35.めいどしきまほうくんれん
俺は今、走っている。
別に体を鍛えてるんじゃない。
急用がある、なんてこともない。
ただ前を走るミーナちゃんに手を引かれて走っている。
冒頭から何を言ってるんだこいつは、とお思いだろうがそこは我慢してほしい。
俺だって状況がよく分かってなかったんだから。
ちなみに、目的地は魔術師協会。
当然、俺の魔術の練習のためではない。
では何なのかと。
真実はネコ耳にあり。
先日、ミーナちゃんがお茶会に無理矢理連れて行かれたのは覚えているだろうか。
あの時母さんに言われた、『俺より魔術の級が低い』というのがどうにも悔しかったらしく、俺が学校から帰ってきてすぐに手をとって駆け出したミーナちゃんは、魔術1級をとるために俺を連れて魔術師協会に走っているというわけだ。
なら1人で行けばいいじゃん、と思ってミーナちゃんにそう言ったのだが、
「私はルーシャス様付きのメイドですから〜、ご主人様の傍にいないと〜」
とのこと。
その理屈で何故メイドの方の都合に合わせるのかと。
普通はご主人様の都合に合わせるだろう⁉︎
いや、だからといって特に予定があったわけじゃないんだけどね。
でも帰ってきていきなり
「ルーシャス様、行きましょう〜!」
はないだろ。
俺家入ってねえよ。鞄そのまんまだぞ。
でも確かに自分より9歳年下の子供に自分の得意な魔法で負けてるのは嫌だろうな。
芸歴10何年の芸人より新人の方が人気が出ちゃうのと同じようなことだ。ラッスン◯レライ。
まあミーナちゃんなりのプライドもあるだろうし、それに付き合うのもまた一興。
ここはご主人様として一肌脱ぎますか!
で、着きました魔術師協会。
割と新しいはずなのに妙に古くさい建物は何を思ったのかシン◯レラ城そっくりの形と、それにそぐわない赤黒い色で塗装されている。
ここに来る度にやけに落ち着いた気分になる俺は、主に中学2年生が患うあの病気にかかってしまっているのかもしれない。
「こんにちは〜!」
いつにも増して気合いが入っているミーナちゃんが、重い扉を開ける。
「おう、ミーナちゃんにルーシャスの坊ちゃん!また訓練かい?」
いつも通り出迎えてくれるのはシュートさん。
気のせいだろうか、シュートさんの全身から機械的な音がするのだが……。
そのうち背中から紫外線とか出し始めるんじゃなかろうか。
「はい〜、でも今日は私の訓練なんです〜」
「ミーナちゃんの?それ以上訓練することがあるのか?」
「シュートさん、私は魔術何級ですか〜?」
「2級だな」
「ルーシャス様が何級かご存知ですか〜?」
「坊ちゃんか?そうか、うちの協会で認定試験する前にダスティンさんとこでしたんだっけな。えーと確か…1級だな」
「もう分かりますよね〜?」
「もちろんだ!我が協会の敷地保有面積は、世界一イイイイ!好きな練習場を言いな。すぐ場所とってやるぜ!」
「じゃあ1番大きいところでお願いします〜」
「おう、任せとけ!」
マジかよ……。
1番大きいところってことは、ミーナちゃんほとんど暴走してるような状態で魔法ぶっ放してくるぞ。
それを受けるのは当然俺…。
「ルーシャス様、行きますよ〜!」
ああ神様、どうか死にませんように……。
シュート「ミーナちゃんって機嫌悪いと結構グイグイ来るんだな…。怒らせないようにしよう…」




