たったひとつのねがいごと 【絵本】
前回の『メリサンド姫』の中で、王様は願いごとをひとつ、名付け親の妖精から贈られていました。
今回紹介する絵本も、ひとつのねがいごとにまつわるお話です。
モリーは五人きょうだいのお姉さん。
ある日風邪をひいたお母さんの代わりに、晩御飯のお魚を買いに市場へと行った帰り、モリーは妖精のお婆さんに出会いました。
お婆さんは、モリーが今晩食べる魚から見つかる骨は魔法の骨で、ひとつだけねがいごとを叶えてくれるから、大切にとっておくように教えてくれます。
小さな弟や妹たちは大興奮して、ことあるごとに魔法の力に頼ろうとしますが、モリーは知恵をつかって解決し、本当にかなえたい願いごとが見つかるまで魔法の骨はとっておくことにしました。
モリーは何を願うのでしょうか。
バーバラ・マクリントックの『たったひとつのねがいごと』は、ディケンズの "The Magic Fishbone" を元に描かれた、とてもかわいらしい絵本です。
さて、この絵本の特徴は、主人公のモリーをはじめ、登場人物がみんな擬人化された動物だということ。
もっとも、なぜか兎と馬に蛇は(それと魚や牡蠣も)動物のままですが。
主人公のモリーとその家族、それに妖精のおばあさんは猫です。
他にもライオンやキリン、蛙に鴉、ワニなども立派な服を着て街中を歩いていますが、自分は中でも最初のページで葉物野菜を(キャベツかな)売っているタコのおばさんが特に好きでした。
実はこの絵に一撃されてこの本を買ったといっても過言ではないです。
まあ、お話には一切絡んでこないここだけの端役なんですけどもね(笑)。
動物の擬人化された絵本は沢山ありますけど、行き過ぎている物や、毛の描き方などがのっぺりとして動物っぽさが感じられない画風が多い中、マクリントックさんの描くそれは擬人化の匙加減が非常に上手く、画風も作品に合っているなと思いました。
私がはじめて読んだのは12年の1月5日のことで、二年以上が経過しているのですが、その印象は薄れることなく、しばしば思い出されました。
そして今回、これを書くためにもう一度読み返したのですが、やはり素敵な絵本です。
すでに書いた通り、これはディケンズのThe Magic Fishbone(邦題:魔法の魚の骨)を元にした絵本です。
本の帯にも「英国の作家チャールズ・ディケンズのお話をもとに描かれた、心あたたまる絵本」と書かれています。読みはじめてすぐに気づいたのですが「やられた、これを持ってきたか」と感じました。
改めて原題を確認すれば、"Molly and the Magic Wishbone"と内容に即しながら、なおかつソースをもじった愉快な名づけではありませんか。
登場人物の服装や生活、街並みがヴィクトリア朝を思わせるのも、納得です。
しっとりとした色遣いが舞台に合っています。
それに、むしろ原作よりも面白い仕上がりです。
ディケンズの原作は邦題「魔法の魚の骨」として、
『ヴィクトリア朝妖精物語』と『妖精文庫2 黄金の川の王さま』に、それぞれ風間賢二、牧嶋秀之訳で収録されています。
こちらは毒があるというかディケンズらしい皮肉の利いた徹頭徹尾に妖精物語をパロッたナンセンスな物語で、明らかに変な設定や超展開にオイオイとつっこみながら楽しめる小品なのですが、惜しいかな「え? そういうオチ」というちょっと竜頭蛇尾な終わり方をしているのです。
また翻訳ではないですが、燃焼社の『少女たちの冒険 ヒロインをジェンダーで読む』という本の中でも、男性が書いた少女を主役とする御伽噺の一例として「魔法の魚の骨」は取上げられていたりします。
評価はなかなか辛いですけどね。
そして、これを書くにあたってあらためて確認したら、『少女たちの冒険』にも前回の「メリサンド姫」は取り上げられていました。参照しておけばよかったかもです(笑)。
ちなみに、ウィッシュボーン(Wishbone)というのは、ニワトリやヤマシギなどの鎖骨のことらしいです。
中央で繋がってV字形になっているその骨を、ふたりで両方からひっぱって、折れたとき、真ん中の部分が残っていた方の願いが叶うというお呪いにつかわれるんだとか。
バーバラ・マクリントック(翻訳:福本友美子)
『たったひとつのねがいごと』原題 "Molly and the Magic Wishbone" 。
ほるぷ出版 2011年11月30日。