まずは町の探索だよな!
少しの緊張と共に、ゆっくりと外への扉を開ける。
同時に目に飛び込んできた光景に、俺は感動でしばし呆然としてしまった。
すげえ、本当に、あのゲームの世界だ。
散々ゲームで歩き慣れた道でも、現実に歩くとなると不思議な感慨が湧く。
明るい日差しの中、感触を確かめるようにゆっくりと歩いてみる。まだ舗装もされていない、土を均しただけの道も、ほったて小屋を並べたみたいな安普請の簡素な街並みも、あちこちの国から集まって来たらしい訛りも様々な住人達も、すべてがリアルだ。
ああ、まだ開拓がはじまったばっかりだから、村もまだまだ小さくて、森を切り開いて出来たんだってのがよく分かる。
村を囲む森からは、鳥のさえずりが響いていた。
「ぐえっ!?」
思わず興味津々な顔で辺りを見回しながら歩いていると、横から譲が勢い良く体当たりしてきやがった。完全によそ見していただけに、避けることもできない。
ちくしょう、思いっきりよろけたじゃねえか。
「痛ってぇ……」
「悪りぃ、こいつがぶつかって来てよぉ」
唇をとがらせた譲が示す先を見れば、金髪のチャラっとした男が相好を崩していた。
「ああ、可愛いお嬢さん、悪かったね。怪我は無いかい?」
おおお~!!! お前は、リスト!
そっか、あったあった、こういうイベント。たしか女主人公限定のイベントで、返答次第で村の外に冒険に出る時に、こいつを雇えるようになるんだ。ちなみに男主人公だと出会いは一週間も後になる。
「いや、別に。ケガはねえけど」
「良かった」
憮然とした表情の譲に、リストはこれでもかというくらいのイケメンスマイルをみせた。
「これも何かの縁だ、もし村の外に出るような事があったら声かけてくれよ。俺、こう見えて結構腕もたつからさ」
「はぁ?」
いきなりの展開に譲は早くも眦を吊り上げる。いやいや、なんでいきなりケンカ腰なんだよ、そこは心良く好意を受けてくれ。
リストといえば、このできたての村『ランハイム』の警護を国から任されている凄腕の騎士だ。超強いのに、めっちゃ安い雇用金額で村の外での素材採取に付き合ってくれる、素晴らしい人材なんだぞ!?
「今日のお詫びに依頼料は安くしとくよ」
「なんだテメェ……痛てっ!?」
案の定ナイスな提案をしてくれるリストに向かって、なぜかいきなり戦闘態勢に入りそうな譲。
ヤバイと思った俺は、譲の耳を無言で引っ張った。
道端でインネンつけられて即ケンカ、なんて日常を送っているコイツからすれば、声をかけてくる奴は倒していいと思っているのかもしれないが、これじゃこの先が思いやられる。
ほんともう、手のかかる子だこと。