100.からふるわーるど
俺と魔獣以外は動きが止まり、世界は白と黒だけになっている。いつの間にか切り落としたはずの奴の手足は元に戻っている。
そんな中で、魔獣は口を開いた。
「完結だ」
「……は?」
「完結だって言ったんだよ。お前の物語はここまでだ」
「何言ってんだお前?あとその口調は……」
「だから完結だって。この世界は、お前が創り出した世界だ。いや厳密には俺とお前が、だ」
意味が分からない。突然変わった口調と言い、何を言っているのか一言も分からない。
この世界は俺が創り出した?どういうことだ?
「まだ分かんねえのかよ。お前は、俺だ。そして俺はお前。正確に言うと、お前の記憶の欠片が俺だ。お前、高校の時の記憶あんま無いだろ?それは俺がお前から抜けてるからだ」
「お前が……俺の記憶の欠片?」
「そうだって言ってんだろ。もういいから思い出せよ。お前自身が封じ込めちまってる、お前自身の記憶を」
そう言うと魔獣は俺にゆっくりと近づいてくる。咄嗟に大剣を構えようとしたが、奴には敵意が無いように見えた。そのまま奴は俺に重なり、消えた。
すると俺の体がぼうっと光り、俺の頭の中に抜け落ちていた前世の記憶が次々と蘇ってくる。
特段仲のいい男友達もおらず、平凡に過ぎていった高校生活のこと。唯一俺と親しくしてくれた、同級生の女子のこと。俺が趣味でノートに小説を書いていたこと。そしてその小説の内容は、今まで俺がルーシャスとして生きた人生そのままであること。
全てを思い出した。この世界は、俺が書いた小説の世界なんだ。
ああ、これで納得がいった。ジェームズが知らないはずのネタを知っているかのような言動をしていたこと。アリスが野球を知っていたこと。ブラウン先生がキ〇肉マンのオープニングを歌えたこと。エリック先輩がハ〇ション大魔王の絵描き歌で魔法陣を描いていたこと。全て、俺が書いたことなんだ。
「やっと思い出したか。都合良く大事な部分だけ忘れやがって」
俺の中から魔獣、いや俺自身の声がする。
お前はなんで魔獣なんかになってたんだ?
俺は、純粋な疑問を自分自身の中にいる記憶に投げかける。
「それは、人間の魔獣が小説のラスボスだったからだよ。お前は自分が死んで転生したと思ってるが、実際はまだ死んじゃいない。その証拠に、お前は何度か目を覚ましてるんだ。今もお前の体は病院のベッドに寝転んでるよ。俺はお前自身の記憶として、お前がこれからどう生きるかを決めさせなきゃいけなかった。だから、この物語を終わらせる存在としてこの世界に来たんだ」
俺がまだ生きてるだって?じゃあなんで俺は転生なんて……。
「何かの弾みでポロッと異世界が具現化したみたいだな。お前の魂は記憶をちょっぴりだけ元の体に残して転生した。そのちょっぴりの記憶が俺ってわけだ」
なら……なら、早くそれを言ってくれれば……!
「言ったってしょうがないんだよ。お前はちゃんと人間の魔獣を倒すところまで物語を書き切ってた。だから、俺もその役割を全うした上で、物語を終わらせた上でお前に接触する必要があった。だからあんなしょうもない魔獣を演じてたんだ」
あの人間の魔獣は俺自身だった……。いやでも待てよ、じゃあなんであんなボケてたんだよ?俺はツッコミだぞ?
「それも忘れてんのかよお前。元々お前はボケる方だろ」
えっそうなの!?ボケてた記憶が抜けてツッコミになっちゃったってこと!?
……いやそんなことはどうでもいいんだ。
俺は、これからどうしたら良いんだ?
「お前自身が決めろ。俺という記憶が戻ったお前の魂は完全だ。この世界に残って物語を続けることもできる。その場合、元の体は完全に死んでしまう。もちろん、元の世界で蘇ることも選べるぞ」
元の世界で待っている人がいることも分かってる。でもこの世界にも大切な人がたくさんいるんだ。決めることなんて……。
「甘えてんじゃねえよ。お前が始めた物語だろ?お前自身が決めるしかないんだよ」
魔獣……いや、俺自身の記憶にそう言われ、俺は心を決めた。
俺は……俺は……。
小鳥のさえずりが響き、朝の訪れと共に目を覚ます。
差し込む朝日に目を細め、伸びをして起き上がる。
「おはようございますの、ルーシャス様!」
「ああ、おはようアリス!」
隣では同時に目を覚ましたアリスが今日も元気いっぱいに挨拶してくる。
あの時俺自身の記憶に決断を迫られ、俺が決めたのはこの世界に残ることだった。
もちろん元の世界で俺を待ってくれている人がいるのは分かっている。でも、この世界で守りたいものが多すぎる。というより、俺はこの世界自体を生み出した存在として、この世界自体を守っていく義務があると思ったんだ。
俺がこの世界に残ると決めたことで、元の体は命を落としたはずだ。だが、俺にはできることがある。
俺は転移魔法陣からエリック先輩のいる魔術室へ飛び、異世界に転移できる魔法陣を拝借してくる。
魔法陣の中心に立って魔力を流す。行先は元の体が眠っている病院だ。
光の中を抜け、俺は日本の病院に辿り着いた。
いきなり現れるとびっくりされるので、あくまで病室の外だが。
聞き耳を立てると、中から複数人の声……というか嗚咽が聞こえてくる。
どうやら俺の体が息を引き取って間もないようだ。
俺は思い切って病室の扉を開ける。
驚いた顔でこちらを見てくる複数人の男女。
その中でも特に若い、高校生か大学生ぐらいの少女が俺の名を呼んだ。どう察したのか、前世の名で。
俺は元の世界に別れを告げ、ジェルダーリ王国へと戻ってきた。
アリスとミーナちゃんがバカ長いサミットテーブルに着いて俺を待っている。
「ルーシャス様おかえりなさい〜!ちゃんとお別れはできましたか〜?」
「ただいまミーナちゃん。うん、ちゃんとできたよ」
「でしたらルーシャス様、早く食べ始めますの!もう腹ぺこで牛3ダースは食べられますわ!」
「ダース!?単位ダース!?」
「アリス様凄いです〜、私もいつかそれぐらい食べられるように頑張ります〜」
「張り合わなくていいよミーナちゃん!?この人おかしいからね!?」
いつもと同じ平和なボケとツッコミが飛び交う。
外を見ると、豊かな自然に色とりどりの髪色をした子どもたちが遊んでいる。
その目はまたたくさんの色で出来ていて、それぞれ個性が溢れだしている。
俺はこれからも生きていくと決めたのだ。
どこを見てもカラフルな、この世界で。
これにて「からふるわーるど」は完結です!
作者が高校生だった8年前からブックマークを外さずに読んでくださった方、最近になって読み始めてくださった方、Xから飛んできてくださった方と色々いると思いますが、ここまで読んでくださった全ての方に感謝申し上げます!
ルーシャスの前世が気になる、という方がもしいれば、前日譚の「Colorful World〜the created world〜」を合わせて読んでいただけると幸いです!「からふるわーるど」目次の上にある「からふるわーるどシリーズ」から飛べます!
末筆にはなりますが、改めて最後まで読んでくださった全ての方に感謝申し上げます!
本編はこれにて完結ですが、次ページに人物紹介をまとめておりますのでぜひ振り返ってみてください!
それでは!