久々に本気の腹パンいただきました
あまりの幸せにほっこりしていたら、急に背後から強烈な殺気が。
「デレデレしてんじゃねーぞ! この野郎!」
いきなり容赦ない蹴りを背中にくらい、華麗に川にダイブする羽目になった。
ずぶ濡れで顔を上げれば、譲が仁王立ちで俺を見下ろしている。残念ながら小柄で華奢な今の体躯で見下ろされても、睨まれても、ちっとも怖くない。
むしろ可愛い。
「テメエ、自分だけ楽しい思いしやがって! オレだけ目が覚めた瞬間にセクハラ女と二人きりとか、オレの心臓止める気か!」
なるほど。気絶中の譲の見張りと護衛をミランダ姐さんに任せたのが、どうやら気に入らなかったらしい。
ぷりぷりと怒る譲をなだめつつ帰途につき、オンボロ我が家で譲と二人きりになった俺は、それとなくミランダ姐さんの話題を切り出してみた。
「そんなに毛嫌いしなくても。姉御肌でいい人だぜ?」
ちょっとスキンシップは激しいが、根はいい人なだけに少し可哀想になってくる。
「お前はしょっちゅう抱きつかれたりなんかしないから、そんな事が言えるんだ」
ノミを片手に憮然とした表情で譲が答える。
ちなみに今俺たちは、念願の風呂桶を作っている。湯船につかる習慣がないらしいこの世界で、仕方なく職人のおっさんから桶の作り方を教えてもらい、デカい木製の桶を作ろうとしているわけだ。
たんなる日曜大工だが、なぜか錬金のレシピにも登録されたのにはちょっと笑った。
「いいじゃねぇか減るもんじゃなし。ミランダ姐さん超絶ナイスボディなんだからむしろありがたいと思え」
そうだよ、絶対に元の世界に戻ったらあり得ないシチュエーションだと断言出来る。
「だから困る」
力なく言った譲の顔は、既に真っ赤だった。
「あんなでっかい乳、無闇矢鱈にくっつけられてみろよ、どんな顔すりゃいいんだよ」
なんと! 照れてるだけだったのか!
「お前は今、見た目が美少女だからな。真っ赤でもデレデレしてても、やらしい感じはしねぇぞ?」
「そ、そうなのか?」
「ああ、羨ましいくらいだ。だから堂々とデレデレしていいんじゃね?」
「出来るか! ちったぁ真面目に考えろ!」
怒鳴り声と共に、腹に小さな拳がのめり込む。
前より痛いと思うんだけど気のせいか!? 拳が小さくて当たる面が狭いせいか? 力が強くなったのか?
くっ……久々に強烈な腹パン貰ったかも。これでも結構真面目に言ったんだが。
この前のナメクジ事件の時に、体が女になったから気持ちも引きずられたりしてないかとちょっと心配したけど、どうやらその心配はないみたいだな。
体をくの字に折ってのたうちまわりながら、妙に冷静にそんな事を考える。
ぶっちゃけガキの頃から知ってる眼光鋭い大男が、いくら姿が変わったからっていきなりイケメンと楽しく恋愛モードに入ったら、ヒかない自信がない。
できる事ならまぁまぁ粗野でも、今くらいのスタンスでいてくれた方が、俺の精神衛生上はめちゃくちゃ助かる。
ま、この分なら大丈夫だろうけどな。
腹部の痛みと引き換えに、その時俺は、ちょっとした安堵感を得たのだった。




