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パン  作者: 山桜 笛
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「おいしい」

 ここのパンには、いつも助けられている。パンに人間を助けられる力があるわけがないだろ。と思うかもしれない。しかし実際、あるのだ。紅葉のおばあちゃんが焼くパンにはあるのだ。

 俺、中原明彦(なかはらあきひこ)はまだ高校3年でバイトも特にしていないから一年中金欠だ。小遣いはテストで良い点を取った時ぐらいしか貰えない。そんな歳して子供っぽいと言われるかもしれないがしょうがない。小さい頃からこれが普通だ。俺の家族、中原家は人付き合いが、ひどく苦手な人しか居なくお年玉をもらえる人も両親以外にはいないというわけだ。俺には特に友達もいないので人間関係で金に困ることはないが。こんな俺だって腹は減るのだ。育ち盛りの青年が、学校からの帰り道なにも食べずに家にたどりつけるはずがないだろ。誰でも理解できることだ。と、思っていたがどうやら俺の親はその「誰でも」の中に入っていないようだ。学校帰りに腹が減るからその分の金をくれと言うと、両親そろって

「そんなもん買うんだったらおまえに小遣いなどやらん。そのぐらい自分でバイトでもして稼げ。」

 という。

 普通なら「そりゃ 困るな、ほれ。」と軽く会話をして渡してくれるはずの物をくれないのだ。

 そんな年中金欠少年の味方なのが紅葉道りにあるパン屋「川西工房」だ。とにかく値段が安い、それに甘さが控えめで全然飽きない味だ。パンの種類は少ないがもう八十になるぐらいのおばあちゃんがやっているのだから文句は言えない。

 その日の帰り道も俺は「川西工房」へ来ていた。今日買ったパンはここに古くから受け継がれているという(本当か知らないが。)あんパンだ。

 あんパンは俺の中で今大ブーム中で、もう今日で2週間ずっと連続で食べているかもしれない。

 そんなことを考えながら、店内の隅に置いてある古びた椅子に腰掛けて黙々とあんパンを食べいると、店の奥からおばあちゃんがでてきた。

「あんパンなんて今時、好んで食べる若者も少ないから嬉しいわ。あきちゃんみたいな人がいて。」

 おばあちゃんは俺のことを「あきちゃん」と読んでいる小学生の頃は何も思わなかったがこの年になってくると違和感がすごいある・・・。でも、いまさら「あのーその呼び方やめてくれませんか」なんて言えないのでそのままになっている。

 俺はあんパンを頬張りながらおばあちゃんの顔を見た。ちなみに、この椅子はお客が座って良いのかは、分からないがおばあちゃんはいつもの事のようにそこには触れてこない。

「そうですかねーここのあんパンだったら誰でもおいしいって思うんじゃないですかね―――」

「そうかしら ふふ。」

 この人は昔よんだ絵本にでてきたすごく優しくて穏やかなおばあちゃんによくにている。

「今日 学校で何かあったの? なんかいつもより顔が暗いわよ。」

 心配そうに顔を見てくるおばちゃん。俺はなんだか恥ずかしくなって俯いてしまった。

「いえ 別に何もないですよ。いつもどうりです。あでも―――」

「でも・・・?」

「言うとすれば 宿題がいつもより少し多いことぐらいですかねー まあ それくらいです。」

 俺はごまかすように言った。本当は家に帰りたくないだけだ。家に帰ったら両親が勉強しろ。勉強はどした。高校生は勉学に励め。そんなことしてる場合じゃないだろ。と口うるさく言ってきて、最近それが原因と思われる胃痛に襲われている。

「そうなの。何かあったらすぐにおばちゃんに相談してみな。」

 すごく優しい笑顔と声で言った。おばちゃんは俺が小学生の時からずっと構ってくれていて、多分俺を孫か何かと勘違いしてる。いつもおまけで飴をくれたりあるときは勉強を教えて貰ったりしている。とにかくいい人だ。

「はい。ありがとうございます。」

 そんな話をしているうちに俺の手の中にあったあんパンはなくなっていた。

俺は椅子から立ち上がって店を出た。

外はもう薄暗くなっていて携帯で時間を確認すると午後の六時半をまわっていた。まだ十月の半ばだが日が短くなったなと感じた。

 紅葉道りは田舎のわりには人が夜おそくまで集まるところで、この時間だとまだおばちゃん達が立ち話をしていたり俺と同じように家に帰るのであろう学生の姿もある。俺はスマホにイヤホンをさして好きは曲を聴きながら帰ることにした。


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