28.おいつくせなか
パタパタパタ……。
忙しそうな足音が俺の部屋の前を何度も往復する。
以前にも同じような描写をしたことがあると気づいた勘のいい君、大正解だ!
そう、今日は俺の6歳の誕生日。
1歳のときとは違い、普通にみんなと同じものが食べられることにささやかな幸せを感じつつ、自分でタキシードに着替える。
1歳のときにイーナさんが俺にタキシードをくれてから、俺の誕生日の衣装は毎年タキシードだ。
最初に貰ったのもちゃんととってあるぜっ!
妙なテンションだな、とお思いだろうが今年の誕生日は少し特別だ。
なんでかって?それはだな…6歳だからだよ!
分かんねえよって人もいるだろうな。
仕方ない。説明しよう!
6歳とは、小学校に入学する年なのである!
なんだ、そんなことかって?
違うんだなこれが。
この世界で小学校に入学するということは、5歳児までの「子供」の肩書きが取れることを意味する!
つまり、日本でいう中学生みたいなもんだ。中学生からほとんど子供料金じゃなくなるから、中学に入学するとき妙に嬉しい人は結構いるはずだ。
まさに今、俺の気分はそれなのさ。
かと言って、小学校に入るのが楽しみなわけではない。
この世界の教育レベルはあまり高くなく、日本での中学校レベルの学力があれば高校を卒業できる。
ミーナちゃんに教科書を見せてもらったが、せいぜいそんなもんだったから前世で高校3年生だった俺なら余裕だろう。
ミーナちゃんと同じように飛び級をして最速コースで高校卒業を目指す。
学力は既に申し分ないし、武術だって剣術、魔術両方で1級を取得している。
……あれ、俺学校行く意味なくね?
えーっと……飛び級って何回までできるんでしょう?
コンコン、とノックの音がして俺は精神を元の世界に引き戻す。
「ルーシャス様、準備はバッチリですか〜?」
「もちろん」
「うふふ〜、では1階へどうぞ〜♪」
俺はドアを開けて、ミーナちゃんと一緒に階段を下りる。
『お誕生日おめでとうー!!!』
みんなの大きな声に迎えられ、俺は無意識に満面の笑みを浮かべていた。
「みんな、ありがとう!」
テーブルの上にはいつもよりたくさんの豪勢な料理がズラリ。みんなの後ろにはそれぞれプレゼントの箱が見える。
っていうか父さんのプレゼントデカすぎないか?何が入ってんだ。
それは後のお楽しみとして、ご馳走に一斉に手をつける。
ローストチキン、ローストポテト、豆のソテーにコーンスープなんかが並んでいる。
クリスマスじゃないんだから。
「はあ〜なんだか感慨深いわ〜。もうルーシャスも6歳なのね」
「6歳どころじゃない気もしますけどね〜」
「ちょっとミーナ!…でも確かに精神年齢は旦那様や奥様より上かも…」
そこまで言って、全員が顔を見合わせて吹き出す。
「懐かしいねー。ルーシャス君が1歳のときと全く同じこと言ってる」
「あ、そうか。一応あのときジュリアお姉ちゃんいたんだね」
「そうだよー♪箱の中に潜んでたんだから!」
「全然潜めてなかったわよ」
「嘘でしょママ⁉︎」
「フィエナ、ジュリア…お前ら一体何やってたんだ…」
「あ、あははー」
2度とあの大平原は忘れないだろうな…。
このお姉様、今でも休みの日に俺に飛びついてくるときがあるから困ったもんだ。
いつにも増して賑やかな会話が進むのに比例して料理が減っていった。
「さて、そろそろ渡すか」
父さんがそういうと、みんな一斉に後ろからプレゼントを出した。
「では、私からお渡ししますね」
イーナさんから順番に俺にプレゼントを渡してくれる。
最後の父さんまで渡し終えると、いよいよ開けるときだ。
まずはイーナさんのプレゼント。
緑のリボンをといて中身を見ると、そこにあったのは皮の手袋。
「いつも大きな剣を使ってらっしゃるので、手に豆ができないようにと思いまして…」
とのこと。やっぱりええ娘やー。
ミーナちゃんとジュリアお姉ちゃん、それに母さんのプレゼントは安定の本。
もう本ばっかり増えてどうしようもありません。本当にありがとうございました。
最後に父さんだが、なんと本物の大剣だった。
「ダスティンさんからお前が1級になったと聞いてな。さすが俺が教えてるだけある」
だそうだ。
あんまり理由になってないが、ついに俺も自分の剣を持つことになった。
名前は好きに決めていいということで、早速考えている。
柄は俺の適正に合わせて青と赤が交互に織り交ぜてあり、剣身は鈍く紫に光っている。
……決めた。
『紫の嵐』
それが俺の剣の名だ。
小学校入学を控え、自分の剣も手に入れた。
いよいよ大人が近づいて来ている。
思い切ってこの広い世界に飛び込もう。
色とりどりのこの世界へ。




