38.るーしゃす こんしゃす
夜–––。
先生のお叱りを受け、魔法少女メイヴィスの猛攻をなんとか退けた俺は、今は部屋でミーナちゃんと2人だ。
「はあ……」
「ルーシャス様、どうかされたんですか〜?」
俺の溜息にベッドメイクをしていたミーナちゃんが反応する。
「いや、人生とはかくも無情なことであるかと思って」
「そ、そうなんですか〜……?」
頭の上にネコ耳とクエスチョンマークをのっけたミーナちゃんを見て少し癒される。
全く意味が分かってないんだろうなあ。ミーナちゃんはそういうことはすぐ顔に出る。
そこが可愛いんだけどね。
「おやすみなさいませ〜」
「うん、おやすみ」
いっぱいクエスチョンマークを浮かべたまま魔力灯を消して部屋を出ていくネコ耳ちゃんを横目で見送り、俺はようやく1人で落ち着ける状況ができた。
それにしても今日は散々な1日だったな……。
風の加減間違えて思いっきり暴風吹いて先生の怒りとストレスをぶつけられたし–––ストレスは先生のありがたいおまけだが–––、メイヴィスはゴリゴリに魔法ぶっ放してくるし……。
多属性使いって何だよ。チートかよ。
でも良いなー、赤色が濃く出てるのに適正属性は無いんだもんなー、良いなー。
俺なんか風だけだから、羨ましくて仕方ない。ただ、属性ごとの特性はつかないけどな。
これまで一言も言ってなかったけど、実はある1つの属性への適正が高いと、その属性に応じた特性が自然に発現するんだ。
そんなこと知らねえよ、とお思いだろう。
いや、でも俺だってマジで最近知ったんだよ。
例の魔道書に書いてあった。
風しか使えないって分かった時点で属性への興味無くなったんだもん。たまたま開かなかったら、俺は一生特性について知らないままだったかもしれない。
例えば水なら知能が上がる。最近はそんな印象が薄いが、ミーナちゃんが学生時代飛び級を2回成し遂げたのには、少なからずこの特性が関わっている。
俺の適正属性でもある風は足が速くなり–––この時ほど腕力だけ鍛えようと決めた当時の自分を憎んだことはない–––、土はシンプルに力が、光は治癒力が高まる。
そして火が少し特殊で、テンションが上がる。
たかがテンションと侮るなかれ。人間はテンションが上がると普段以上の力を発揮することがある。
火事場の馬鹿力なんかもその1つだ。
ちなみに、母さんの適正属性は火だ。……あの性格は火の特性のせいだけではないと思うのは俺だけだろうか。
こんな感じで地味に嬉しい特性がつくわけだが、メイヴィスは多属性使い。
このタイプには、特性はつかない。
そこが不利なところではあるんだけど……ねえ?
あいつ絶対4級の強さじゃないだろ。2級ぐらいだろ。ホントに、俺の異常な魔力量がなかったら負けてた。
いや、勝ったから良いんだけどさ。あれだけ見せられたら風ゴリ押しの俺は勝った気しないんだよ。
アリスと2人で帰るのだけでも疲れるのに、これからちょくちょくメイヴィスの相手をする可能性が……。余計な苦労を増やすんじゃないよ。
トップ貴族の一人娘の護衛兼将来の夫だぜ?
プレッシャーと責任をミキサー車で混ぜてミキサー車ごと上から乗っかってるぐらいの重さだ。もう何言ってんだか。
とにかく、今日のことはスッキリ忘れて、明日から切り替えていこう。
あれ、何でだろう。明日も同じようなこと考えてる気がする。
あ、そうだ。明日はミーナちゃんの練習に付き合う日だった。
はは、三途の川が俺を呼んでるぜ。今日はメイヴィス、明日はミーナちゃんからのご招待だ。
でも当然ミーナちゃんの方が強い。絶対あの娘1級合格するもん。認定試験受けてないだけだもん。何でまだ実力不足だと思ってるのか俺には分からん。
分かってるのは明日洪水被害に合うことだけだ。最近のミーナちゃん、ホントに容赦ないからなあ……。
もう今日は寝よう。
明日のことは、明日の俺に任せよう。
こうして長い1日は幕を閉じ、俺は絶望の淵とベッドに沈んだ。




