10.さぷらいずぷれぜんと
パタパタパタ……忙しそうな足音が何度も部屋の前を往復する。今は部屋の中には俺に服を着せてくれているミーナちゃんしかいない。いつものことだろって?気にすんな。
今日はいつも通りの仕事をしているのは父さんだけだ。母さんやイーナさんは昨日からずっと家の中を駆け回っている。
俺は不思議に思った。そしてミーナちゃんに尋ねてみた。すると彼女はこう言ったんだ。
「今日はルーシャス様のお誕生日ですから」ってな。
「ハンバーーーーーーグ!!!!」
「きゃあああっ‼︎」
「あ、ごめんミーナちゃん」
「ど、どうされたんですか〜?」
「いやちょっと叫びたくなって」
「どういう心情ですかそれ〜⁉︎」
ミーナちゃんのツッコミを微笑んでスルー。
それにしても前世で聞いても知らない人の方が多そうなネタを異世界で全力でやる俺って……相当恥ずかしくないか?
……うん、もう気にしないでおこう。ミーナちゃんのツッコミが痛くなってきた。
「はい、できましたよ〜」
「ありがとうミーナちゃん」
「いえいえ〜♪」
ミーナちゃんに服を着せてもらって身支度完了。あとはパーティに行くだけだ。
ちなみに俺が着ているのはイーナさんお手製のタキシードだ。もう来年には着られないだろうに、こんな立派なの良いのか?と思い、イーナさんに言ってみたのだが、
「ずっと思い出として持っていてくださいね?」って言われた。
ええ娘やー。
「さあルーシャス様、行きますよ〜」
ミーナちゃんが俺を抱き上げる。
良い匂いが鼻をくすぐり、俺は食卓の特別席に座らされた。すると皆が『お誕生日おめでとう〜』と声をそろえて俺の誕生日を祝ってくれる。
「皆ありがとう」
「はあ〜何だか感慨深いわ〜。もうルーシャスも1歳なのね」
「1歳どころじゃない気もしますけどね〜」
「ちょっとミーナ!…でも確かに精神年齢は旦那様や奥様より上かも……」
「あ、あははー」
イーナさん、苦労してんだな…。うちの両親がすいません。1歳児に謝らせるなよ。
「さあ、食べましょうか」
『はあ〜い』
母さんの合図で一斉にご馳走に手を伸ばす。
とは言っても俺は先日離乳食を卒業したばかりだ。いくら精神年齢が高かろうがそういうところは一般的に見てもせいぜいちょっと早いくらいが限界だ。
俺用に柔らかくして味付けも薄い料理を別に作ってくれているメイドさん達に感謝しないとな。
しばらく経つと、皆がプレゼントをくれた。
赤ちゃん用のおもちゃだろうと思っていた俺だが、開けてみてビックリ。
なんと母さんは子供用の木剣で、ミーナちゃんとイーナさんは本だった。…本当何歳だと思ってるんだろね。まあありがたいんだけど。
「それともう1つプレゼントがあるの♪」
うん、気付いてた。気付いてたけどこれは触れちゃいけないと思って何も言わなかったが、明らかにおかしいものが1つ。
何故かパーティの最初から子供が1人入ってもまだ余裕がありそうなでっかいピンクの箱がサラッと置いてある。しかもこいつが時々『ゴトゴトッ』と動くのだ。怖ええー。
な?触れちゃダメだろ?
今俺はそいつに向かい合っている。
母さんの「開けてみて〜♪」という視線に負けて、ついに俺はパンドラの箱を開けた。
「ルーシャスくううううん!お誕生日おめでとう〜!」
パンドラどころの騒ぎじゃなかった。