33.はぷにんぐ・もーにんぐ
次の日ーー
俺は1人で学校に向かっていた。
本来一緒に来てくれるはずのミーナちゃんはいない。彼女は一緒に行こうとしたのだが、母さんが引き留めてしまった。
当然ミーナちゃんは抗議したんだけど……
「ちょっとミーナちゃん」
「はい〜、なんでしょうか〜?」
「私思ったんだけど、ルーシャスは1人で学校に行かせるべきじゃないかしら?教育の為にも」
「ええ〜⁉︎でも、ルーシャス様はまだ6歳ですよ〜?1人で行かれるのは危険です〜」
「何言ってるの!ルーシャスは並の大人よりよっぽど強いじゃない。魔法だってミーナちゃんより上なのよ?」
「で、でも〜…」
「いいじゃないの!たまにはミーナちゃんも私たちと一緒にお喋りしましょ?ね?」
……という具合に強引にミーナちゃんを連れ去ってしまった。
ちなみに母さんの本音は最後のセリフだ。
俺の教育云々は関係なくて、単にミーナちゃんを自分のお茶会のメンバーに加えたかっただけらしい。
落ち着きがなく、飽きっぽい性格の母さんは、日頃からよくお茶会のメンバーを増やしているのだが、ついにミーナちゃんにも手を出し始めたようだ。
ということは、既にイーナさんも魔の手によって連れ去られているはずだ。……ご愁傷様です。
つまり、うちで母さんに毒されていない女性はジュリアお姉ちゃんだけだ。
でもあの人に関しては元々あんな感じだから関係ないか。っていうか、母さんの遺伝子を色濃く受け継いでるジュリアお姉ちゃんはとっくに毒されている、とも言えるかもしれない。
嗚呼、うちって一体……。
あれこれと考えているうちに学校に着いた。
昨日は混んでいたので少し早めに来たのだが、どうやら早く来すぎたらしい。
生徒らしい人が見当たらない。
もしかして俺が1番か…?
ちょっとした優越感に浸り、再び意気揚々と歩き出した俺だが、ふとある疑問が頭をよぎる。
「遅刻じゃない……よな?」
あまりにも人がいないので不安になったのだ。
こういう経験がある人は多いと思う。
運動会の日に体操服で登校していて誰にも合わなかったり、夏休みの登校日の通学途中で誰にも合わない時に感じるアレだ。
大丈夫だと分かっていても、つい不安を覚えてしまって、焦って行ってみたら問題なくてホッとするんだよな。
今の俺は、まさにその状況だ。
時間的にはかなり余裕があったはずだ。
まず遅刻はありえない。……多分。
でももし時計を見間違えて、今俺が思っているより1時間遅いとしたら……。
「oh my god ……」
俺は早足で教室を目指した。
しーんと静まり返っている廊下に俺の足音のリズムだけが響く。
1年2組の教室のドアを開け、周囲を確認してホッとする。
よかった、やっぱり間違えてなかった…。
おでこの冷や汗を拭い、安堵の息を吐く。
すると、教室の隅にいた女の子に声をかけられた。
「何、してるの?」
「いやだ聞かないで恥ずかしい」
「そう、なの?」
コテンと首を傾げる女の子。
肩で切り揃えた艶やかな紫の髪が首の動きに追従し、真ん丸な紫の瞳の中には挙動不審の俺が映る。
不思議そうに見つめ続ける瞳には1点の曇りもない。
なんだろう、俺が凄く卑しい人間に思えて来た。
「お名前、教えて?」
「ふぁ⁉︎あ、ああ。俺はルーシャス・グレイステネス。君は?」
「私、メイヴィス・ランドン。よろしく」
「う、うん。よろしく」
ジェームズとはまた違った意味で話の流れを無視する子だな。
不意を突かれて変な声が出てしまった。
「ルーシャス、学校来るの、早い。何で?」
「たまたま早く出ただけだよ。メイヴィスこそ何でそんなに早いの?」
「私、魔術の、お勉強」
「魔術が適正なんだ?俺も魔術だよ。剣術もだけど」
「知ってる。ルーシャス、有名」
「そうなの⁉︎じゃあ何で名前聞いたんだよ」
「私、知ってるの、名前だけ。顔、知らない」
「ああー……」
なんか不思議ちゃんっぽいのに意外と正論言ってくるなあ。
俺がアホの子みたいだ。
「それでね、私、魔術、試したい」
「へ?」
「私の、土魔法、受けてみなさい」
「ええーーーー⁉︎」
「たあー」
「いやああああああ!!!」
友達が1人増えました。
散々土被せられましたけどね。




