27.まじめなおはなし
よーし、一回落ち着こう。
すうーっはあーっ。すうーっはあーっ。
よし落ち着いた。落ち着いてないけど。
状況を整理してみるぞ。
・ジェームズと一緒にマクロフリン家に挨拶に来た。
・アリスに会って自己紹介した。
・アリスにプロポーズされた。
・冗談だと思ってたらマジだったみたいで、将来結婚することが決まった。
・アリスの父親のダスティンさんが武術の級認定をしてくれて、剣術&魔術で1級に認定された。
………どうしてこうなった。
俺はただ挨拶に来ただけのはずなんだ。
別に花嫁を探しに来たわけでも、この国トップクラスの強さを証明しに来たわけでもない。
「災難だったわね、ルーシャス君」
そう言ってくれるのはアリスの母親で王国騎士団弓術隊隊長のクレアさん。
認定試験のあとにやって来て、ダスティンさんとアリスから事情を聞いたクレアさんは俺を落ち着かせるために部屋に呼んでくれた。
「ダスティンもアリスも突っ走るタイプだから…。いきなり結婚って言われても本気にしないわよね普通」
「本当にそうですよ…」
途方にくれる俺を見て、クレアさんは苦笑を浮かべる。
「俺…アリスと結婚するんですかねえ…」
「嫌かしら?」
「いえ、そういう意味では……。ただ何というか…俺には荷が重いんです」
「フフッ、ルーシャス君は真面目ねぇ」
「ほえ?」
突然クレアさんが笑い出したから、変な声が出てしまった。
「アリスは君が思ってるより素直で明るい子よ。それに君の実力ならこれから出てくるであろうどんな婿候補にも負けないわ」
「クレアさんは、正直どう思ってるんですか?」
「私はできればアリスとルーシャス君が結婚して欲しいと思ってるわ。こんな早い時期に決めることはないけどね。そもそもアリスだって口を滑らせただけなのよ?昨日の夜にダスティンが婿だの何だのって吹き込んだからあの子も変に意識しちゃって…」
「アリスも言われてたんですか?」
「あら、ルーシャス君も?」
「はい。うまく行けば結婚して1等貴族になれるぞって」
「ダスティンもルイス君も考えることは同じなのねー…」
「あ、あははー…」
力ない笑いが部屋に響く。
「でもねルーシャス君、あの子の君への感情は初恋なの。それも一目惚れ。今まで同年代の男の子に興味も示さなかったあの子が、ここまで夢中になってるの。別に結婚してくれとは言わないけれど、アリスの気持ち、大事にしてやってちょうだい」
クレアさんの目は本気だった。
当然、俺もアリスの気持ちが本物だとわかった以上は蔑ろにしたりしない。
全力でアリスの恋と向き合うつもりだ。
そもそも俺だってアリスはかわいいと思うし、よく考えれば断る理由もない。
「もちろんです。どんな結果になっても、俺はアリスと真剣に向き合います」
「あらあら、随分男前な子を好きになったものね。アリスも隅に置けないわね」
めっちゃ軽く受け止められたんですけどー。
もうこの家族は本気なんだか冗談なんだかわかりにくいったらありゃしない。
「さてルーシャス君、そろそろお家に帰りましょうか」
「あ、はい。馬車はどこですか?」
「この部屋の窓から見えるはずよ。…あら?」
「どうしたんですか??」
「…馬車がないわ」
「なるほど馬車がn……………へ?」
「代わりに紙が残してあるわね。えーっと…ルーシャス、俺はお前をいつまでも応援してるぞ。ジェームズ」
「あんの野郎おおおお!!!」
ジェームズェ…。
ジェームズはご丁寧にこの窓からでも読めるくらいでかい紙で置き手紙をして行ったようだ。いや、確信犯だ。
あいつ……次の稽古でボッコボコにしてやる!!!
「でも困ったわね、どうやってルーシャス君を送ればいいのかしら?」
「あ、クレアさん大丈夫です。風で帰りますから」
「……え?」
俺は魔力を指先に集中し、強烈な突風を吹かせて窓から家に向かって飛び出した。
ぶっちゃけ馬車よりかなり速い。
もし途中で見つけたらその時点でフルボッコの刑だ!
物凄いスピードで飛びながら、ジェームズをどうやってボッコボコにするか考える俺なのだった。
「あの子…やっぱり常識外れねぇ…」




