17.これがいつものこと
ルーシャス君、5歳の設定です。
くまさんは手放せません。
どこからか鳥のさえずりが聞こえてきて、俺は目を覚ました。
「すうーっ…はあー」
カーテンと窓を開けて朝の空気を思いっきり吸い込む。
着替えを済ませて髪を整える。
男にしては少し長めの髪は明るい青色、父さんと同じ色だ。
「おはよ、チャーリー」
もはや俺のかけがえのない親友となったくまさんにも挨拶をする。
チャーリーというのは俺がくまさんにつけた名前だ。
流石に二等兵ではかわいそうだしな。
「ルーシャス様〜、ごはんですよ〜?」
「うん、今行くよ」
ミーナちゃんが部屋に入ってきて、俺はそのまま一階へ向かった。
テーブルには焼きたてのチーズトーストにたくさんのフルーツ、さらに人参のスープが並んでいた。
「うーん、今日も美味しそうだな」
「うふふ、ありがとうございます」
正直な感想を述べると、イーナさんが嬉しそうに言葉を返してくれる。
イーナさんはもう19歳。以前感じた幼い部分は影も見せなくなり、すっかり大人の雰囲気を醸し出している。
俺が普通にごはんを食べられるようになってからはイーナさんとミーナちゃんが一緒に作ってくれている。
最初の頃は危なっかしいところがあったミーナちゃんだが、今ではたまにしか変なモノは入っていない。……たまにしか、な。
2週間に1回くらいはえげつない形の野菜やフルーツが入っている。ちなみに今日は………
あった。人参が全部ハエの形してる。
食べにくいわ!
そういえば昔にりんごの芯が龍の形してたことあったな。あれを皮切りに数々の迷作料理を生み出してるミーナちゃん。
頼むから普通に料理してください。
「いただきまーす」
メイドさん2人と一緒に食べ始める。
父さんと母さんはいつも朝早くに出かけるので、一緒に食べることは滅多にない。
ジュリアお姉ちゃんは騎士団の見習いとして体術隊に所属しているので、父さんや母さんよりも早くに訓練に行っている。
そういう訳で俺はメイド喫茶のような雰囲気で朝ごはんを毎日食べているのだ。
「ルーシャス様、今日はどうされますか〜?」
「んーふぉうふぁふぇえー」
「ルーシャス様、飲み込んでから話してください…」
「あ、ごふぇんイーナふぁん」
慌ててトーストを飲み込んで、今日の予定を練る。
「んー、やっぱ今日はジェームズのところで剣術の稽古かな」
「かしこまりました〜、木剣を用意しておきますね〜♪」
「うん、ありがとうミーナちゃん」
ジェームズは母さんのお仕事のメンバーのマリサさんの息子だ。
マリサさんの旦那さんは剣術隊の副隊長で、父さんの補佐をしている、2等貴族だ。
ジェームズはちょうど俺と同い年で、俺達は2人とも父親に剣術の稽古を受けているので、手合わせにはお互いにちょうどいいのだ。
ただ、あいつと話してると俺が一方的に疲れる。…まあ見てれば分かる。
「ごちそうさま」
「はーい」
「は〜い」
姉妹の声が重なり、思わず笑みを浮かべる。
ネコ耳以外はあまり似た特徴がない姉妹だが、こういうところではしっかり声が揃う。
やっぱり姉妹なんだなぁー。
「さあーて、今日も思いっきり剣振ってくるか!」
「お姉ちゃん、お願いね〜?」
「ええ、しっかり勉強するのよ」
「は〜い」
ジェームズの家のメイドさんは21歳。うちのネコ耳ちゃん姉妹と仲が良く、俺がジェームズの家に行く時は2人のうちどちらかが付き添い兼メイドの勉強でついてくる。
イーナさんだけではお手上げだったミーナちゃんの料理も、この人のおかげで改善されつつある。
ミーナちゃん、いつかマトモな料理しか作らなくなればいいな…。
自分の稽古そっちのけでミーナちゃんへの願いを込めながら俺達は家を出た。