32.ぼくたちのせんせー
タタタタタターン タタタタターン♪
ファ◯マの入店音に酷似したチャイムが流れ、俺はイスごとずっこけそうになるのをもの凄い精神力で抑える。
何故にファ◯マ。一瞬この世界にもチェーン店があるのかと思ったじゃねえか。
ファミチキ1つください。やかましいわ。
チャイムの音で緊張感が抜けてしまった俺は、改めて周囲を見渡してみんな顔がこわばっているのに気づいた。
さっき俺を見つめていた生徒も睨んでいた生徒も今はただ前を向いて座っている。
初めての学校だもんな。そりゃ緊張もするだろう。俺はもう4回目だけど。
「アニキ、どんな先生が来るんでっしゃろ」
「何があってその喋り方になっちまったんだ」
コーディが謎の口調で俺に話しかけてきた。
なんだ「でっしゃろ」って。
「この方が舎弟っぽいかなと思いやして」
「頼むからやめてくれ。それに俺はコーディを舎弟にした覚えはないぞ。友達にならなったけどな」
「ア、アニキ…!このあっしにそこまでの思いを…!」
「早く先生来てくれないかな」
カラン、カラン、カラン
すると先生のものらしき足音が近づいてくるのが聞こえた。
いやなんで下駄履いてんだよ。
鬼◯郎のオープニングみたいに歩いてくんじゃねえよ。
カラン、カラン…。
あ、良かった。1組だった。
あとでジェームズにどんな先生だったか聞いとこう。
パタパタパタパタ
するとスリッパの足音が聞こえてきた。
今度は立ち止まることなく我が2組の前に来て、ドアを開けた。
「はいみんな静かにー」
しーんと静まり返る教室を、「静かにー」と連呼しながら通り抜ける先生。
周りを全く見ていないのが分かる。
どえらい根性してはりますわ。
「はい静かにー。私がこのクラスの担任になりますー、カーリー・ファーノンです。よろしくー」
なんか喋り方も名前も気の抜けた人だな。
長く伸ばした赤い髪はボサボサで、同じく赤い目は半分も開いていない。
上下ともに赤いジャージで、だらしなく開けたチャックの隙間からちらっと覗く赤い下着が少し色っぽい。
っていうか赤好きだな。
身長は見た感じ155センチぐらい。
胸が意外と大きくて、下手するとEカップぐらいあるんじゃないだろうか。
どこぞの大平原とは違うぜ。
あれ、一瞬もの凄い悪寒が…。
「はいではみんなー、明日から授業が始まるから遅れないようにねー」
ファーノン先生の話は比較的すぐに終わり、緊張していた生徒たちをある意味で裏切る結果となった。
ちなみに去っていく先生の靴下は、鮮やかな黄色だった。
赤にしとけよ…。
暇になった俺は、アリスとコーディを連れて1組を覗きに行った。
っていうかコーディは勝手についてきた。
「ジェームズはどこですの?」
「ほらあそこだよ。あの窓際の真ん中の席」
「ジェームズって誰でっしゃろ」
「ちょっと黙ってて貰えるかな」
コーディ…。随分と面倒な奴と友達になったもんだ。
当のジェームズはというと、意外にもちゃんと話を聞いている……わけもなく。
「ジェームズ、寝てますわ」
「……ああ」
バレないようにスヤスヤとお昼寝の最中だった。
運のいいことに、ジェームズの前の席にはでっかい男子生徒が座っていて、小柄なジェームズを完全に隠している。
さ、流石です…。
「はいでは皆さんさようなら」
ようやく話が終わり、熟睡していたジェームズも教室から出てきた。
「ようルーシャ「ちょっとあんた!」
ジェームズの後ろからコーディによく似た女の子が1人出てきた。
「さっきはよくもやってくれたわね!…ってさっきのイケメン⁉︎それにお姫様⁉︎あとコーディ⁉︎」
「おお、ハンナ」
なんだ、知り合いだったのか。
「コーディは私の双子の弟なのよ」
何も言ってないのに説明してくれる。
えらく慌てん坊だな。
「あたしはハンナ・ヒーズマンよ」
「俺はルーシャス・グレイステネスだ」
「私はアリス・マクロフリンですの」
「ジェームズ・オルグレンでやんす」
「コーディ・ヒーズマンでやす」
うん、こいつらは気があいそうだな…。
そのまま騒がしい双子を連れて、俺たちは5人で家に帰ったのだった。




