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俺は、その日家に帰ってから色々と考えた。なぜおばあちゃんが俺にそんな大切な事を話すのか理解が出来なかった。別に俺じゃなくてもいいじゃないか。多分俺が継いだらろくな店にならないと思う。もし他にいい人がいないのならもういっそこのまま店を閉めてしまったほうが良いのではないかとさえ思える。
俺はどうして良いか分からないままその日は学校の宿題をやって飯を食って風呂に入って寝た。
次の日、学校で「将来の事について考える」という授業をした。その中で俺は珍しく少し真面目に将来の自分について考えてみた。今の俺は将来なりたい職業とかやってみたこととかが、全くない。俺の周りの友達は最近になってから「俺は絶対専門学校に行って美容師になる!」とか「俺、将来やりたいもの見つけたわー。」なんいて言うのも増えてきて皆それにむかって一生懸命勉強している。しかし、俺はなにも見つけていない。今までは別に将来の事なんてどうでいいではないかと思っていたが、もしこのまま何も見つからないまま受験シーズンに入ったらどうしよう。そんなとき頭の中に昨日のおばあちゃんが行った言葉が浮かんできた。
もし、だめでもせっかくの機会なんだし・・・。少しだけでも頑張ってみようかなと思えてきた。
その日の放課後俺はおばあちゃんに会いに川西工房へ行った。
「こんにちはー。」
いつものように店の中に入ると
「あらーこんにちはー。」
いつものようにおばあちゃんが出てきた。
「あの、昨日のことなんですけど。」
「もう、答えをもらえるの?もうちょっと考えてもいいのに」
「いや、あの、答えという訳でもないんですけど。少し俺なりに考えたので聞いてもらえたらなと・・・。」
「そうなのね。いいわよ、何でも言ってちょうだい。」
「俺、まだ将来の夢とか、なりたい職業とかやりたいこととか全然決まってなくて・・・。」
「うん。」
「それで、何かやりたいこととか見つけなくちゃなと思って、その第一としてここを継ぐと言うのもありかな・・・と・・・。」
「ふーん。」
「あ!あの別にすごい軽い気持ちでやってみてだめだったらすぐにポイッ!みたいなことはしませんよ!なんかすごい失礼な言い方をしてすいませんでした。」
俺は頭を下げた。もう少し言いたいことをまとめて来るべきだった・・・。
「そーなのね。ありがとう考えてくれてそれなら、あなたに継いでもらうわ!」
「こちらこそ、なんかありがとうございます。」
「それで、言っておきたいことがあるんだけどいいかしら?」
「はい・・・。」
「あのね私、最近体調が悪くてねもし悪化したら入院しないといけないかもしれないの。」
「え!」
「だからね、出来るだけ早くここの仕事をあきちゃんに教えて起きたいの私も早く安心したいしね。」
「・・・・・。」
おっとりした口調で言うおばあちゃんに俺はなんて返して良いか分からなくなってしまい、下を向いていると
「そんな大したことじゃ、ないから大丈夫よ。」
とにっこりと笑った。
「ほら、今日もあきちゃんが好きなあんパンあるわよ。今日は特別にサービスでこれあげちゃうわ。はい。」
おばあちゃんは俺にあんパンを差し出してきた。
「え!良いんですか俺これくらいなら払えますよ。」
「いいの、いいの。」
「あ、ありがとうございます。」
俺はありがたくあんパンをもらった。