分の目線がいつもより高いことに気づいた。
俺の身長は110cm程度のはずなのだが、今の目線の感じからすると170cm前後はある。
だが何故だろう。今俺がいる教室、高い目線にどこか懐かしさを覚えるのは。
俺のことじゃないのに俺のことのような……。
……ちょっと待てよ。
思い出した。この教室、目線、そして着ている制服。これは………
「◯◯◯ー!」
どこからか俺の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。甲高い、少女の声だ。
でも、その名前は『ルーシャス・グレイステネス』ではない。
それは、俺のものであって俺のものでない名前。
今は呼ばれるはずのない名前。
そこに1人の女の子が走ってくる。
俺の名前を呼んだ子だ。
「ちょっと◯◯◯!まだ私全部あらすじ聞いてないよ⁉︎」
何の話をしてるんだ?
口調からして知り合いのようだが……。
その顔は黒っぽい靄がかかっていて見えない。
だが首まで流れている幾筋かの水が、彼女の表情を教えてくれていた。
「◯◯◯のバカ!酷いよ、何も言わずに行っちゃうなんて……」
時折しゃくりあげながら胸に顔をうずめる彼女に、俺は一言発するのが精一杯だった。
「ごめん–––––––
–––––––––––ス様?ルーシャス様?」
「うーん……あれ、アリス?」
目を開けると、やけに心配そうなアリスの顔があった。
そうか、俺アリスの看病してるうちに寝ちゃったんだ。
これじゃどっちが世話されてるかわからんな。
「酷いですわ、何も言わずに眠っちゃうなんて……」
「え?」
「ふぇ?わ、私、何かおかしなことでも言いましたの?」
「い、いや、何でもない……」
アリスの何気無い一言が先程の夢の中の少女と重なり、つい過剰に反応してしまった。
「あはは、今起きるよ」
よいしょ、と起き上がった俺の服を、数滴の滴が濡らした。
「……え?」
アリスが少し目を伏せて口を開いた。
「ルーシャス様は泣いていらしたのですわ」
俺が…泣いていた?
「私も起きたのはついさっきですの。でも、涙の乾いた部分がありましたわ。ルーシャス様は少し前から泣いていらしたようですわ」
何か怖い夢でもご覧になったんですの?と心配してくれるアリス。
でも、あの夢の内容はこの娘に言うべきではない。
だから、適当に誤魔化すことにした。
「ルーシャス様……何に泣かされたんですの?」
何かグサっとくる言い方だな。ちょっと馬鹿にしてないかい?
「瞼をテープで固定されて瞬きができない中扇風機の風を顔に当てられ続けた」
「物理的⁉︎」
「中々に辛かったぜ……」
「ええー…」
『心配して損しましたわ」と『怖い夢じゃなくて良かったですわ』が入り混じり、複雑な表情を浮かべるアリス。
俺はそんなアリスの頭を撫でながら、そちら側に体重がいかないように寝ていたソファから降りた。
アリスの表情が満更でもないといったものに変わった。
相変わらず可愛いやつだ。
「ところでアリス、今何時?」
マクロフリン邸に来ている本来の目的をようやく思い出した俺は、あとどのくらいの時間が残っているか尋ねた。
「えーっと……5時ですわね」
「……まぢで?」
「まぢですわ」
俺はもう一度ソファに座り込み、両手で顔を覆った。
「帰る時間じゃねえか……」
紺色の『ずーん』という文字が降ってきそうなくらい落ち込む俺。
「ごめんなさいですわ…。私が倒れなかったらこんなことには……」
そんな俺の様子を見て、アリスは申し訳なさそうに謝ってくれる。
「いや、アリスのせいじゃないよ。俺が寝ちゃったのが悪いんだ」
「ルーシャス様……!」
「また来週、改めて来させて貰うよ」
「はいっ!お待ちしておりますのっ!」
俺に許して(?)貰えたことに相当ホッとした様子だ。
っていうか元々アリスが倒れたのって俺のせいだしな。
実際自業自得なんだよね。
良い雰囲気だったから言わなかったけど。
それにしても……夢に出てきたあの娘、名前だけでも聞いておけば良かったな……。
勉強とか前世にあったものはしっかり覚えてるのに、何か大事な記憶がすっぽり抜け落ちてる気がする。
平凡だった俺を支えていた、大事なことが……。
ネタ切れの時に他作品から無理矢理持って来てしまう今日この頃です。
ルーシャス「割と早い段階でやってなかったか?シュートさん登場回とかほとんどジョ◯ョネタしかないぞ」
アリス「ルーシャス様、この作者セルフパロディも平気でやってますわ。39話をご覧になってくださいですの」
ルーシャス「ホントだ。しかもよりによってその作品かよ!」
アリス「作者にとっては自信作ですのよ」
ルーシャス「マジで?めっちゃふざけてんのに?」
もう止めて……。




