37.にじのかけはし わたるはさんず
授業中に暴風が巻き起こる謎の事件があって何故か俺が先生に呼び出しをくらった放課後–––とは言っても授業は午前中に終わるので俺としては毎日が定期考査中のような感覚なのだが–––。
実は俺がくらった呼び出しはファーノン先生からだけではなかった。
「早く課題ができてもー、魔法はぶっ放さないようにねー?」
「は、はーい……」
話し方こそいつもと同じだが、纏うオーラは赤黒い怒りを醸し出していた。
こめかみのあたりがピクピクしてるのがポイントだ。
あれ、先生の後ろに鬼神みたいなのが見える。
おかしいな、先生も俺もスタ◯ド使いじゃないはずだが。
ミーナちゃんにしてもだけど、普段気の抜けてる人ほど怒ると怖いよね。
しかも入学して日が浅い俺が思いっきり授業妨害したもんだから、先生の怒りは相当キテる。いや、キレてる。
もう「クリリンのことか」状態。ちょっと髪の毛金色になりかけてたもん。
新入生の担任だもんな。あんな感じでも色々ストレスが溜まってたんだろう。
俺で発散できたなら良かったと思おう。
お説教から開放された俺は、帰り支度をして帰路につこうとしていた。
「ルーシャス様、お話は終わられましたの?」
「アリス⁉︎まだいたの?」
「はい、私はルーシャス様を待つのは苦になりませんわ」
「おう、あいしー……」
このところ毎日アリスと2人で帰っているんだけど、流石にアリスの家まで毎日送っていってたら俺が潰れてしまう。
俺の家からアリスの家までは馬車を使う距離だ。6歳の体力ではとても無理でござんす。
だから、途中からは馬車がアリスを迎えに来る。俺も送っていくと言われたが、丁重にお断りした。足腰を鍛えておきたいからな。
「ルーシャス様、帰りますのっ♪」
「うん、行こうk……ッ!」
「ルーシャス様⁉︎」
突然俺の足が鉛でもつけられたように重くなった。
「何だ⁉︎」
「ルーシャス、ひどい」
「へ?メ、メイヴィス?」
そこに現れたのは、天然系魔法美少女のメイヴィスちゃんだった。
「今日、私と、約束」
「約束?……ああーっ!!」
「思い出すの、遅い…」
はあ〜と大きな溜息をつくメイヴィス。
そういえばこの間魔術師協会に行った時に–––
「さあルーシャス様、今日もたっぷり付き合っていただきますよ〜?」
「もう止めてくんないかな……」
ミーナちゃんに引きずられて練習場を借りに行く俺だが、ふと見覚えのある顔を見つけた。
「おーい、メイヴィスー」
「!ルーシャス」
「ルーシャス様、お友達ですか〜?」
「うん、同じクラスのメイヴィスだよ」
「初めまして、メイドさん。私、メイヴィス・ランドン。よろしく」
「私はルーシャス様付きのメイドでミーナと申します〜。いつもご主人様がお世話になっております〜」
「ルーシャス、今日、練習?」
「う、うん、まあね……」
「そう。手合わせ、してみたいな」
「おお!じゃあ今日しよう!」
「今日、無理。私、帰るところ」
「そうですか……」
ミーナちゃんから逃げられると思ったのに……。
「じゃあ、今度の、放課後、やろう」
「今度の放課後だな?分かった」
––––––ってことがあったんだった。
やべえ、完全に忘れてた。
「えーっと、今からでも?」
「いい。行こう」
「ちょっと待つのですわ!貴女、いきなり現れてルーシャス様をどこに連れて行く気ですの⁉︎」
「いいんだアリス。全部俺が悪いんだ……」
「ええ⁉︎……ル、ルーシャス様がそう言われるなら…。でも私も行きますの」
「アリスも?怒られない?」
「大丈夫ですわ。ルーシャス様との放課後デートは許容されていますの」
「おう、あいしー……」
ということで俺、アリス、メイヴィスの3人で魔術師協会へ向かうことになった。
「ルーシャス様、大丈夫ですの?」
「うん、大丈夫だ……よ?」
「本当に大丈夫ですの⁉︎」
結論から言うと、俺が勝ちました。
でもギリギリでした。
メイヴィス、何と、多属性使い。
何とか風で全部対抗したけど、普通に危なかったですはい。
アリスに支えられて帰る空には、妙に赤が生々しい虹がかかっていた。




